がんばれ「コロナ」
居間のストーブが壊れた。
突然「ひゅおおおーん」と異常にカン高い音を出して炎が大きくなり、そのつど消そうとする母と2匹の猫が、パニックになって走り回っていたらしい。
もう、ずいぶん古い。だましだまし使い、休みの日まで待ってもらって、電器屋さんに行った。
うちのストーブは「CORONA」社製。
カーペットの下のつながっている床暖房は、そのまま使いたい。
「今どき、煙突のストーブなんて…」と思ったが、電器屋さんに、ちゃんとあった。2台。
父は「安い方でいい」と言う。ケチだ。
こういう時、母とわたしは結託する。
「ほら、こっちはここに大きく室温が何℃って出るんだよ!あと丁度いい温度にしてくれるんだって」
本当は見た目のカッコよさと『エコ運転』のボタンがあるからだが、父への説明はあとだ。
86歳の父は目が悪い。これでもかという虫眼鏡で、昔ながらの寒暖計を見る。デカい数字で室温が表示される時計を買ったが、相変わらず寒暖計を見る。だいたいそれって、外に提げるヤツじゃないの?
寒暖計の赤い液体を読んで、ストーブをつけたり消したりする。自分の感覚では寒いのか暑いのか、わからないらしい。
たまに母が、真冬用のモコモコのコートを着てソファーに座っている。母は寒がりだ。「猫がストーブの前に来ると『寒いのかい』ってつけるのに、私が『寒い』と言ってもつけてくれない」と愚痴っていた。
ストーブなんて、そうそう買い換える物じゃない。
そんなに値段が違わないなら、便利なほうがいいに決まってる。大きなモノを買う財布を握っているのは父だ。騙して……いや、納得してもらってよかった。
ところが「今、工事が混んでいるので、配達は3週間後になります」って。
そうだよね。そういう時季だもね。真冬じゃなくてよかったよね。母よ、コートを着ながら、猫と走り回りながら、あと3週間お待ち下さい。
…
3週間たった。ストーブが来た。
何度父に説明してもわかってくれない。
「【エコ】ってとこ押すと、この設定温度よりも3℃高くなったら勝手に消してくれるから」
「【電源】は押さないでってば!」
「暑いなら設定温度を下げればいいっしょ。なんで【電源】押すのさ!」
北海道弁まる出しでごめんなさい。恥ずかしい。
だんだんケンカ腰になる。
年のせいだけではない。どうも電化製品を信用していないみたいなのだ。朝5時に一度起きてストーブつけて、また寝てたもんな。前のストーブにも【タイマー】あったはずなのに。
仕事から帰ったら、2人してストーブに向かって正座していた。「【エコ】押したら、いつまでたっても消えたままで、つかないんだ」と父が言う。
うん。つかないよね。【タイマー】になってるもん。明日の朝5時までつかないよ。
頼むから覚えてよー!叫びたい。
解決策はこうだ。
【エコ】は父が押す。もう好きに押していいよ。
水色のボタン、覚えたよね?【電源】は押さないでよ!
【タイマー】のボタンは、寝る前に母が押す。
白だよ、覚えた?あぁ、ばーさんは読めるか。押さないと消えないよ。
大事な事を忘れていた。買い物と病院の時。わたしが乗せていくんだからわたしが【電源】押せばいいのだが、こればかりは譲れないらしい。今日が月に1度の病院の日、父がなかなか家から出て来ない。【電源】を押して、完全に火が消えるのを見届けていたようだ。うーん、もうやだ。
うちに来た新しい「コロナ」くん。ふつつかな両親だけど、よろしくお願いします。時々「まちがえた」と言ってあちこち押してるみたいだけど、これに懲りずに壊れないで、ずっとがんばってほしいです。
そして1番喜んでいるのはコイツらです。↓
…
新型のウイルスが流行り出したとき、北国に住む何人もの人が、わたしと同じく心配したんじゃないのかな。
がんばれ「コロナ」!
株式会社コロナは石油ファンヒーターや石油ストーブ、給湯機、 エアコン、美容機器などを取り扱う総合住宅設備メーカーです。(ホームページより)
…
『#買ってよかったもの』のハッシュタグを付けようと思ったけど、支払ったのは父だった。
わたしも光熱費払っているからね、まっいいか。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?