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今日の読書 #12 "持続可能なキャリア -不確実性の時代を生き抜くヒント-" 北村 雅昭

ざっとどんな本?

  • 持続可能なキャリアとは「仕事を通じて幸福・健康・仕事成果の3つをバランスよく実現することが良いキャリアにつながる」と考える、キャリア研究の新たなパラダイム

  • 持続可能なキャリアが提唱された背景のひとつに、キャリアにおける時間の変化がある

    • ひとつは、仕事のサイクルの短期化。変化がすぐに来る。
      それが読めない

    • もうひとつは、働く期間の長期化

  • 持続可能なキャリアには、キャリアアダプタビリティとキャリアアイデンティティが重要になる。特に不確実性が高まる中では、アイデンティティが重要である

  • 自己概念に、確実性や時間軸を含めた考え方を心理学研究から取り入れ、拡張的に考えた。

    • 可能自己

      • 希望自己、予期自己、不安自己

    • 暫定自己

    • 仕事における未来自己

  • キャリアアイデンティティを考えることで、不確実な未来に向かって自律的にキャリアを構築していくことができる

学んだこと

キャリア理論の系譜が簡潔に理解できる

「持続可能なキャリアは新しいパラダイムである」という主張に至る中で、従来のキャリア理論の系譜を簡潔にきちんと記述されている点が非常によかったです。僕のような未熟者は、こういった整理された情報に触れることが貴重な体験になります。
第1章、6節では、「持続可能なキャリアのバックグランドとなる理論」が示されています。Hobfollの資源保存理論、Baltesの選択最適化理論、RyanとDeciの自己決定理論がわかりやすく紹介され、かつ、文献がすべて示されているので、自分の学びの次のステップがイメージできました
アカデミックの世界では当たり前のお作法なのでしょうが、文献の参照は学びを高効率にしてくれるので、本当にありがたいです。

自己概念の新たな切り口

Superがキャリアに発達論を持ち込み、キャリアにおいて自己概念が中心的存在になったことは理解していましたが、自己概念そのものを「自分らしさ」とか「価値観」とかいった言葉でなんとなくわかったつもりになっていたことに気づきました。
MarkusとNuriusが提唱した可能自己といった考え方や、Ibarraの暫定自己を(さわりだけ)知ることができました。
自己概念というと、確定的で、かつポジティブな文脈で語られるものだというイメージがありました。例えば、「自分は◯◯を達成したいと思っている」というような表現です。しかし、可能自己や暫定自己は、自己概念がそれだけではないことを示してくれています。
これはキャリア面談においても役に立つと思いました。信念を持って立派な「ありたい姿」を言わねばならない、と思い込んでいる(思い込ませてしまっている)クライアントとの対話の中では、活用したいと思います。

疑問に思ったこと

新しいパラダイム、 と呼ぶほどのものなのかが分からない

そこまでのものだとは感じることができませんでした。これは、浅学の僕が言ったところでなんの重みも持ちませんが、一読者の意見です。
キャリア理論やその周辺での新しいパラダイムというと、前述のSuper(特性→発達)、Rogers(クライエント中心)、Hall(組織主体→個人主体)でしょうか。

とはいえ、自己概念に時間軸を付与したことはすごく意味の大きいことだと思います。また、持続可能性を考えることで、資源の文脈を持ち込めるようになることも、今までになかった切り口だと思いました。

未来自己だけが、なぜ「仕事における」が付くのか?

可能自己、暫定自己、未来自己の中で、未来自己だけが「仕事における」が枕詞としてつきます。なぜこれだけ? という疑問が解消されませんでした。
将来が不確実だからこそ、仕事を含めた中で優先順位をつける必要があります。自分の人生で大切にすることは何で、それはどんな自分なのかが未来自己なのだと考えています。将来を「仕事」だけでフィルタしてしまうことは、キャリア構築において望ましいことではないので、「仕事における」の言葉が気になりました。
疑問を自力で解決するためには、紹介されている組織行動論の分野の「プロアクティブ行動」、Parker, Williams & Turner, 2006や、「能動的キャリア行動」を理解する必要がありそうです。

考えたこと、考えること

社会構成主義が言及する「対話」がキャリア構築においての要

自己そのものは、社会関係性の中に存在しています。不確実性が増す中で前に進んでいくためには、しっかりとした自己を持つ必要があります。自己をより確信的にしていくためには、自己の意味づけを強化する対話が必要です。
一人の人間として、またキャリアコンサルタントとして、その必要性をさらに強く感じました。
この部分についての理論補強と、それに基づく実践行動が今後の課題です。あまりSavikasを勉強してこなかったですが、やらないといけないと感じています。

キャリアコンサルタントは編集者たれ

キャリアコンサルタントは何をする人か?という問いは、いつしても価値がある問いだと思っていますし、そのたびに答えが変化していきます。

前述の社会構成主義をバックグラウンドにしたキャリア理論は、Savickasです。Savickasといえば、ナラティブ・アプローチです。
クライアントの自己概念の成長のために、クライアントとの対話を通じて、その物語を編集する役割をキャリアコンサルタントが担えたら素敵だな、と思いました。

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