「ひよっこ」に学ぶ 「食うため、生きるため」誰もが必死だった

 「食うため、生きるためにやってきたから、他に出来ることがなくて」

 NHK朝の連続テレビ小説「ひよっこ」で7月26日、みね子(有村架純)の働く洋食屋に、客として訪れた俳優の川本世津子(菅野美穂)が漏らしたセリフだ。会計を済ませた帰り際、素晴らしい仕事をしている、と褒められて答えた。

 この言葉に、みね子は、はっとしたような表情を見せる。

 そう。みんな結局は「食うため、生きるため」に必死なのだ。みね子も、川本も、みんな。

 どんな仕事だって、誰もが、一生懸命に働いている。まさに職業に貴賤はない。周囲からすればどんなに華やかな世界でも、どんなに厳しそうな業界でも、当人にとっては同じこと。働く場はそこしかないのだ、「食うため、生きるため」に。

 しかも、俳優のようにキラキラした(と、はたからは見える)業界にいてすら、川本は「他に出来ることがない」という。何でも持っていて、何でもできそうに見える俳優の川本ですら、「他にない」とは。

 みね子は自分が何もできないと思っているが、でも店員の仕事はきちんと務めている。工員時代もまじめに働いていた。

 働くことのスキルなんて、そんなものだ、ということだろう。俳優は俳優というスキルを持ち、店員には店員の、工員には工員のスキルがある。それぞれに、それ以外の仕事のスキルはない。だがそれはそれでいいんじゃないか?と、脚本・岡田惠和が問いかけているように感じる。

 目の前の仕事だけ一生懸命していたら、それがスキルとして認められて収入になり、生きていけた昭和のあの頃が、平成の働き手にとっては、ちょっとだけ羨ましい。現代は、一つのスキルだけでは良しとされず、多様なスキルを開発することが求められ、生涯現役を目指さなければならない時代だから。(一つのことだけに縛られず、いろいろと多方面に手を出すことが許される時代、とも言えるのだが。)

(2017・07・26、元沢賀南子執筆)

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