パンドラの箱が開いた。MicrosoftがPower Automate DesktopをWindowsバンドルへ。

2021年3月4日。一部の業界で激震が走った。それは、米Microsoftの以下のリリース。
Automate tasks with Power Automate Desktop for Windows 10—no additional cost

日本法人からは邦文のアナウンスは特に出ていないようなので、内容はPCWatchさんの記事等を参照してください。

以下は、Power Automate Desktop(長いので以下PADと略します)の使い方やメリットデメリットを解説する記事、ではありません。PAD登場によってこれから情報システム部門、いわゆる情シスさんは大変ですね、という肩をポンポンと叩くような呟きになります。

そもそもPower Automate Desktopって何?

そういう解説は今回のリリース以前からありますし、今回のリリースを受けて早速色々と公開されていますので、役立ち知識を求める方は、各種検索サイトで検索の上、そちらの記事を参照ください。以下に書くことは残念ながら何か有益なものをあなたにもたらすことを目的としていませんし、実際に役に立つ内容ではないです。

とは言え、多少は書いておきます。PADとは、パソコン上であなたがしている操作を自動化してくれるツールです。例えば、社内システムとかどこかのWebサイトから何かダウンロードして、それを手元のExcelファイルに転記して、みたいなことを自動化するものです。
よく気が利かない社内システムの出力するExcelファイルとか、見出しにフィルタもついていなければ、ウィンドウ枠の固定もしてなくて、仕方ないので自分で設定する、などという不毛な行為をよくしますが、それはExcelのマクロで自動化できます。
PADの場合は、Excelの中の作業を自動化することも可能ですが、より有効なのが、ダウンロードして上のような加工作業をして、それを誰かに送る、というところまでノータッチでやってくれるところになります。って、もちろん、そのためのシナリオのようなものを自分で作るか、誰かに作ってもらう分けですから、そのための努力は必要です。

PADは所謂ところのロボティック・プロセス・オートメーションというカテゴリに属する製品です。業界でよくある英単語の頭文字をくっつけた略語でRPAと呼びます。RPAというものは数年前から流行り始め、そこそこ一般化したのでコンサルさんや意識の高い人のネタからは消えつつあるかと思います。RPAに属する製品は、無料から安物から、お高いものまであります。また、ある特定の業務、分野に特化したものから、ある程度汎用に使える器用貧乏まで、様々な製品が存在します。PADも前から存在していたものを、 Microsoft社が会社ごと買収して自社製品として販売しているものです。

上述のように、RPA製品には無料のものもあるので、タダで使えること自体はそれほどインパクトはありません。例えば、個人使用であれば無料で使えるお高い製品もありますし。
では何がインパクトがあるかといえば、(将来的に)Windows10にバンドルする、と言い出したからです。タダで使えると言っても、どこかからダウンロードして、インストールして、よくわからないものを使うのは、そういうことが好きな人でなければなかなか敷居が高いもの。ところが、これからはWindows10パソコンを買えば、すぐに使えるものが付いてくるんですよ、奥さん。これはとってもお得。なお、MacにはAutomate、iPhoneやiPadにはショートカットという自動化アプリが入ってます。それらの対抗という意味合いもあるのではないかと思ってます。私はPADをまだ使ったことがないので詳細は知りませんが、林檎が用意したそれらのツールよりは高機能かと思います。いや、それはつまりそれだけ難しいのですが。

第三波襲来、情シスさんには地獄の扉が開くか

結局、前置きが長くなりましたが、これから本題。

世の情シスさんを悩ます地獄というものが色々ありまして。その中でもあるあるなのが、マクロ地獄です。情シスさんなら以下のような話を聞いたことがあるかと思います。ありますよね?

いやぁ、これ○○さん(現場でちょっと腕に覚えがある頼れる人。情シスさんにとってはちょっと困る人)が作ったExcelマクロなんだけどさ。○○さん、辞めちゃってさ。なんか動かなくなったんだけど、あんたらプロだからこんなの簡単でしょ。ちょっと動くようにしてくれない?
なんか、システム変更するっていうんだけど、困るんだよね。そこから落としたデータをマクロでいじってるから、項目名とか並びとか変えないでよ。動かなくなっちゃうからさ。

まあ、ある意味情シスさんにとっては自業自得な面もありますが、こうして、現場で作られた自分たちの手間を省くためのExcelマクロや、Accessマクロのなんと多いことか。最初に作った人が異動したり、退職したりでメンテされなくなり、それでもなんとか動いていたものが、Microsoft Officeのバージョンが上がって使えなくなったり、システム変更で動かなくなったり、なんてことが日々世界で1秒間に数百回繰り返されています。まあ、数百回は嘘ですが、頻繁にそういうことが起きており、その都度、情シスさんが頭を抱えることになります。

そこに登場するのが、PADです。Windows10に付いてきます。腕に覚えのある人には格好のおもちゃ、もとい、便利なツールです。わざわざダウンロードして、インストールしてということをしなくて良いのです。いえ、そういう人は(会社の方針で禁止されていなければ)ダウンロードしてインストールしては苦になりませんが、誰かに使ってもらうためにはその人にインストールしてもらうか、その人のパソコンに自分がインストールしてあげないといけません。そんなことしなくても、Windows10に最初から入ってくるのですから、あとは作ったシナリオを渡すだけです。

今まで、Excelの中の作業をマクロで効率化するだけだったのが、もう少し広い範囲のことができるようになります。いや、これは便利。

ロボットは人類に希望をもたらすのか、絶望をもたらすのか

RPAだと無味乾燥ですが、別の言い方としてソフトウェア・ロボット、あるいは、単にロボットと呼ばれることもあります。あるいは、ツール全般のことはRPAツールとか単にRPAと呼ぶのに対し、それらのツールで実際に人間の操作を肩代わりさせるプログラムとかシナリオといったものをロボットと呼ぶこともあります。所謂産業用ロボットが製品を組み立てたりする作業から人間を解放したように、パソコンの操作を人間に変わって行ってくれる、実体のないパソコンの中のロボットという考え方でしょうか。

このロボットさん、真っ当に動いてくれれば大変便利なものです。が、このロボットさんの知能は現状はまだまだです。
最近は自動運転というものが現実の製品に採用されるようになりましたが、SFマンガ、映画のようなので人間が全く何もしなくて良いレベルのものはまだまだ先の話で、現状は高速道路で前の車に付いていくとか、駐車を自動でやってくれる、といった程度かと思います。自動駐車にしても、その前にある程度お膳立てをしてあげた上でないと自動的に駐車することはできないようです。急に人や動物や物が飛び出してきた時には咄嗟に対応しなくてはならないし、それなら最初から自分で運転した方が良いんじゃないかという気もします。

ソフトウェアのロボットさんも同様です。新人さんなら実際に見せながら言葉で伝えればある程度代わりに作業してくれますが、ロボットさんにはロボットさんがわかるように懇切丁寧に教えてあげないといけませんし、例えば○が□になったり、青が赤になったりすると、途端に理解不能で止まってしまいます。まあ、これは少し極端ですが、実際にちょっとしたことで止まります。

それでも、動くのであればまだマシです。ロボットさんのせいなのか、それが動いているWindowsさんのせいなのか、ロボットさんに教えた手順は問題ないのに100回に数回うまく動かないとか、人間みたいに長時間労働させるとおかしくなったりとか、普通に起きます。いや、まじで。
ロボットさんにさせる作業や分量にもよりますが、つきっきりとは言わないまでも、ある程度様子見をしてあげないとまだまだおぼつかない部分も多いです。もちろん、うまくハマって長期間何の問題もなく動くものもあります。

そんなものが、これからの情シスさんを悩ませることになります。例えば、社内システムの「Search」ボタンを「検索」ボタンに変更したら、動かなくなったじゃないか、どうしてくれる?と怒鳴り込まれることになります。いや、例えば画面名称が「なんたらシステム-検索画面」から「なんたらシステム−検索画面」になったら動かない、なんてことも(実話)。これ違いわかりますか?人間なら多分何も気にせず作業を続けると思いますが、ロボットには無理です。

さらに刻が流れると、今度はExcelやAccessの悪夢再び。知らない誰かの作ったろくに資料もコメントもないロボットさんのメンテを押し付けられることになります。いや、Excelマクロが地獄の一丁目、Accessが二丁目くらいだとすると、RPAは五丁目くらいでしょうか。

いやぁ、大変ですね。ご愁傷様です。頑張ってください。

蛇足

これで終わるとRPAツールベンダに怒られそうなので、多少、擁護しておきます。

上では極端な書き方をしていますが、ロボットさんの作り方を工夫すれば、多少何かが変わっても問題なく動くように作ることは可能です。いや、それだけの手間をかければですけどね。ただ、手間をかければかけるほど、ロボットさんに不具合が発生する確率は急上昇します。専門職でない現場の方が、そんなことを考慮しながらロボットさんを作るのは、なかなか大変ではないかと思います。

拙い記事でございますが、サポートしてもよいよという方はよろしくお願いします。著者のやる気アップにつながります。