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挑戦することと守り育てること

私が入社当時の2000年は4名だったのが、若い社員も年々増え2019年末で22名、平均年齢約34歳という状況になってきました。10年前を知る社員はほとんどいません。それだけに農場が長年どういったことを大事にしながら農業をしてきたのかを若い社員にできるだけ説教臭くならないように伝え、今のものづくりに反映させないといけないと感じています。近年は年間を通して低温、高温、夏の大雨による災害、その後の高温と天候に左右され続けています。熟練の技術だけでは対応できない要因も大きいですが、大事にする部分を芯に持ち長期的に取り組むことがお客様から信頼を得る大きな部分だと思います。

 農場がある広島県世羅町は、標高400~450mに位置しており、寒暖の差が大きく冬は氷点下を大きく下回る日があります。農場は世羅町の北部の標高が高い500mに位置しており、より気温差の激しい場所です。世羅町市街地では雪が降っていなくても農場では積雪しているという環境です。シーズンオフに農場の雪景色をSNSに公開すると、市街地の飲食店さんのSNSでは街中は降っていませんので安心してお越しくださいといった書き込みもあり、少しの距離でも大きな気候の違いがあるんだと感じています。(笑)氷点下7度以下の風のない朝には樹木にびっしりと白い霜がつき、樹霜(じゅそう)というとても幻想的な風景になることもあります。そういった気候のおかげで長年農場の花観光はお客様に大きな支持をいただけているという実感を持っているのです。

 農場は来春のチューリップ祭にむけて球根の植え付けが終わりました。広大な農地に手作業で球根を植え付けていきます。これから冬の厳しい寒さを乗り越え春には丘一面のチューリップで埋め尽くされます。国内でも最大級の植栽面積を誇ります。平野部では4月中旬には満開になるチューリップも、冷涼な気候のおかげでこの地では4月の下旬から咲き始め、ゴールデンウィーク明けまで満開の花を咲かせ続けてくれます。夜温が低いおかげで開花期間も長く花の色もとても鮮やかです。正確に入場者統計の取れる観光イベントの中ではまちで一番集客の多いイベントとなっています。一日に多い日で1万5000人もの来場があります。世羅町の人口が現在約1万6000人ですのでその日は町の人口が倍になる計算になります。これだけの観光客の皆様が足を運んでいただけるのも、お客様が足を運びやすい連休に満開になる気候と花のおかげです。季節営業に特化し、毎年毎シーズン異なる風景を他にはないスケールで楽しんでいただけるのも世羅の花畑の強みと考えています。

 私の暮らす広島県は海水浴もできスキーもできる県です。レモンが実る温暖な島しょ部からりんごも採れる高原エリアもある変化にとんだ住環境です。観光農園として世羅町の立地や気候をうまく自分の営農の強みや魅力・個性に変換してお客様に提供していくことが必要だと思っていますし、それが観光農業という産業の他の産業にはできない魅力づけの部分だと感じています。

 何年も前ですが、ある大学の教授が世羅の気候データを見て、農作物の北限や南限が変化することも始まって、温暖化が進んで瀬戸内沿岸部で良質な食味の米が出来にくくなっても、これだけの寒暖差があれば当分の間世羅では美味しい米を作ることができるよと言われていたのを思い出しました。適地適作を自らのものづくりの強みや魅力に変えていくこと、それこそがものづくりのストーリーといえるでしょう。

2019年は9月10月は好天に恵まれ秋のダリアの花観光も盛況のうちにシーズンを終えることができました。秋の花観光は13年前から行っています。春のチューリップと夏のひまわりの作付けローテーションの中でチューリップの連作障害を避けるために休ませる畑を作っているのですが、その空いた畑を活用して、秋の花畑を作りたいと思ったのが秋のダリアの花観光のきっかけでした。

 秋の花といえばコスモスやヒガンバナなどが思い浮かびますが、全国各地でコスモスで観光客を呼び込んでいる地域がたくさんありました。また、この世羅の地域でもコスモス園があったので、狭い地域で競合するより、世羅の気候風土を活かした新しい花の魅力で秋を彩りたいと考え、ダリアを咲かせようと決めたのです。ダリアの産地でもなければ、栽培に優れて秀でていたわけでもありません。冷涼な気候が栽培に向いており、これまでの秋の観光にはない華やかさがあるということくらいで、ダリアの魅力はなんなのか、育ててみないとわからない部分がたくさんありましたが、これまで実践してきた花はみんなをしあわせにするというミッションを新しく秋のダリアに込めてイベントを開催しました。

 初年度は栽培管理も不慣れなことに加えて台風による倒伏などもあり、結果は散々なものとなりました。これではいけないと思い、東北で盛んに栽培されていることもあり、各地のダリア園や産地を訪ね、栽培の仕方や魅せ方の工夫を学びました。農場がダリアの花観光を実施したのは中四国では初でしたが、ほぼ同じ時期に山陰や九州の有名なフラワーパークでもダリアのイベントが開催されるようになり、危機感とともに着眼点についての自信を深めました。品種構成や植栽規模も増やし、台風にも負けない栽培の工夫やオリジナルの支柱もつくり、翌年には西日本最大のダリア園として開園しました。当時はダリアについての認知も少なかったため、花の魅力を伝えるために積極的な情報発信に努め、二年目にして夏のひまわりまつりと同じくらいの集客を行うことができました。

 2019年は私たちにとって節目の年。農場がここ世羅の地で開墾して40周年、そして花の観光農園に業態を転換して25年目になります。これだけの長い間お客様に親しまれてきたことを感謝しそれを自分たちの自信にし、そしてこれからもお客様に観光農園として親しんでもらえるような努力と工夫を重ねていかなくてはと身の引き締まる思いです。

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