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兆候【ショートショート】

 こんなに美しい星空は見たことがなかった。
 広大な平原の真ん中で私は思わず息をのんだ。
 しばらくすると西の空に流れ星が見えた。それは青から赤へと変化し、闇夜に消えた。
「不吉な兆候です。今夜、誰かが死ぬかもしれません。それとも、もうすでに……」
 たき火を一緒に囲んでいた老人が言った。老人はこの国を治めている長で、頭の羽飾りと顔のペイントと装飾品がその証でもあった。
「さっきの流れ星のことですか? 私たちの国では良い兆候とされています。願い事をすると願いを叶えてくれる」
「ほぉー。我々の国では真逆でして……。火山が噴火したり、大洪水になったり、病気が蔓延したり、誰かが死ぬ、その前触れとされています」
「では、その誰かとはあなたのことかもしれませんね」
 私は隠し持っていた光線銃を老人に向けた。老人は黙っている。
「この時代はとても素晴らしい。ここには手つかずの大自然、豊富な水、資源があります。私たちはここに新しい国を作ります」
 引金に指をかける。老人はまだ黙っている。死を覚悟したのかもしれない。
「もうすぐ、私たちの仲間がタイムマシンに乗って、ここへとやってきます。あなたには理解できないかもしれませんが、私はこの時代よりも何千年も先の未来から来たのです。私たちの手でより良い未来を作り直してみせます」
 引金を引こうとした指に力が入らなかった。胸に激痛を感じる。血が流れていた。紛れもなく私の血だった。
「どうして? 未来のいかなる攻撃にも耐えられる服なのに……」
 私はその場に倒れた。血は流れ続けているようだ。
「あなたは思い違いをされているようです。あなたのいる未来とやらが文明的に優れているように話されていましたが、そうではなかったということです」
 老人の首飾りの青い宝石が不気味に光っている。それは、ちょうど私の胸の傷跡と同じダイヤの形をしていた。
「あなたが来ることを我々は予知していました。もちろん、あなたのお仲間のこともです。さっきの流れ星。あれは、あなたのいうタイムマシンを我々が撃ち落とした瞬間だったのです」
「そんな……光速で移動するタイムマシンを……」
 遥か遠くの空に煙が立ち上っているのが見えた。
「我々だって、そのタイムマシンというものをつくることは可能でしょう。でも、それはしません。なぜだか、わかりますか? 未来からこの時代を侵略しようとやってきたのはあなたたちが初めてではありません。彼らを見ていると未来とやらはどうも具合がよくないようです。そして、ここにやってくる彼らは我々がこの時代に高度な文明を築いていたことを知りませんでした。我々は歴史には残らず、いずれ滅びゆくのでしょう。それが運命なのです」
 薄れゆく意識の中、最後に老人の言葉が聞こえた。
「ただ、流れ星に願いを込めるという習慣は気に入りました。次に見かけたときには願ってみましょう。我々、そして、あなたたちの未来を……」

(了)

 読んでいただきありがとうございます。
 そるとばたあ@ことばの遊び人です。普段は400字のショートショートを中心にLIVE形式のnoteを書いています。
 今週末の土日にかけてはそちらをお休みにして、過去に書いた作品や未発表の作品をnoteにupしていきたいと思います。

 今日28日(土)は、DAY1 Moon Stage

 5本の作品をupします。
 最近の作品ではないということでだいぶ変な緊張をしていますが、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

(↑いつものLIVE形式noteの様子はこちら)

文章や物語ならではの、エンターテインメントに挑戦しています! 読んだ方をとにかくワクワクさせる言葉や、表現を探しています!