本当のトレーサビリティてなんだろう
「里山からコナラスツール」が完成しました。約半年間をかけてみんなで作業してきました、里山広葉樹活用プロジェクトの一つの成果として、「顔の見えるプロダクト」のプロトタイプが完成しました。
今回のプロダクトは、デザイン及び製作を馬場田くんと池内くんのMAR_Uのメンバーが担当してくれました。
馬場田くんは、コナラのペーパーコードスツール。コナラの特性である強度と粘りを活かして、出来る限りフォルムを細くしたスッキリしたデザインになっています。またコナラの表情の重厚感を軽快にするためにペーパーコードの座面を編み透かしにするという工夫もされています。
デザイナー(作り手) 馬場田研吾の視点
馬場田研吾
「林業ではなく森林保全や防災、環境整備などで発生した木材は、その時々によって様々な形、特徴を持っています。ですので、先にデザインを考えてプロダクトを作るのではなく、発生した木材を見て感じたことをベースにプロダクトをデザインすることが、無理のないものになるのではないかと考えました。
今回、木材を見て触って感じたことは1番に「重い」でした。想像はしていたものの、それ以上に重く感じました。そこでは私はコナラの特性でもある強度と粘りを利用した軽いスツールができないかと考えました。座面も透かし編みにすることで見たにも軽快感がでるように製作しました。また、各パーツを細くし直線的にまとめる事で実際に使用する木材を少なくし、小径木でも作る事ができるように考えました。」
池内くんは、組み上げるスツールというコンセプトを掲げ、海外のアンティークやヴィンテージに負けない永く使われるようなシンプルで洗練されたデザインのベンチ&スツールに。また、座面を取り替えて使えるようにすることで、里山の循環を生み出すデザインにもなっています。
デザイナー(作り手) 池内宏之の視点
「デザインのコンセプト:組み上げるスツール
雑木はヒワレや節が多くありました。その箇所を省いて材として使うのではなく、厚みと幅を残して材としての強度、材料ロスを吸収するデザインにしました。
また、座面・脚・貫のミニマムな3パーツで構成しており、スツールからベンチまで座面の幅を変えるだけで展開できる汎用性の高いかたちになっています。
脚が1本折れたなら、その1本だけ取り替え、菌の入ったお気に入りの材がでてきたなら、座面の1本を取り替えたり、少しずつ組み立てる家具は里山の良いサイクルを生み出すのではないかと思います。
海外ブランドのアンティークやヴィンテージ家具が日本では人気ですが、メイドインジャパンのアンティークやヴィンテージとなるような長く使われる、長く使いたくなる家具を作れないかという思いからデザインしました。家具の新しい価値観を作れば、限りある資源を有効的に使う仕組みが作れるのではないでしょうか。」
地域材を使うとことの意味とは、「産地証明書」を発行して補助金をもらうことでも無く、「地域ブランド」の名声を利用して自慢したり、売れる商品量産したりするためのものでは無くて、その地域の山林資源は誰が持っていて、誰が木を伐採して、誰がものづくりをして、誰の手に渡すか、までのトレースをみんなで共有してハッピーになることなんだろうなと思います。なので、この期間の作業はとても幸せな体験でした。
だからそもそもみんなが共有できていればIT化なんていらないのだけど、実際はそうもいかず、その流れが見える化できてないから里山が放置されるので。なので、ITの技術(電子タグ等)を駆使して、川上から川下までを一つのアプリで見える化しようというのが、今回のプロジェクトの趣旨なんだろうなというのが僕なりの解釈です。
どうしても、サスティナブルだとかSDGsだとかが社会的にも認知されるようになって、それがビジネスチャンスとも取れるような動きが出てくると、その言葉による弊害(グリーンウォッシュなんて言われたりしますが)も出てきて、よくも悪くも安易に考えてしまう人々が増えてきます。商品開発や現場の装飾などで地域材を取り入れたいという話が、ここ1〜2年で本当に増えました。ただ悲しいかな、安易に考えすぎていたり、捨てるものを使ってあげる的な勘違いによって、現場の負担や無理が我々の膝下にのっかかり疲弊してしまいがちなのも現実。出てきた成果物や空間には、それぞれの工程をトレースしてきた経緯や想いが見えないからその苦労や大変さが伝わらない。誰が悪いとかでは無く、そらそーよな!の世界。
だからこそ、ITなる技術を駆使して、それぞれの現場現場の臨場感が、スマホやウェブ上で検索できたり閲覧できたりすると、すべての紐付けが一覧できて、この原木があーなってこーなって、こんなデザインの想いが織り込められて、それが今ここにある。っって、なんか感動!みたいなことになるんではないかと。実際に、今回僕は結構「なんか感動!」ってなってる。それには色々な関わってくれた人の手助けがたくさんあって、遠いところからわざわざ手伝いに来てくれた子たちや、力技でグイって動かすことに協力してくれた人々のおかげがあっての想いでもあって。
フィールドをご提供いただいた山林所有者の吉良さん、今津さん、伐採と作道をしてくれた廣口さん、製材の三栄さん、福島さん、実際に材を採用してくれた石丸さん、キクスイさん、ニューミュンヘンさん、パナソニックさん、馬場田くん、池内くん、遠方から調査を手伝いに来てくれたスナさん、ゴローちゃん、そしてプロジェクトチームの皆さん、ありがとうございました&引き続きよろしくお願いします。
調査の経緯を以下にまとめましたのでよろしければご参考ください。今後、我々のプロジェクトチームでは、電子タグ付け調査を行なってみたいという企業や組合、行政機関の方々のご依頼をお待ちしています。
*調査の経緯 <トレース>
1 森林調査及びタグ付け調査
2021年10月23日
森林調査1(毎木調査及び電子タグ付け調査)
場所:兵庫県丹波篠山市不来坂(吉良氏所有林)
参加メンバー:神戸大学黒田研究室、株式会社 andeco、池内宏之、吉良佳晃、荒山亜由美、砂 山亜紀子、シェアウッズ
2021年11月13日
森林調査2(毎木調査及び電子タグ付け調査)
場所:神戸市北区長尾(IMA YAMA)
メンバー :神戸大学黒田研究室、株式会社 andeco、松岡達郎、馬場田研吾、今津修平、石丸耕 平、株式会社キクスイ、株式会社ニューミュンヘン、パナソニック株式会社、シェアウッズ
2 伐採作業
2021年12月2日(11/18現地調査)
場所:兵庫県神戸市北区長尾(IMA YAMA)
参加メンバー:泉州林業、シェアウッズ
対象となるプロットのエリアから伐採する樹木を選定し、伐採した丸太を捌く集積場所を作るため に、平坦な踊り場の下草を刈り取り一時的に丸太を集積する。 さらに搬出可能となる道路付近まで丸太を出すための作業道(今度も丸太を搬出するために出 しやすいアクセス)を作る。
2プロット調査したうちの1プロット(10×10m)の樹木を皆伐し、手入れをしながら実生の樹木育成 を期待する。
3 製材作業
2021年12月15日
場所:兵庫県神戸市北区長尾(IMA YAMA)
参加メンバー:株式会社三栄、シェアウッズ、谷内廉(神戸大学)
プロットから伐採されたコナラのうち5本を選木し、それぞれの用途に応じて製材を行なった。
1 ニューミュンヘン様の新店舗の内装デザインとして、原木4mをそのまま店内装飾として使っ た。(製材は行わず、原木のまま人工乾燥にかけ現場で施工)
2パナソニック様の商品開発用の研究サンプルとして指定のサイズに製材を行なった。
3里山プロジェクトのプロトタイプ成果品として、スツールをデザイン及び製作するための製材を 行なった。
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