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韓流スターL様のこと-冬のソナタ-

さて、ヨン様である。
テレビをつければ、毎日のように話題になるペ・ヨンジュン。
あの、いやらしいまでにソフトな笑顔には、目を背けようにも背けられない、奇妙な力がある。

土曜の夜に、前の会社の同期と食事をしたら、彼女が「冬ソナの時間に間に合うように帰らないと・・・」と言い出したので驚いた。
テレビなんてほとんど見そうにもない、自立した大人の女性である。
「あ、あなたまでもが・・・!」
なぜだ、なぜなんだペ・ヨンジュン。一体何があるっていうんだ、冬ソナに・・・!

私は今どきながら「冬のソナタ」を観たことがない。
それどころか、いつ放送しているかさえ知らない。
けれども、「冬のソナタ」が着々と私の周囲を侵食し、いずれ私の深夜の睡眠を蝕む日が来るだろうことは、すでに予感を超えている。
まだそこに至っていないのは、ただただ、いつビデオ屋に行ってもDVDもVHSもレンタル中だという、ただそれだけのこと。

私は、昨年、二度ソウルに行った。
近さ、気軽さ、なじみやすさの点で、ソウルは外国旅行というより、週末旅行の感覚で楽しむことができる。
一度目のソウルは、前の会社を辞めた「自分にお疲れさん」旅行。
二度目のソウルは、大学の同級生L君の結婚式に出席するためだった。

L君は韓国からの留学生だったが、父親が韓国の官僚だかなんだかだそうで、その仕事の関係で人生の半分以上を神戸で過ごしていた。
そのため、彼は日本人以上にナチュラルな日本語を操り、ほとんど私たちと変わらない幼少体験を持っていた。
たとえば、ビックリマンチョコだったり、キン肉マン消しゴムだったり、ドラクエの魔法パルプンテだったり、ジュエルリングだったり・・・といった、70年代生まれの日本人ならみんな子供の頃に経験したのと同じものを、彼は自分の構成要素として持っている。
彼はただの「日本語がうまい韓国人」とは割り切れない。

私が初めてL君に会ったのは、大学に入学したばかりの、あるゼミ形式の授業だった。
そのゼミには定員があり、最初の授業で選抜のための面接が行われた。
学部や名前の他に「将来の夢」と「使用可能な言語」を記した紙を提出し、先生はそれを見ながら面談をする。
その面談は密室ではなく、教室の前の方で、他の学生もいるなかで行われた。
印象的だったのは、先生がL君に「韓国語が話せるのはどうしてですか?」と質問したことだ。
L君は当たり前のように流暢な日本語で答えた。
「僕は韓国人ですから。韓国語は日本語より得意だと思いますよ」
先生は「ああ、そうですか」と少し笑った。

他にもエピソードがある。
あんみつなどを出す、いわゆる甘味処に、ある日本人の女の子とL君が一緒に入った。
L君がいたずら半分に「これはどんな食べ物なんですか。僕、外国人なんで分からないんです」と言ったところ、店員から「何を言ってるんだ?」と不審な顔をされた。
臆さないL君の横で、連れの女の子が「本当なんです。彼は韓国からの留学生なので・・・」と言うと、店員はさらに不審な顔をしたらしい。

ゼミでソウル旅行をしたときには、現地の人から「あの日本人は韓国語がうまいね」と言われていたという話があるくらい、L君はまるで日本人に見える。
自分でも自分のことを半分日本人だと感じることがあるらしいし、私も彼を韓国人だと意識することが逆に難しいくらいだ。

そんなL君だが、彼はものすごくもてた。
私はあまり知らなかったのだけれど、卒業してから聞く分には、それは相当のものだったらしい。

そう言われてみれば、3年生のとき、文学部のある女の子が「今日はL様を囲む会なの」とウキウキと話すのに出くわしたことがある。
「L様って、経済学部の留学生のL君のこと?」
「そう。知ってる?L様。すごく素敵なの~」
「私、教養のゼミ同じだったから、結構親しいよ」
「え~、ほんとに~!いいなあ~!」
彼女が顔の横で手のひらを合わせ、体をくねらせながら甲高い声を上げるのを見て、私は「まじかよ」と驚いた。
どうやらL君のことを慕う女の子たちが定期的に「L様を囲む会」なる催しを開いているらしい。

確かに私も、以前からL君のことを「なんかアジアンスターって感じだな」と思っていた。
そもそもソフトな顔つきで、いつも人なつっこい笑顔をたたえている。
香港映画の俳優がもっている感じの清潔感とか、ピュアさとかいった雰囲気も持ち合わせている。
しかもL君は非常に優秀で、彼の論文が学内の論文集に掲載されたり、難しい学術系のコンクールで賞をとったりということが度々あったし、話せば愉快で知性にあふれ、学問から社会問題、スポーツ、音楽、芸能ネタまであらゆる話題に精通していた。
その上、なんとも女性に優しく、ある意味笑ってしまうほど口がうまかった。
どんな女性でも褒めそやし、真顔で「今日もきれいだね」「本当にかわいいね」などと言ってのけた。
少しいたずらでやんちゃな面もあり、男友達も多かった。
でも、ちょっとした憂いさえあった。

こうやってあげつらえば、なんと、彼はまさにスターそのものじゃないか。

一度だけゼミの後、L君と2人だけで食事をする機会があった。
どういう流れだったかも忘れたけれど、「まあ、飯でも食べてく?」くらいな感じだった。
当時彼は、私たちと同じゼミの女の子と付き合っていたので、言わば友達の彼氏でもあった。
そういうわけで、私にはなんの下心もない。

妙に緊張したのを覚えている。
どんな会話をしたかとかは全く記憶にないし、大した話はしなかったと思うけど、駒場の洋食屋で私は「もう逃げ出したい」くらいの気持ちになった。
こういうのって以前にもあったような・・・、そう、中学のとき、同じクラスの髪が茶色い人気者の男の子(今思えば、少し色っぽい感じの男の子だった)と偶然教室で2人きりになったとき。
私はその男の子のことを好きでもなんでもなかったけど、どうも彼と2人きりの空間というのが、妙にエロチックというか、思春期の私には耐え難いムードがあって、ほとんど逃げるようにその場を離れてしまった。
今でもその子が湛えていた妖しい笑みが脳裏に残っている。

私はL君に特別な感情は一切なかったし、逆に嫌いでもなかったけど、とにかくそのとき、その場には耐え難い空気があった。
あれはなんだったんだろう。
L君は一体なんなんだろう。

この有無を言わさぬ引力。
まるで「冬のソナタ」のような、まるでヨン様のような。

韓国メイドは妖しい魅力爆発だ。
L君はほとんど日本育ちなのに、男性としての面では依然としてエキゾチックなものを有しているというのは、まさにDNAとしか言いようがない。
私は韓国ドラマ未体験だけど、やっぱりはまってしまうんだろうか。
ちょっと怖い気がする。

冬のソナタ(2002年・韓国)
監督:ユン・ソクホ
出演:チェ・ジウ、ぺ・ヨンジュン他

■2004/7/27投稿の記事
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