わたしのうた

 夕方、雨が降っているという噂をテレビやTwitterから聞きながらカーテンも開けずにベッドから起きる。今日はナンパされた男と会う日だ。なんだか公務員とか言っていたような気がする。その程度だ。その程度などと言っている自分が嫌だ。逃げ道を作っているのだ。本気にならないよう、人をすぐに信じないよう。

都会の駅に着く。人がたくさんいる。みんなが人といる。笑っている。私のタイプの服装の背中がいる。公務員よりあの人がいいなぁなんて密かに思う。私は彼に釣り合うほどの魅力がないのだからと自分に言い聞かせる。希望や理想は無限大にある。10分ほど待たされ、愚痴のラインを友人に送る。「緊張するんだけど、まだなの?」あぁもうラインを返す人がいない。携帯も飽きた。今日はドタキャンされたのか?誰かナンパしてくれないかな。私は結局安価な女なのだから。と勝手に悲しさを募らせる。

そんな時彼が現れた。久しぶり、2回目。1回目はほとんど覚えていない。どうでもいい会話をする。店は決めていない。街ゆく人がみんな笑っている。都会はすごい、皆が笑っている。笑っていない人は見えないようにしている、多分。気を使うな、人見知りな自分が現れる。何のためにこの人のために時間を使っているのか自問自答をしてしまう。

店を適当に決めた私たちは酒を飲む。気まずくなったら酒を飲む。何杯か飲んでやっと私も饒舌になる。なぜ彼に話しているのかよくわからない話をする。周りの声が大きく何も聞こえないがとりあえず口角は上げておく。急に恋愛の話になる。少しずつあ、そういう感じか。と感じる。俺について来て、幸せにするから、重みのない言葉。嬉しさを感じる前に、虚しさを感じるのは私が人を信じる心を失ってしまったからなのか。言葉は大切なものなのに、私も彼も薄い言葉のやりとりを2時間も交わしている。

何かと触れてくる彼を振り切りながら家に帰る。電車内で好きだのなんだの言ってくる彼の神経がよくわからない。


今日も私はわたしのうたを聞きながら帰る。

すこしつかれた

わたしのすがた

もういかなくちゃ

またあした

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