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美容院で話しかけられるのが好きではない上で、圧倒された日記。

タイトルが全てだ。

なぜ、キャバクラでもないのに、お金を払った上で見知らぬ人間とおしゃべりをしなければならないのか。

お金を貰っているから、職務としてお話をする必要がある人ならともかく、貴方は美容師だろう。
お喋りな客が来ない限りは、積極的に話しかけなくても良いのだから、互いに体力を温存しようじゃないか。

こちらだって、脳みそと口角の筋肉を同時に使う作業はあまりやりたくないし、話すくらいならば、私の新陳代謝がもたらした結果を淡々と処理してほしい。

ましてや、私のように席についた直後から眠そうな素振りを見せて、わざとらしく目を瞑っている人間に話しかける意味は全く分からない。



ところで、「こちらに話しかけてくる美容師」には2つのパターンがあることはご存知だろうか。

1つ目は、「こちらに質問をしてきた上で、そこから話を広げていくタイプ」である。
分かりやすく言えば「普段何されているんですか~」とか質問してくる人。


一見、普通の会話じゃないかと思われるが、私にしてみれば至極最悪だ。
どうして信頼関係も築けていない人間に、こちらが金を払った上でお見合いの初手みたいな質問をされなければいけないんだ。

「なんでお前なんぞに言わなきゃいけないんだ」と刃向かいたくとも、生憎刃を持っているのは美容師側。

指摘したが最後、不快になった美容師に己の頭皮を正中線で掻っ捌かれて、人皮でできたソファの原料にされ、挙句の果てに私の頭だったものに腰掛けながら、13年モノのソーテルヌを嗜むリスクを背負うのだ。


昔は、あえて嘘をついて「普段はサーフィンとかスポーツしてるんスよ(笑)」とでもカマし、楽しもうと思ったが、肌の色が#FFF8dcのパソコンという名の燃料で育ってきた私では、0.2秒で看破されてしまう。

とにかく、あらゆる意味で最悪だ。

2つ目には「ひたすら自らのエピソードを語ってくるタイプ」である。

常識的に考えてみれば、自分の話を押し付けてくる人間など、バッドコミュニケーションの極みとしか言わざるを得ない。

しかし、私的には、金払ってハサミを持った相手に自分の話をするという、苦行よりかはよっぽどマシである。


なんなら、「世の中にはこんな考えをする人もいるのか!」という学び(とネタ)を得れるとポジティブに思えば、むしろ幸運。つまらない話であっても、適当に相槌を打っておけば良い。


とにかく、こちらが話の主体でない分、ラクなのだ。


長い前置きはともかく、今日、私の髪を切ってくれた美容師は後者の自分のエピソードをするタイプだった。
コロナウイルスが流行り始めたころに「コロコロコミックスみたいな語感なのにね~」と言っていた美容師以来、2年4ヶ月ぶりの遭遇である。


そのエピソードを日記として書きたい。

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テナントビルの3階に入るチェーンの美容院に、予約時間の5分前に硬めのソファに腰掛けた私。
その5分後に「髑髏山さま~(仮称)」と呼びかけられる。


そして、応じたや否や、「申し訳ありません、お待たせいたしました~」と、40から50代くらいの男が次いで紡いできた。

たいして待っていないにも関わらず、この言葉を打ち浴びせてくる。

この時点で、「この人は積極的に話しかけるタイプだ」と1分以内に自らに襲いかかるリスクを把握できる。

なるほど、運が悪い。
そう感じつつ、席に腰掛け、要望を伝えたら切断作業が始まった……

いつものように眠いふりをする私。意外なことに、こちらに話しかけてこない。

なるほど、接客技術に溢れているからこそ、私の態度に適した態度をとっているのだろう、さっきはあらぬリスクを想定して申し訳なかった。

そう思っている矢先、美容師側から話しかけられた。

「そういえば、このビルに新しく電気屋がオープンしましたね~」

話しかけてきやがったかと感じると同時に、臨戦態勢になる。その一方、こちらのプライベートを聞き出そうせず、2日前にオープンした新規テナントの話題を振ってくる姿勢に安堵を抱いた。

こちらも無難に「いや~、軽く通ってみたんですけど、よく見てなかったです~」と躱そうと試みる。
実際には、何か安売りしていないかと血眼で巡回していたのだが。

この、予測変換以下のつまらない返答に対して、美容師側も諦めてくれるだろう。
そう思った矢先に、二の句を次いで一言。

「そういえば、電気屋って携帯屋か何か入ってました?」

いや、そこまでして客と話を続けたいのかよ!


驚きのあまり、知らないふりも出来ずに「いや~端っこの方にあったかもスね~」と辛うじて返答をしてみた。


するとどうだろう、私が伸びた髪を切るべくステージは最早美容師様御中の独壇場となってしまった。

「今までガラケーを使ってたが、電車で70代の後期老齢者がスマホを使っているのを見て、無意識にガラケーに『ありがとう』と告げてスマホに乗り換えた話」

「3G回線がもう少しでなくなる!という文言を聞いたら、まだ2年の猶予があった!という話」そして、それを聞かされている過程で、美容師が床を強く蹴り飛ばしたから背筋に静電気が通った、髪を切られている私。

「ボクシングや野球観戦が趣味だという話」


「その上で、スマホにしたら、実際のバトルを見たいのに、スマホ経由で結果だけを知ってしまう苦しみ」

「それを避けるために、スマホを無視していたら、マジで重要な電話が何回も掛かってきて謝罪した話」

そして、驚くことに、話のピークの度に地団駄を踏むから、座席まで揺れる。おおよそ刃物を持っている人の振る舞いでは無い。


……ファッキン。一体、私は調髪する過程で何を聞かされたッていうんだ。そして、話を楽しんでしまった自分自身にも驚く。

こうして振り返っても、一体何を聴いていたのかは定かではない。


しかし、「色んな人がいるんだなぁ~」という感想だけは不思議と残っている。

いや、圧倒されたとでも言うべきだろうか。


それが将来、何かの役に立てば、とは思いたいが…………絶対に大脳皮質を無駄に支配するだけだろうなぁ。






フタコブラクダのコブを同意の上で上下左右計13個にした後に、黄色いおべべを無理やり着せる活動がメインです。最近の悩みは鳥取県の県境を超えられないこと。