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H3ロケット2号機説明会とプロジェクトマネジメント

TL;DR

1月10日のH3ロケット2号機の記者向け説明会を聞いて、プロジェクトマネジメントとして共通しそうなこととして印象に残ったのが想定される原因を一つに絞り込まなかったとのこと。これは他のプロジェクトでも同じ。原因の分析と対策はバランス感覚が難しいです。

背景

2024年2月15日にH3ロケット2号機の試験機2号機の打ち上げが予定されています。そこに向けての事前の記者向け説明会が1月10日に行われました。記者向けですが、YouTubeで公開されていたのでリアルタイムで視聴していました。

H3ロケット試験1号機は2023年3月7日に打ち上げしたものの、残念ながら失敗してしまいました。この原因についての報告書は10月26日に公開されています。

今回はその分析結果を受けた上で改良を行なった試験飛行となります。そのため、1号機の失敗原因についての話も多少はありました(すでに報告書が出ている内容なので、おさらいだけ)。

失敗要因を一つに絞らなかった

その説明やその後の質疑応答で印象に残ったのが1号機の失敗原因究明の結果と対策の話。

今回の原因究明と2号機への反映については、失敗原因を絞らずに3つのシナリオを立てたとのこと。その上で、そのシナリオで失敗となり得る要因をほとんどカバーでき、その対策を取ることで問題がなくなるのを確認したとのこと。
これはなるほどなぁと感じました。当たり前と言われるかもしれませんけど。

なんのために原因究明をするのか

これは先日の羽田空港での航空機衝突事故でも同じですが、日本人は原因究明を責任の追求と考えがち。いわゆる犯人探しです。もちろん、誰がどれだけの責任があるのかと言うことも大事なのは確かです。

ただ、失敗を繰り返さないために重要なのはそこではありません。羽田の事故の際に専門家の方が引き合いに出していたのがテネリフェの事故。

この事故はさまざまな要因が重なって事故が起き、多くの犠牲者が出ました。これを教訓に改善されたことは様々です。
今回の事故については調査中のことですので触れませんが、単純にパイロットのミスとか管制官のミスという問題ではありません。

これらの事故だけでなく、コンピューターシステムの開発や運用でも、問題は様々なことが重なって起こることがよくあります。
そのため、何か特定の原因や犯人を突き止めるということではなく、問題に至る可能性のあるものを洗い出すことが重要になります。それがその時の問題に直接、間接的に影響したかも重要ではありますが、仮に今回は関係なかったとしても問題に至る可能性のあるものを見つけ、対策することが重要になるのです。

原因を絞るのではなく、網羅する

前にプログラムを書いて終わり、ではないという話を書きました。が、いわゆる原因調査も理由が見つかればそれで終わり、ではありません。まあ、終わりにしてしまう人が多いのはわかっていますが、それではダメです。

と言うのも、人はもっともらしい理由が見つかると安心して納得してしまいます。が、実はその裏に本当の原因が隠れていた、なんてことはある程度経験していれば何度も遭遇します。
表面的な理由だけ見て対策した気になっていると、根っこが同じで出方がちょっと違う別の問題が出てきます。そうやって、表面的な対症療法を繰り返しているといつまで経っても根っこの問題が残っているので、いたちごっこになります。

事故について誰それの責任とするのはこの表面的な解決に過ぎません。仮に某さんの過失だったとして、その過失はなぜ生まれたのか、どうしてその先に進む前に止められなかったのかが重要になります。

例えば、テネリフェの事故であれば原因の一つとして一方の機長が教官も務めるような有名なベテラン機長だったということが挙げられています。その人が判断ミスをしても、それを指摘するのが難しい空気だったというわけです。その教訓を受け、こと安全に関して乗員間の上下関係を持ち込まないと言う考え方になっています。まあ、現実には人間関係があるので難しいでしょうけど。

それはさておき、表面的な問題や個々の責任を問うのではなく、どうしてそこに至ったのか、あるいは、到りそうな問題点を列挙して対策するのが重要になります。

もちろんバランスが大事

説明会の参加者から何が大変だったかと言う質問がありました。それに対して、やはり報告をまとめる段階でのどこまでやるかというのがしんどかったという回答がありました。
軽くし過ぎては問題を見過ごしてしまうし、逆にどこまでも追求していては時間がかかり過ぎてしまう。
その辺のバランス感覚というのは、プロジェクトマネジメントの点でも重要かつ、しんどいところです。何しろ、責任問題に直結しますから。もちろん、私と会見されてた方は立場も、背負う責任の大きさも全然違うのですが、イメージができないというものでもないです。
その回答を受けた記者が「網の目の細かさをどうするかということですか?」みたいなことを聞いていたかと思いますが、確かにそんなものだと思います。

まとめ:犯人探しをしない

なんらかの問題について犯人探しをしない、というのは広く知られています。ですが、日本ではどうしても犯人探しになりがちです。この犯人とは文字通り人であることもあれば、(多くは表面的な)問題であることもあります。

ただ、それで一時は問題を解消できたとしても、根本原因を解決できなければ同じ問題がまた出てきます。ひとつひとつは小さな問題でも、それが不幸な偶然で重なれば、大きな問題になることも。
犯人探しをすることで、小さな問題の発見を遅らせることがあり、それが不幸な大きな問題につながることも多いのです。

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