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こうして作られるお茶にはお金を払う価値があるということ

図らずも小さな夢が叶った。


「来週、仕上げやるけど来る?」と、美濃加茂茶舗の茶葉を生産している茶師から電話があり東白川村に行くことに。

日本茶の緑茶のほとんどは、収穫した茶葉をその日にすぐに蒸して乾燥させて水分をある程度まで下げ、保存に耐えられる乾物状態にします。この乾物状態を「荒茶(あらちゃ)」と言います。
荒茶は水分量が多く家庭での保存に向かないため一般的にはあまり流通することがありません。

荒茶をふるい分け、茶葉の大きさごとに選別し茶葉の形状を整えたあと「火入れ(焙煎)」することで保存性を高め、流通できる状態にする工程を「仕上げ」といいます。

一般的には、収穫した生の茶葉を"荒茶"の状態にするまでが茶農家の仕事で、その荒茶の品質を見極め茶葉を仕入れ、選別、火入れ、ブレンド「合組(ごうぐみ)」までを担うのが、「茶師」の仕事です。

萎凋煎茶

美濃加茂から東白川村までは車で約1時間。

美濃加茂茶舗の茶葉が製造されている茶工場に到着するとすぐに仕上げ作業が始まった。
お茶の香りで満たされた茶工場は何度行っても心が落ち着く。

火入れの機械から茶葉が出てくると芳醇な香りがあたりに立ち込めます。

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次々と流れて来る茶葉を手ですくい、香りと味を吟味しながら火入れの温度を1℃単位で微調整していきます。

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右から110℃、111℃、112℃...と、1℃単位で火入れ温度を変えた茶葉の味と香りの違いを確認して最適な火入れ温度を決めます。

お茶は産地や種類の違いによっても味や香りが異なりますが、火入れやブレンドによっても同じお茶とは思えないほど味や香りが大きく変化します。

茶師は、産地や品種が同じでも収穫される時期やその年の天候の微妙な違いによっても変化するお茶の個性を見極め、自分の味覚と嗅覚を頼りに茶葉のポテンシャルが最大限に生かされるような火入れやブレンドを行うお茶職人なんです。

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熱湯で淹れて香りと味をチェックした後、急須を使い少しぬるめのお湯で淹れた時の味わいも確認。

このような工程で1通り仕上げ作業が終了。

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「次、つゆひかりだから伊藤くん温度決めてね…!!」

「お、まじすか…」

いきなり大役を仰せつかった。。。

"つゆひかり"とはお茶の品種の名前で、美濃加茂茶舗ではブレンドはせず品種と産地の特徴がより感じられるシングルオリジン(単一品種)として『緑茶』という商品名で販売しています。


再び火入れの機械が動いた
「はい、これ◯◯℃、次◯◯℃ね...」と次々に茶葉が運ばれて来る。

「もっと温度上げる!?下げる!?」

「もーちょい下げてください...!」
自分でも意外に思ったのですが、僕がベストだと思う火入れ温度を決めるのはあまり迷わなかったです。

というのも、「つゆひかり」という品種を自分の店舗で取り扱うことが決まって以来、東白川村以外にも、静岡、鹿児島、京都などあらゆる産地の「つゆひかり」を飲み比べていて、自分が好きなゾーンはある程度しっかりと把握していました。
そこに1番近い味と香りになる火入れ温度で決定。

最終確認で急須で淹れてみた。
そこで思った「これは自分にとってはベストだけど、淹れるのが少し難しくなる」(普段あまりお茶を淹れられない方が淹れると繊細すぎる味わいになると思った)

「つゆひかり」という品種は、独特のうま味と爽やかな香りが特徴ですが、繊細な味わいでもあります。
そこで、火入れ温度が高すぎるとその個性が失われ、この産地と品種の特徴が薄れると思い、少し低めに設定しました。

しかし、美濃加茂茶舗はビギナーの方でも上質な茶葉を気軽に楽しんでいただきたいというコンセプトがあります。
また、ティーバッグでもしっかりと香りが感じられ美味しく飲めるお茶をお届けするため、火入れ温度を2℃上げてよりしっかりとした味わいになるように仕上げました。

最終確認を終え、自分の納得のいく香りと味わいになった茶葉が仕上げ機械から出てくる。
この時の香りは格別。何にも変えがたい感動があります。

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僕はもともと個人経営の町のお茶屋さんに勤務していましたが、取り扱う茶葉の産地はわかっても、このお茶は誰がどこでどのように作られたものなのか、どんな想いで作られたお茶なのかが分かりませんでした。

また、お茶が好きになった理由に茶師という仕事に憧れというのもあり、いつか自分で仕上げたお茶を自分で販売してみたいという小さな夢がありました。("産地や品種の違いによって味が違う"だけではこんなにお茶が好きになっていなかったと思います)

その夢が図らずも叶ってしまった。

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今回は茶師のサポートもあって仕上げができましたが、いつか自分が管理した茶畑で栽培された茶葉を自分で火入れ、ブレンドして自分で販売。お茶会などのイベントで生産者の想いとともに多くの方に届ける。
そんな仕組みが作れたら茶業界に新しいカルチャーができるのでは、と最近は考えています。

茶農家さんが暑い夏も寒い冬も丁寧に茶畑を管理して1年かけて春に収穫した茶葉を熟練の技を持つ茶師が感覚を研ぎ澄ませて仕上げを行って1つの茶葉が完成します。

ボタンを押せばタダでお茶が飲める便利な時代でありながら、こうして作られるお茶にはお金を払う価値があるということも多くの方に伝えていけたらと思います。


今回仕上げしたつゆひかりシングルオリジンの『緑茶』は美濃加茂茶舗オンラインストアまたはAmazonでもお買い求めいただけます。

※茶葉のみをご購入される方はAmazonの方が送料を抑えてお買い求めいただけます。

器も一緒にお買い求め希望の方は美濃加茂茶舗公式オンラインストアからお願いいたします。



最後まで読んで頂きましてありがとうございました!