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フリッパーがはばたけば

「彼らの翼はフリッパーと呼ばれ、水の中で泳ぐときに使われるヒレとしての役割を持ちます。二足歩行で歩いているときはバタバタさせて、腹ばいになったときは足で地面を蹴るようにすることもあります」

 スピーカー越しに聞こえるお姉さんの声は、楽しそうだった。
 もう小学校だって二年もすれば卒業するんだ。だからもうこういうところが楽しいとは考えていなかったのだけど、悪くない。そう思って見て回っていると、いつの間にか家族がいなくなっていた。夢中になってしまう家族の気持ちのわかるのだけど、もうすこし大人になってくれたらと思う。

 立ち止まっていても仕方ないから、何となく見て回りながら、家族を探すことにした。この水族館は順路が決まっているから、このままいけば必ず追いつくことができるんだ。

「腹ばいになって移動することをトボガンと言います。かわいらしいですね。そこの角を曲がってみましょう。今年出来上がったばかりの、上も水槽のトンネルがあります。ペンギンたちが空を飛ぶ姿を見ることができるので、是非とも見ていってください」

 ぼくは案内されるままに、そのトンネルまで足を運んだ。ペンギンは空を飛んでいた。それは、いつか夢に見たような景色だったと思う。彼らが飛びたいと思っていて、ぼくも飛んでほしいって思ってたんだ。もし、ガラス板一枚を隔てた彼らもおんなじ気持ちでいてくれたら、そうならばとっても気持ちがすっとするんだ。

 だから、スピーカーのお姉さんにはペンギンたちにインタビューをして、彼らが放った言葉をこちらに教えてほしい。マイクを近づけて、質問を投げかけて。たまに餌だって間違えてくわえてしまうペンギンだっているだろう。

「まいごのお知らせです」

 トンネルを抜けたところで、天井のからそうやってぼくの名前を呼ぶ声がした。それは丁寧ではあるのだけど、呼吸が荒いのかところどころ息を吸ってはいてとしている音が聞こえてきている。どっちがまいごになるのかは分からないけれど、ぼくは小さな冒険だとしても、せいせいとしているものだから、仕方なくそこへと向かった。


ご清覧ありがとうございました。
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