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オオカミを迎えた日

6月6日、丹波山村にオオカミの剥製がやってきた。
茨城県の個人宅で所有されていたハイイロオオカミだ。

剥製や刀剣を収集していたお家だったが、東日本大震災で母屋が被災。
殆どのコレクションは何処に行ったか分からなくなってしまったという。
このオオカミだけは偶然、別宅に移していたため被害を免れた。
15年間、玄関の一角に置かれて守り神のようになっていたらしい。
ひとつの入口を通せんぼするように置かれていたというオオカミのため、その入口を使わずに迂回してリビングを使用したり、劣化を気にして如何なる時も家のカーテンは半分しか開けなかったと持ち主は語った。
それでも所有し続けることが難しく、県の自然史博物館に譲渡の相談をしたところ、偶々博物館に顔を出していた業者さん(七ツ石神社狛犬レプリカを作成した所)が話を聞き、私のところに急いで電話をしてくれたのだ。

「今電話をしないと、処分されてしまうそうです」
夜掛かってきた電話に、勿論ふたつ返事で答えた。
「うちにください」

環境省に譲渡の申請を行い、無事に許可が下りて迎えに行った。
優しげで、愛嬌のある顔をしている。オオカミにしてはカッコよく無いと言われてしまったが、七ツ石の狛犬が呼んだ縁なら、きっと人好きで穏やかな狼なんじゃないかと思う。

所有者のTさんは運ばれていく剥製を庭まで見送る時「早く(車の)ドアを閉めてください。いつまでも見てしまうから」と言われた。
長年置かれていたカーペットの色が、剥製の大きさだけ濃く残っている玄関。
大事に愛されてきたことが伝わる。
神社の歴史を引き継いだ時と同じように、想いのバトンを受け取ったような気がして胸に沁みた。

私が「狼」と初めて出会ったのは、神奈川県の博物館にあった剥製。
あれは3歳の頃だった。
27年を経て、今度は自分が狼の剥製を展示する。
村の子供たちの中には、これが初めて見る「狼」になることもあるだろう。

新たな仲間を迎えた資料館。
これからも思いがけないような縁に支えられて、きっと変化していく。

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