ハワイとキリスト教〜ハワイ・マウイ島における山火事を覚えて
8月8日未明、米国ハワイのマウイ島で起こった山火事は、100人を超える犠牲者と2200棟以上の建物の損壊をもたらし、山火事による米国内の被害としては過去に類を見ない大災害となった。特に被害が集中したラハイナ地区はハワイ王国だった時代の首都としても知られ、多くの文化施設や宗教施設、史跡、などもこの火災で焼失。カメハメハ2世をはじめ、ハワイ王国の君主が埋葬されているマウイ島最古のキリスト教会「ワイオラ教会」も炎に包まれたという。
ハワイというと、キリスト教というより自然信仰や土着信仰のイメージを持つ人の方が多いのではないだろうか。筆者も、ハワイ王国の歴代君主がキリスト教会に埋葬されていたということを知って驚いた一人だ。
確かに歴史的に見れば、ハワイは自然崇拝による多神教を崇める時代が長く、実際、こうした自然信仰に基づいた「カプ」と呼ばれる絶対的な戒律によって、当時の社会生活は営まれていた。しかし、かの有名なカメハメハ大王(2世〜)によるハワイ王国の国づくりは、こうした土着信仰が築き上げてきた秩序や規範をあるいは権力構造といったものを否定し、プロテスタンティズムによる社会統制を目指した。結果、立憲君主制の成立や教育水準の飛躍的な高まりなど急速な近代化が進むことになった。しかし、その一方で、ハワイの伝統的な文化は断絶、やがて王政も立ち行かなくなり、1900年ハワイは米国領の1部として歩むこととなる。1820年に米国の宣教師がハワイに訪れてからたった80年後のことである。
こうしたハワイの意義深い歴史や文化も灰燼に帰してしまった今回の大火災。一刻早い現場の復旧・復興と住民の方々の平安を心から祈るとともに、焼失を免れた文化遺産を今後どう守っていくべきなのか併せて考えていく必要もある。
(text しづかまさのり)
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