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『東京ロンダリング』は今日もどこかで

ロンダリングとは。

ロンダリング【laundering】:(不正な金の)洗浄。→マネーロンダリング
マネーロンダリング【money laundering】:不正取引で得た資金や企業の隠し資金を、金融機関との取引や口座間を移動させることによって資金の出所や流れを分からなくすること。資金洗浄。

goo辞書より

では、東京をロンダリングするとは。
『東京ロンダリング』- 著者:原田ひ香さん

日本でいちばん人口の多い都市、東京。人口が多ければ、いわゆる事故物件もたくさんあるし、どんどん増えていくとのこと。なるほど、そりゃそうか。
一度でも家探しをしたことのある人なら大抵知っていることだけれども、ある場所が事故物件になった場合、不動産会社は次の住み手にその詳細を告知する義務があります。直近で事件や事故があった部屋に好んで住もうと思う人は、かなり少数派。大家さんも、なかなか次の借り手が付かなくて困ってしまう。
でも、間に1ヶ月以上誰かが住めば、その次以降の住人には告知義務が一切なくなるそうなのです。

この小説に出てくるのは、事故物件に1ヶ月ずつ住んではまた移り、告知義務のない普通の物件にしていくという、部屋の「洗浄」のお仕事。即ち、広い目で見れば東京を「ロンダリング」し、東京を救うお仕事なのです。

やることは至ってシンプル。事故物件の告知内容を聞いて、その部屋に越してきて、1ヶ月間住むだけ。それさえすれば、毎日何もしなくても日給5000円貰える。むしろ、トラブルの元にならないように、ほかの仕事らしい仕事もしないことが推奨される。毎回の引っ越しに伴う費用は全て、不動産屋が負担。
なるほど…賢い。世の中そんな仕事があるのか!でも全然知らなかった!一体どういう風に求人が出ているんだろう?と、読み終わってから思わずググってみると。
…ない!!笑
どうやら、架空の職業のようでした。

主人公のりさ子は、ある出来事から家を飛び出し、成り行きでそのロンダリングの仕事をするようになる。曰く付きの部屋に住むというと、もしや幽霊でも出てくる話なのかしら…しまった表紙が可愛いからまた騙されてホラー本買ってしまったかしら…とうっすら心配するも杞憂に。生身の人間しか出てきません。ほっ。
…ただし、それはそれで色んなことが起こります。でも大丈夫。全く怖くはない。

1ヶ月間、誰とも心からの交流をせず、また次の街に移っては事故物件に住むことをひたすら繰り返すりさ子の静かで閉鎖的な日常に、普通じゃない生活へのちょっとの好奇心と物語の展開へのささやかな期待を感じながら読んでいると、あら不思議。一気に読み終わってしまいました。

何て言ったらいいんだろう、敢えて端的にまとめるとどうなるのかな。
良い意味で淡白なファンタジー。淡々とした人間ドラマ。
うーん、原田さんごめんなさい、もし私がコピーライターを目指したとしたら、道のりは遠そうだ…笑。

誰とも接しないはずだったのに、いつの間にか、本来の自分を取り戻していくりさ子のじんわりした心境の変化と回復の過程が、読み手にも静かなエネルギーを分けてくれる感じがしました。


ちなみに、「マネーロンダリング」という単語をニュースか何かで初めて雑に聞き齧った頃、どういうわけか「投資など資金運用をして計画的に財産管理をすること」的な意味合いだろうと早合点してしまった若かりし頃の私。

たまにはカッコいいこと言ってみようと、半ばドヤ顔で「ねえ、うちもそろそろマネーロンダリングとかちゃんと考えた方がいいんじゃない?」と言い放ち、家族を絶句・驚愕、からの爆笑させたことがあります。
どんなヤバい資金を隠し持ってるんだと突っ込まれましたが。ええ。誓って潔白です。スイス銀行にも口座はございません…!!

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