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心待ちにする未知のもの-ターミナル-

少しさかのぼるが、イタリアへ旅立つその日観た映画の話。

まだ冬休みには幾日かある。
成田空港も、ミラノに向かう機内もまだまだ余裕を見せている。
チェックインカウンターも、手荷物検査も出国審査もほとんど列ができない。

2階の最前席は、いつもよりはリラックスできる足元の広さ。
左右を見てこの一列、乗客は私一人しかいない。
「今日のお客様はラッキーですね」
フライトアテンダントも微笑を浮かべてそう話す。

機内映画は、ちょうどいい、観ようと思っていた「ターミナル」。

空を飛んでいる間に母国でクーデターが起き、国籍を失ってしまった男が入国審査で引っかかり、空港の外に出ることができなくなって9ヶ月もその中で過ごす、という「ありえない」お話。
そして、実際、映画の中で起きることは、どれもこれも「ありえない」ことばかり。

そんなわけないだろ。
いや、それは普通こうだろ。
という、つっこみどころ満載。

でも、観ていてどこか懐かしい気持ちになったのは、この「ありえなさ」がとてもとてもアメリカ映画らしく、まるで80年代、小学生くらいの頃に心躍らせて観ていた数々のコメディを思い出させてくれたからかもしれない。
最近あまり観なかった気がする、大変よくできた、「ありえない」話である。

「人は誰でも何かを待っている」

トム・ハンクス演じる主人公はそう言うわけだけれど、確かに多くのこと、様々なことは、意思のままにいくばかりでなく、なす術もなくただ待つのみでしかないこともある。
何を待っているのかさえわからないけれど、未知のものに心馳せることもある。

それは不意に訪れるのだ。
「ありえない」と思ったことも、様々な偶然と奇跡の折り重なりの末に、目の前に現れたりする。

この飛行機を降りたとき、どんなターミナルが私を迎えるだろう。
空から眺めたミラノの灯は、やかましいネオンなどではなく、粒の揃ったオレンジ色だった。
その一つ一つが、人の暮らす家の灯り、車の灯り、街の灯りに違いない。

私が待つように、これから出会う何かも、私を待っているのかもしれない。
そんなふうに、ぼんやりと映画と現実の境を漂ってみた。

また年が明け、今年はどんな「何か」に出会えるのだろうと、心待ちにしている。

ターミナル The Terminal(2004年・米)
監督:スティーブン・スピルバーグ
出演:トム・ハンクス、キャサリン・ゼタ・ジョーンズ他

■2005/1/2投稿の記事
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