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【前編】東京から移住してつくった空間は、時間を忘れて過ごせる「まちの書斎」

千曲市の戸倉上山田温泉でワークスペース&カフェ「CLOUD CUCKOO LAND(クラウドカッコウランド)」を営んでいます古澤楓夏と申します。

私は2020年3月に東京都内より長野県千曲市へ主人と一緒に移住し、一年後に現在のお店を持つことになりました。主人はフリーランスのWEBエンジニアで、東京の仕事をリモートで続けながら長野県内でも活動しています。
お店の一角をオフィスにして、主人はWEB関連の仕事を、私はワークスペース&カフェの店主として過ごしています。

移住に関心がある方やカフェオープンを検討している方、ワーケーションに関心がある方々に向けて、私たちが東京から長野へ移住する決断をした際の様子や、地域の方々の力をいただいてお店をオープンするまでの経緯をまとめてみました。

「地方移住が現実的になってきた」東京で過ごす日々に現れた将来像

私は北海道出身ですが、東京で5年程暮らしていました。満員電車への免疫もついて日々家賃と飲み代を稼ぎ、都会生活を楽しむ毎日のなかで、緑を求めて公園に出向くことが増えてきました。

同僚と「渋谷に行くと翌日くしゃみが出る」なんて話も出た折、綺麗な空気と自然のあるところを求めている自覚が湧いてきました。二十代後半になって、地方出身の友人との間でも

「将来結婚したら、子育ては東京でしたくないね」

「そのうち地元に帰ろうと思う」

という話題が度々出ていました。

同じ頃、いつか自分でブックカフェをやりたいという夢を描いてセミナーに通ったり、お店のはじめ方を調べたりしていました。東京では靴販売の仕事をしており、100万円の売上が出たら150万円を目指せ!という世界にいました。仕事は大好きで楽しんでいましたが、

「そんなに靴が売れて世の中に良いことあるかな」

という疑念から、沢山売るなら本がいいと思い至りました。カフェも好きなのでブックカフェ。そしてそのうち自分のお店を、と考えているうちに家賃の高い東京で開業するのは難しい、地方なら可能性はあるかもしれない、と地方移住の文字が頭の中で大きく、よりくっきりと見えてきました。

求めていたのは都市生活における仕事と、自然を日常的に体感できるバランス


まず思い当たるのはUターン、即ち北海道へ帰ることを考えました。同棲中だった東京生まれ東京育ちの主人に言ってみると、北海道は遠すぎるとのこと。巷ではリモートワークという言葉が少しずつ聞こえてくるようになってきた頃でしたが、主人の勤めるIT業界でもまだそれほど市民権を得てはいないようでした。パソコン一台で完結するように見えるWEBエンジニアの仕事でも、コロナ禍前では対面での打ち合わせが基本であり、延いてはフリーランスの彼にとって“飲みにケーション”もあながち馬鹿にはできない仕事の要素でした。ただし、東京にこだわることもなく、地方移住自体は前向きに考えることになりました。

まだ具体的なタイミングも決めておらず、そのうちにという感じで一度は考えを放置していましたが、ある日私は「長野はどう?」と思いつきました。長野には何度か旅行に行った程度。あとは父が訪れた際に気に入っていたのを僅かに覚えているくらいでした。「長野、よさそう」というイメージだけで行動を開始しました。さっそく主人と銀座NAGANOへ行き、二階の移住相談コーナーへ。そのとき対応いただいた自治体の担当者さんは、私たちからすると高齢で、お話を聞いていてもリタイア世代の移住事例が多く、ピンとこないまま終わりました。当てが外れた感じでしたが、後日また移住相談会へ。私は仕事の都合で行けずに主人一人で行って来てもらいました。そこで出会ったのが千曲市のふろしきや田村さんです。

「移住相談会、どうだった?」

と聞いて返ってきたのが

「千曲市ってところがいい感じだった」

という言葉。全く聞いたことのない名前に少々戸惑いつつも、私は持ち帰ったパンフレットを見て、新幹線や高速道路で東京へのアクセスがいいこと、生活に不便がなさそうな街であること、自然が身近にあり、あんずが名産品であることなどを知りました。
正直、メリットはありつつも“普通の町”という印象でしたが、主人の要点はそこではなく、若くしてその地に移住し、自分で新しいことに挑戦しながら暮らしている方に会ったということでした。

全国的に有名な土地でもなく、人口6万人程度の小さな町で、言わば都会的なビジネスを起業して地方移住生活と両立させている現役世代の方が実際にいるということは、私たちにとって大きな安心感と希望を与えてくれるものでした。

老後の生活、農業やその地の一般的な企業に就職、山奥で自給自足などということでもなく、都市生活における仕事の面と、自然を日常的に体感できる環境のバランスがとれる生活こそ、私たちの思い描いていた理想の地方移住でした。

地域での暮らしをイメージする中で出会った、働き方の可能性「ワーケーション」

川辺

これは良い出会いだと思い、私たちは2019年6月に初めて千曲市を訪れました。移住相談会にも来ていた市役所の担当者さんに車で市内をぐるりと案内してもらい、地元の酒蔵でお話を聞いたり、あんずの里の直売に行ったり、スーパーに行ってみたり、姨捨駅からの眺望を体験したりと、生活圏内の多様な場所を見て回りました。
車でまわれば一日で、市街地から温泉街、絶景ポイントまですぐに着く場所です。

地方出身の私はまとまった住宅地や大型スーパーを見て、十分に便利な生活をおくれる実感が湧いてきました。東京の生活では、いくら都心に近くても食料品の買い出しに片道10分以上、徒歩で重い荷物をもって帰るのが大変でした。スーパーも数は多いが小規模です。市内見学で行った長野県のご当地スーパー“ツルヤ”がテーマパークに見えたほど。
ビジネスが中心の大都市と比べて、あくまで生活を中心にした小規模な町では、かえって都会より便利なところもあります。

この時田村さんとも再会し、私は主人から聞いていた“移住者の先輩”に初めてお会いすることになりました。活動的に仕事をする起業家精神と、おおらかでのびやかな風采を併せ持つ田村さんは、千曲市への情熱をにじませながらも本当に親身に相談役になってくれました。実生活の細かな質問から事業のことまで、生きた情報を先輩から直接得ることができ幸運でした。話をしているうちに、オープンに夢が語れる雰囲気に押され、気付けばブックカフェをやりたいという話を打ち明けていました。

最初の見学から数か月後の2019年10月、第一回千曲市ワーケーションのお誘いを受けて、二度目の千曲市訪問を兼ねて主人が参加することになりました。ワーケーションという言葉を聞いたのはこの時がはじめてだと思います。私は仕事の都合で行けませんでしたが、移住したらリモートワークが中心となる主人にとっては見逃せないテーマだったと思います。遊びなのか仕事なのかわからないけれど、観光客でも住民でもない新しい発想の地域体験に、移住相談や移住体験では欠けていた何かが見出せるのではないかと感じました。

テラワーク

デスクに向かうばかりでなく、山の上、河原と景色を変えながら、地域全体を使ってリフレッシュできるような環境に身を置く実践ができたのではないかと思います。千曲市ワーケーションではレジャー感覚で過ごす時間と、地域住民と交じり合って体験する町を、仕事がある日常の延長に据えてぐっと身近なものにする機会を得ることができるのだと思います。
ワーケーションがあったことで、千曲市ならではの働きやすさをイメージする土台ができていたと言えるかもしれません。

自然あふれる心地よい環境への期待、台風19号で感じた自然への恐怖の中で出した答え

主人が荒砥城での“城ワーク”に参加した翌日、台風19号が長野県を直撃しました。無事に東京へ帰ってきましたが、その後千曲川氾濫のニュースを聞くという事態となりました。私たちが実情を目の当たりにしたのはおよそ一か月後でした。千曲市は大丈夫だったのだと勝手に思い込んで、住宅探しの下見に行ってみようと再訪した時のことでした。

まちなみ

2019年11月、千曲市内の戸倉上山田温泉に宿をとって不動産屋さんに下見に行きました。駅から千曲川を挟んで反対側の温泉街へ向かう大きな橋を歩いて、川の上に通る風の気持ちの良さ、抜けるような青空に紅葉した山々の景色を全身で味わい、「毎日こんな場所を散歩できたら最高だね」ととても気に入ってしまいました。
こんなに気持ちのいい場所と、温泉街までもが住宅街から歩いて行ける距離にある、こんなところがあったのかという思いでした。

しかし、河原をよく見ると台風の爪痕が痛々しく残っていました。
流れてきた木が積みあがっている場所や、おそらく増水で破壊され地面に大きな穴が開いた公園など、荒れた河岸を前に“被災地”という言葉が私たちの脳裏に浮かびました。
自然が身近にある心身に快い環境での新生活への期待と、自然災害という現実への不安両面が同時に膨らんだまま、不動産屋さんへ足を運びました。

賃貸物件をいくつか紹介してもらいましたが、二人暮らし向けの物件はあまり多くないようで、「下見をしてもいつ埋まってしまうかわからないからあまり意味がないよ」という雰囲気でした。
それでも引き下がらずに戸倉駅近くの建設中の新築マンションを見に連れて行ってもらいました。すると、駅もスーパーも近く温泉街と景色がきれいな千曲川の橋まですぐのところに物件があることがわかり、この立地条件は逃したくないと思ってしまいました。
私は「ここに決めてしまおうか」と思いましたが、主人は災害のことが気がかりで、そもそも千曲市への移住を決めていいのかという迷いが生まれていました。私たちは一旦食事に出て、あれこれと話し合い、ほとんど私が押し切った形でしたが物件の契約を決めました。
私は日本全国この先災害リスクを完全に回避できる場所などないだろうし、生まれたところは選べなくても大抵好きなのだから、住むところも偶発的に選んでいいという考えがあり、千曲市とのご縁をこのまま育ててみたいと思っていました。

カフェオープンの様子が分かる、後編はこちら

「CLOUD CUCKOO LAND(クラウドカッコウランド)」
〒389-0821 長野県千曲市上山田温泉二丁目31-3
https://cloudcuckooland.jp/

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