見出し画像

たかくて、やすくて、


「随分高そうなところに住んでいるね」

彼はそんなところに敏感だ。ここは安い。ここは高い。そんなことを価値基準に置いていて、感情の波を引き立たせるも削いでしまうもごく簡単なものだった。

「ここは階数によって値段はないよ。上であるときはそりゃ少し鼻が高くなる人もいるけれど」
「あるとき?」
「何のために呼んだと思うの?おたのしみだよ」
「少しくらいヒントをくれたっていいのにさ」

秘密を知りたいと言わんばかりに食いついてきたけれど、全部あしらってあげた。それはちょっとおもしろかったのはひみつ。

「え、あ、なにこれ。何が起こってる?」

部屋は唸りをあげた。皿にあけていたナッツはカタカタと鳴る。移動しているのだ。部屋はスライドパズルのように動き、上下左右と階を移動し景観を変える。

「なにこれ」

呆然と窓を眺める彼は言葉をもらす。驚いているのはいいけれど、高い安いと言ってほしかった気がする。


ご清覧ありがとうございました。
よろしければこちらもどうぞ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?