彼女のやさしさ
優しい言葉をかけると、植物はその声にこたえるようによく育つ。
彼女はいつもそう言って、アロカシアからサボテンまで衝動買いをした植物に声をかけていた。
「大きく育ちなね」
「土はまだ湿っている?大丈夫?」
ぼくはその彼女のやさしさが好きで、仕事で疲れて帰ってきたとき、同じように迎えてくれることが幸せだ。いたわってくれているのか水を差し出してくれるのだけど、いつもそこまでしてくれなくていいからと断る。なんせ、それはなんとなくぼくのことを植物と同じように見ている気がしてしまって、情けなく思えてくるからだ。
でも、ぼくはそのやさしさが少し怖いのだ。
もし彼女が植物に声をかけることの意味を知っているとするならば、途端に人間らしい性質を純粋な顔をして振り回していることになる。それはやさしさではなく、わがままだ。きれいなものを見たいという彼女のわがままなのだ。
だからぼくは水を受け取ることができない。信じていないわけではないけれど、彼女が悪い意図をもってぼくに水を差しだしているのだとすれば、それに応えるわけにはいかない。
ぼくは試されているのかもしれない。
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