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「MAKING OF MOTOWN」を観て 〜 元気な組織とムーブメントのおこり方 〜

「メイキング・オブ・モータウン」という映画を見てきました。


ベリー・ゴーディーを中心に、各関係者が、MOTOWNを作る前から、マーヴィン・ゲイが「What's Going On」を発表するまでのことを、話してくれる映画です。


あまりに感じたことが多かったので、ここに書き残しておきます。



 MOTOWNは個人的にも大好きなレーベルです。「MOTOWNというレーベルに所属している誰々」という、レーベルを意識させる、世界で唯一の存在という気がしています。


自分が大好きなマイケル・ジャクソンが所属していたこともあり、以前からなんとなく、その歴史について知っていたつもりではありました。


しかし、こんなに細かく、連続した時間に沿って誰かが語ってくれるという機会は、なかなかなかったように思います。


映画を見、感じたことは、MOTOWNから学べることは、非常に多いということです。


ムーブメントとはどんなふうにおこるのか、人種差別に対して取るべき態度とは?会社組織の作り方、そして、音楽とは何なのか。


単なる「音楽レーベルのドキュメンタリー」という説明では、到底足りない映画でした。



 人やグループが「盛り上がる」理由は、その時々で色々あるとは思いますが、MOTOWNが創設されて何組もの世界的なスターを輩出する過程は、まさに「盛り上がっていた」状態なのだとおもいます。


映画を観ると、彼らは当時、黒人の音楽を自分たちで発見し世に発表することを、一種のお祭りのように楽しんでいたように見えます。


ベリー・ゴーディーが、自動車メーカーの生産ラインから得た気付きから、音楽アーティストを教育して世に出す、組織としての"システム"を考案するさまは、まさに組織づくりであり、それを真似できている人はいまだに少ないのではないでしょうか。


組織をシステム化していく代償は、士気だとおもいます。人は、型にはめられればはめられるほど、向上心・好奇心・やる気を失っていきます。


それを損なわず、きっちり組織として成り立たせながらも、生き生きとしたアーティストを大量に輩出した組織を、ベリー・ゴーディーはどのように作ったのでしょうか。


MOTOWNのすごいところは、アーティストだけではなく、裏方のプロデューサーや品質管理人員たちも、みな生き生きとしていて、そのエネルギーがそのまま発表するアーティストや楽曲に活かされているように感じる点です。


映画の中では、当時、成長過程にあったMOTOWNのミーティングの様子も、音声で聞かせてくれます。内容は、普通の会社とあまり変わらないように思いますが、唯一特徴的なのは、社員同士が本当の意味で、フラットな力関係にあること。


社長と社員、古株と新株という垣根が、音声を聞く中ではあまり感じませんでした。全員が奇譚のない意見を、臆することなく発しているように感じました。


本当の意味でフラットな、本当の意味で奇譚のない意見は、実際の組織ではなかなか発しづらいものです。しかしこの組織では、それができているように聞こえました。


本当のところは分かりませんが、音声を聞く限りでは、なかなか厳しい判断をする局面でも、幹部が全員の意見を聞いていました。


他にも、品質管理や教育など、重要なポジションに女性を何人も配置していたことや、白人もなんら気にすることなく幹部として起用していたことなど、近年ようやっと若い組織が取り組み始めているような組織の作り方を、当時のMOTOWNがすでに実施していたことは驚きです。



 MOTOWNのすごいところは、組織に関することだけではありません。


彼らがレーベルを発足し、楽曲を発表しはじめたころは、まだアメリカでは黒人差別がはっきりとあった時代です。


映画の中では、ダイアナ・ロスが所属する「Supremes」が全米ネットのテレビに出演し、黒人をスターとして出演させること自体が異例だった当時の、驚きと歓喜の様子が語られています。


アメリカの各地で差別を巡った暴動が繰り返される中、彼らがツアーするときは、恐怖を感じながら各地を回っていたそうです。


そんな中、テレビで黒人がアップになり、きらびやかな衣装を着て歌を歌うさまは、当時の差別主義な人々に、価値観を変えるきっかけを与えたのではないでしょうか。


当時の驚きをリアルタイムで体験した身ではないので、あくまで想像の範囲でしか言えませんが、MOTOWNが存在したことで、差別問題解決の進行速度は50年〜100年くらい違っていたのではないかと思います。


差別をやめさせることは、差別をしている人に対して「差別をやめなさい」と言うことよりも、文化としての価値を感じさせたり、体験として自分たちにはできない歌唱やダンスを見せることの方が、あるシーンでは有効なのではないかと感じる事象です。



 映画の最後の方では、マーヴィン・ゲイの「What' Going On」リリースにあたり、社長と意見が衝突した時の様子が語られています。

映画の中でも、リリースを反対した当時の自分の見解は、間違いだったとベリー・ゴーディーは認めています。しかし、あまりにも政治的な歌詞である上に、コンガを使った伴奏は、当時としては新鮮すぎるほど新鮮だったでしょう。


いまSpotifyでこの曲を聞くと、なんら違和感なく聞けますが、この映画を観て、連続した時間の先で聞いてみると、このボンゴの伴奏が非常に新鮮に聞こえるので、本当に不思議です。


ファレル・ウィリアムスが「Happy」という曲をリリースしたのは2013年です。彼も政治的な意味合いを匂わせる歌詞を、非常に明るいメロディとトラックで、この曲を作りました。


1971年にマーヴィン・ゲイが制作した「What' Going On」と、表面的に聞こえる音は違っても、やっていることは非常に似ている気がしていて、Pharrell WilliamsはMarvin Gayeの制作スタイルからインスピレーションを得、次の世代に継承させてくれたような気がします。


この、文化としての音楽のリレーが感動的で、ファレルはレーベルも違いますし、映画の中でそんなことは語られていないのですが、なんだか勝手に熱い気持ちになりました。


 この映画を観て学べることは、スティーヴィー・ワンダーをはじめとしたアーティストとレーベルの健康的な関係についてや、音楽のおこりと変遷についてなど、他にも色々あり、知恵熱が出そうなくらいに盛り沢山な映画なので、文化や音楽が好きな方には、ぜひ観ていただきたい1本です。

お読みいただき、ありがとうございました。

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