テンセント vs アリババ(EC・小売・決済 3本勝負) 第1回:EC

中国のITの巨人、時価総額世界5位のテンセントと8位のアリババ。この規模でなお、ものすごいスピードで成長を続けるこの2社は、この数年多くの分野で重なり、ときには衝突をしてきました。
AIはもちろんのこと、ニューリテールと呼ばれるITと小売の融合といった場など、実に多くの分野でトップ争いをしています。
この2社の動向を理解しておくことは、中国の未来を理解するといっても過言ではありません。そして、今の世界経済の大きな変化の中で、中国は確実に注目しておくべき国と既になっています。

これから三回に分けて、EC、小売(リアル店舗)、決済の3つの分野に注目し、各分野を理解していきたいと思います。
今回まずは、ECから見ていくことにしましょう。

アリババのミッションは「世界中の商売をしやすくする」というもの。創業者のジャック・マーは、個人や中小企業のビジネスをインターネットによってやりやすくすることを考え、さまざまな講演でもこれからはCtoBの時代となる。そして、スマートフォンで買ったものが、世界中どこでも3日で届く世界となる。ということを言っている程、企業のベースは人々の「商売」というところにあります。
そのため、アリババはBtoB、BtoC、CtoCの全てでNo.1のサービスを提供しているのが大きな特長です。それぞれ見ていきます。

■BtoB: Alibaba.com →ほぼ一人勝ち。
今は巨大なアリババも、最初は18人のメンバーで企業向けのBtoBサイトのAlibaba.comからスタートをしました。
時は1999年。BtoBにおいて、まだWEBの活用が一般的ではなかった頃に、世界中のバイヤーと中国の企業を繋げるサイトを創り上げました。
世界の工場として、中国の製造業がどんどん海外へ販路を広げていくタイミングで、利用料無料で開始しました。
利用者には課金をせず、収益を一切上げずに初期はひたすらに突き進み、途中からはゴールドサプライヤーというもので認証を受けた企業は年会費を払う、という仕組みを導入し、一気に収益化を果たしました。
現在は基幹事業ではないものの、このBtoBの分野に関してはアリババの独占状態となっています。


■BtoC: Tモール →アリババの勝ち。ただしテンセントが猛追。
昨年もアリババがプロモーションする11月11日の独身の日の3兆円近い売上が話題となりましたが、この分野でもアリババの圧勝。
アリババは自社でTモールを運営しており、日本でいえば楽天市場のようなモール型であるのが特徴です。(ただし、規模は楽天とは比べ物にならないくらい違いますが...)
Tモールは各企業が出店する場を提供しているため、アマゾンのように自社で在庫をもつような直販の形態とは異なります。

下記に2016年のデータを抜粋。
1位は天猫(Tモール)、2位京東(JD.com)となっており、中国のECはこの2強であることがわかります。

出典: https://www.ebisumart.com/blog/chinaec-best10/

日本では楽天市場の2016年の取扱高が3兆円であることから、中国でのEC利用度の高さ、また天猫(Tモール)と京東(JD.com)の規模の大きさが良くわかることと思います。

JD.comはあまり聞き慣れない方も多いと思いますので、ここでちょっと立ち止まって見てみます。
JD.comの始まりは2004年。京東多媒体網というPC機器のネット販売事業として、北京でスタート。その後取扱分野を広げ、2014年にはテンセントと戦略的な連携をしました。
テンセントはBtoCのECをもっていないことから、WechatユーザーをJD.comへ送り、打倒アリババとして積極的に支援しています。(テンセントが20%の株式を保有し、ウォルマートは10%を保有しています。)
また、同時にバイドゥとも提携し、アリババ vs テンセント& バイドゥという、敵であるはず同士の巨人が手を組んで、巨人に立ち向かうというなんともスリリングな展開がされています。
JD.comはモール型でありながらも、自社倉庫をもち、直販も行っているのが特徴です。差別化を図るべく、圧倒的な配送スピードを誇っています。オーダーの70%が当⽇あるいは翌⽇納品というスピード感で、大都市では自社の配送網を作り、当日配送も可能にしています。

【利益率について】
アリババは高成長を続ける会社でありながら、高い利益率もキープしており、これだけの規模でありながも営業利益率は30%を超えるという、なんともすさまじい会社です。当然のことながら、稼ぎ頭の一つであるTモールでも大きな利益を生み出していると推測されます。

一方、JD.comはガンガンと投資を続けていくフェーズであり、テンセントらも昨年末には1000億円近い投資をしています。今は赤字の状態であり、それを許容してとにかくシェアを上げていく、シェアを高めた後に利益を上げていくという方法でパワープレイを展開しています。

業績に関しては、下記リンクから詳しくみることができます。
【アリババ】https://www.stockclip.net/companies/3618
【JD.com】https://www.stockclip.net/companies/8320

上記で書いたように、現時点ではアリババの運営するTモールが圧勝なのですが、テンセントをバックに持ったJD.comがシェアを高めて追い上げをしているため、まだまだアリババ安泰とは決して言えない状態です。あと5年もすると、状況がはっきりと見えてくるのではと思っています。


■CtoC:タオバオ →アリババの一人勝ち。
このマーケットにおいてタオバオのシェアは80%以上という、アリババの独壇場です。
中国には多くの自営業者がおり、そうした業者が出品するのもこのタオバオです。厳密にはBに区分けされそうなのですが、彼らのような小規模な企業はこのCtoCサイトのタオバオを主に利用して、一般ユーザーと同じように出品するようになっています。


まず、EC分野から見てみましたが、この分野では全てを揃えるアリババが断然強い立場にいることがおわかりになったことと思います。
注目すべきは、さらにまだまだ広がるBtoCの分野において、アリババ陣営のTモールと、テンセント陣営のJD.comとのバトルがこれから加熱していくのでは、ということが見どころです。

補足ですが、JD.comは日本にも支店を構え、つい先日も私もJETROからJD.comのセミナー案内を受け取るなど、積極的に海外に展開をしているようです。

次回は、ITとリアル小売が融合された、ニューリテールと言われる部分を見ていきたいと思います。