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船長は最後という不適切な発言

5/14のフジテレビ「めざまし8」で解説の方から耳を疑う発言がありました。各地で首長がキャンセル分のワクチンを接種したことに関連して、船長を引き合いに出して最後に離船するのが当たり前という発言をしたのです。
これがなぜ問題なのかを書きます。

ことの経緯

発端は、今話題になっているいくつかの自治体の首長が接種対象者の体調不良等でキャンセルになったワクチンを接種したというニュースです。

これについては住民からも賛否両論がありました。考え方としては頷ける部分もあると自分も思いますし、あらかじめキャンセルリストを作成し、それに則って接種している例もありました。事前にそういう考え方がある点も周知して、先に議論をしておけばこんな騒ぎにならなかったのでは?という出演したタレントからの発言もありました。

それに対して、猛然と違を唱えたのがフジテレビの解説委員氏でした。解説委員氏はリーダーは最後にやるのが当たり前だと主張し、率先して接種を受けるなんて論外とのご意見のようでした。まあ、そういう意見を持つこと自体は構わないと思います。それを主張されるのもまあよいでしょう。

その反論に対して、ゲストのタレントから「首長に何かあった場合は困るのだから、やり方はともかく必ずしも問題とは言えないのではないか」といった意見が出ましたが、解説委員氏はここでも猛然と反論します。
曰く、「首長には代理がいるのだから、仮に首長に何かあっても問題ない」との主張。そこで「船長は最後に離船するのが当然だ」という例えを持ち出したのです。

この話は以下の記事にもまとめられています。まあ、この記事の主眼は同時に番組で行なっていたdボタンでのリアルタイムアンケートの結果、優先接種がありかなしかで、ありが69%になったことで、首長叩きがやりづらくなったことです。

結局、世論では7割近くが好意的というか、まあ、事後報告はともかくある程度仕方ないよね?という論調かと思いますが、解説委員氏はタレントがたのとりなしも無視して、最後までトップにあるまじき行為と主張し続けました。

船長が最後といえば…

この解説委員氏は還暦過ぎで元外務官僚。フジテレビに中途入社してニューヨク特派員、ワシント支局長も勤めたそうです。

でも、船長が最後まで残るというと、どうしても太平洋戦争で艦と運命をともにして戦死した艦長を思い浮かべてしまいます。この方も還暦過ぎなのですから、戦後生まれだとしても一回り近く違う自分よりもそういう当時の空気を知っていた方々から話を聞いていたりして知っているかと思います。

では、実際はどうなのでしょう。軍艦に限らず、かってそういう風潮があったのは確かなようです。長い海運の歴史を持つイギリスでは明文化されていないものの、そういうことはままあったようです。

それどころか、日本では明文化されていたそうです。Wikipediaの船長の解説に「最後離船、最後退船の義務」という項が特出ししてあります。

最後離船、最後退船の義務
古くから商船(軍艦)が沈む際には、船長は最後に離船する、時には船と運命を共にするという事例が見られた。こうした伝統は、長年、商船の運用を行ってきたイギリスにおいても法令などで成文化されてはいない。
1980年、LNG船が関門海峡の投錨地で座礁した際にアメリカ人船長がピストル自殺した例、1997年、福井県沖でナホトカ号重油流出事故が発生した際にロシア人船長が救出を拒否して後日、遺体となって発見された例など、個別事例は枚挙にいとまない。
しかし一方で、2012年のコスタ・コンコルディアの座礁事故、2014年のセウォル号沈没事故の様に、船長が救助の現場で指揮、監督を放棄し、いち早く避難するといった極端な例も見られる。
一方、日本では、過去、前述のように船員法第12条で船長の最後離船が、同法123条で罰則規定が定められており義務として定着していた。しかし1969年から1970年にかけてぼりばあ丸事故、波方商船の「波島丸」事故、かりふぉるにあ丸事故と立て続けに3件の遭難事故が発生する中で、それぞれの船の船長が離船を拒否して殉職する例が見られたため、日本船長協会は「誤った社会通念を生む」として船長の責任を軽くするよう主張を行った。この結果、法改正が行われ、船長の最後離船、最後退船は義務ではなくなっている。

解説委員氏の例えは、まさにこの「誤った社会通念を生む」ものだという点で、不適切と考えます。

もちろん、船長にはさまざまな義務があり、乗客乗員の安全に責任を持ちます。そのことはWikipediaにも法律を引用して記載されています。
しかし、上述のように最後に離船することが義務と明文化されているだけでなく、違反した場合に懲役5年以下という罰則まであったのが、だいぶ前に改正されています。

船舶に危険がある場合における処置
・船長は、自己の指揮する船舶に急迫した危険があるときは、人命の救助並びに船舶及び積荷の救助に必要な手段を尽くさなければならない(船員法12条)。

多様性を認めず、他人の意見を否定する暴挙

現在は多様性が重要視され、いろいろな意見を各人が持ち、それを議論することが大事とされています。ある程度の規模の企業であれば、こういったことは経営理念等として社内外に周知され、社内教育が行われます。

フジテレビさんの企業情報を確認してみましたが、 CSR活動に関連して人材育成・職場環境の項に、以下のように記載されていました。

人材の多様性
国籍、学歴、性別を問わず、あらゆる人材を幅広く採用し、その能力を発揮できる環境づくりに努めています。海外の大学を卒業する留学生や、外国籍の方の採用も行っています。
障害者雇用についても積極的に行っており、番組制作現場で働く社員もいます。また、定年を迎えた社員も65歳までの継続雇用を行い、それまでの経験を活かした業務や後進育成を担っています。
採用活動とは別に、仕事の理解を深めてもらうためアナウンサー、バラエティ、ドラマ、報道、情報、スポーツ、美術、技術部門等で学生に向けた就業体験を行っています。

ここには、多様な人材の採用については書かれていますが、それがなぜ必要かについては触れていないようです。おそらく、社内教育ではこの記載をもとに、なぜ多様性が必要かの話もされているかと思います。

しかしながら、この解説委員氏は視聴者や出演タレントの賛否あるという意見を否定し、とにかくトップとしてあるまじきという主張を続け、それ以外の考え方を否定しようとしました。

これは、個人の考え方としても、報道機関の解説委員という立場での発言としても、至極危険かと思います。

もちろん、個人の考え方として、トップは最後まで接種しない気概が必要だ、他の人を優先して自分は最後に摂取するのが当然だ、という意見を持つことは自由ですし、それを主張されることも自由です。日本には思想信教の自由や、表現の自由がありますから。

ただ、自己の意見に固執し、他の考え方を否定するのはいかがなものでしょう。一芸能人であればともかく、報道機関の責任ある立場の解説委員をされている方が、こういう考えで日頃報道者として発言しているのだとすると、非常に恐ろしく感じます。

首長は優先されるべきかどうか

これについては、それぞれの自治体の環境や状況もあると思うので、それぞれで議論されるべきことかと思います。都市も田舎も一律でこうすべき、こうするべからずという話ではないと思います。

最後に、解説委員氏が言った代理がいるからという件については、明らかにおかしいことを指摘します。

感染症なのですから、普段から接することが多い首長とその代理(市長と助役とか、知事と副知事)は濃厚接触者になることも多いかと想定できます。まあ、無症状であればリモートワークで対応した事例もあるので、ある程度は代行ができると思いますが、どちらも重症化したらどうなるのでしょう?

もちろん、代理が一人だけということはなく、順番が定められているかと思いますが、感染症なのですから一網打尽の事態も当然想定できます。ですので、代理権者も含め、何人かはワクチン接種しておいた方がよいのではないかと思います。
また、副反応の話もあるので、首長と代理権者が一度に接種するのもリスクがあると思いますので、そこは分けた方が良いと思います。どこの自治体か忘れましたが、上層部がまとめて接種したように受け取れる報道があったので、事実ならばそれはちょっとリスクがあると思います。

そういう意味では、諸外国で率先してワクチンを接種して安全をアピールした事例もあることですし、首長が優先して接種した上で、万が一の場合には代理権者が代行するという体制を取るという考え方もあるのではないかと思います。
少なくとも、精神論、根性論みたいなトップは最後という私見を振りかざして他の意見を封殺するようなものではないと思います。


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