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ブラー「BLUR THE BALLAD OF DARREN LIVE」25/07/23@Eventium Apollo, Londonライブレポート

今年は年初めからずっと、マッドな旅だった。このような形でここにいるなんて想像も出来なかった。真実の証だよ
と、デーモンは述べた後、"The Narcissist"を弾き始めた。
 https://www.youtube.com/watch?v=5Gr8Z3rUeJM

ウェンブリー・スタジアム2days で勝利のパレードを収めた翌日にアナウンスされた、ロンドン・ハマースミス・アポロでの1夜限りのショー。ウェンブリーの9万人x2という規模から比べると、今回はその半分のキャパシティー。会場入り口のサインには、「BLUR THE BALLAD OF DARREN LIVE」と書かれている。つまり、今回のライブは、新作『The Ballad Of Darren』を収録曲順に演奏、しかもその様子を同時世界配信するという、まさに世界中のファンがこのスペシャルな夜にアクセスできる素晴らしい機会なのだ。
ハマースミス・アポロは、デヴィッド・ボウイの『Hammersmith Apollo 2002 Bowies Longest Ever Concert』が収録された伝説的ヴェニュー。アールデコ調の内装が美しい、シアターのような作りが特徴だ。
今回のステージは、向かって左にストリングスのカルテッドがセッティングされたほか、右手にソファー・カウチが設置されているのを除いては至ってシンプル。

配信開始時間が設定されていることもあり、メンバーはほぼ時間通りにステージに現れた。デーモンとグレアムのブレザー姿はここのところライブの定番になっている。ちなみにデーモンは最近好んで着ている「Universal Works」のブレザーにFILAのポロシャツ。しかしながらアレックスは短パン!?ブリットポップ・トラウザーはどうした!?
ピアノに座ったデーモンが「結構緊張しているよ」と告げ、アレックスがソファに寝そべり、口にくわえた煙草に火をつけると、新作のゴージャスなオープナー"The Ballad"でライブは始まった。ピアノの上には一束の花が添えられている。月並みな表現かもしれないが、今回のアルバムは、このタイトルにもあるように「バラード」に集約されているような気がする。それは、単にミッドテンポの曲が多いというだけではなく、不安や後悔の吐露から、経験からのみもたらされる、傷は癒され、最後にはなんとかなるという希望を表しているからだ。

続く、"St. Charles Square" だが、筆者は既にコルチェスターのウォームアップ・ギグで体験済み、とは言ったものの、今回は、出だしの「I F〇〇ked Up」から不穏な笑みをかまし、"俺はしくじった、俺が初めてじゃない"と余裕の自白。グレアムのギターがライブだとさらに不気味に感じるサイコティックなポップスクリーム。「アー!!」というシャウトは、デーモンの叫びにグレアムがその声を重ね、なんとデイヴがさらに長くハウルしている!道理でスリリングな訳だ。

そして、個人的にライブで観るのを渇望していた”Barbaric”。筆者がJ-WAVE、SONAR MUSIC、ブラー特集で、この曲をライブで聴きたいと話したのはつい前日の事。アルバムの中でもアップテンポな方だが、例の躍動感のあるギター・リフは生で聴いてもクリアかつリッチ。期待以上のパフォーマンスにうっとりしていると、デーモンが優しく呼び掛ける「ダーリン」と後半のクライマックスで不覚にも泣いてしまった。

Russian Strings” でピアノが美しく鳴り響き、大喝采の中、多少悦に入っていたデーモンだが、”The Everglades(For Leonard)”の出だし、「You of grace..」 を歌ったところで、「Wow!」と叫び、一旦演奏を止めた。「イントロのない曲をアルバムに収録すると、こんなことが起こるんだよね。自分では正しい音をヒットしたと思ってるんだ」と会場を沸かせ、自分でもウケていたものの、続けて「いや、このショーの前に、誰が一番ミスをするか、っていう話をしてたんだ。僕が最初だった。今のところ、1-0だ」とミステイクをスウィートなジョークに変える機転の速さ、秀逸だ。

コール・アンド・レスポンスが美しい"The Narcissist"は、なかなか解釈の難しい曲であるが、デーモンが語っていた、「アフターショックのようなもの。何かが起こったときに、後にそれを振り返って、それを簡単に要約するようなもの」とというアルバムのコンセプトを一番良く表現しているかもしれない。つまり、彼らの、ひいてはデーモンの現在の置かれた場所を認めることで、生命力に溢れたサウンドとなっている。弾くようなギターと希望に満ちたハーモニー。最後はデイヴの力強いドラミングで終了した。

 続く”Goodbye Albert”は、 現状から脱出したい、新たなスタートを見つけたいという願望が、ステージを照らす唯一の青い光とグレアムの哀愁漂うギターのエコーによってより増長される。

そして、”Far Away island” で、デーモンは(フェンダー・ローズの)エレクトリック・ピアノに移り、独特の揺らぎと伸び、柔らかさが優しく響く、癒しのワルツを奏でる。アレックスは革張りのソファーに座り、身体をゆらしてプレイしている。目を閉じてその癒し感じているようだ。

この日”Barbaric”同様、ライブで聴けるのを楽しみにしていたもう一つの曲が”Avalon”だった。アヴァロンとは、アーサー王伝説に登場する神話上の島。 「アヴァロンを作ることに何の意味がある?完成したときに幸せになれなかったら?」と言う問いから始まるこの歌だが、ライブだとデーモンのその表情からは、メランコリックさよりもすべてを受け入れる様な雰囲気=強ささを感じたのは私だけではなかっただろう。

そして、アルバムの最終曲である”The Heights”。デーモンがこの日最初のアコースティック・ギターを手にし、エモーショナルに歌い上げるのは、「ザ・ハイツ」への希望と決意。ストリングス隊の張りのある演奏、そこから生まれるエネルギーが力強く4人をサポートしていた。アルバムでも気になっていた終盤のギターサウンドはグレアムが足元のエフェクターと、アームを駆使して作られたもの。そしてその効果は情熱的なノイズを生み出し、アルバムと同様、スパっと切れた。なんども潔いフィナーレだった。
大歓声のなか、一旦メンバーはステージから去るが、オーディエンスからはアンコールの声が鳴りやまない。筆者がいた2階席の観客もすべて総立ちでメンバーの再登場を望む拍手を送る。

デーモンが「もうずいぶん長くプレイしていない曲や、今までライブではやったことのない曲をプレイするよ」と告げ、第2幕が始まる。アレックスとグレアムがピアノに腰かけたデーモンを囲み、マイク・スミスの奏でるシンセが鳴り響くと幻想的なギターが、"Pyongyang"の始まりを告げる。最近のライブでは『Magic Whip』からの選曲が全くと言っていいほどなかったため(ラジオのインタビューでセットリストは信頼できる第三者にゆだねている、と語っていたが)、これはファンにとっては貴重なボーナス曲だ。

続く、"Clover Over Dover"(アルバム『Parklife』から)の演奏中、オーディエンスからBisexual Pride Flag が投げ込まれると、デーモンはそれを肩に掛けて歌い続けた。"Mr.Briggs" (「There's No Other Way」のB面)の後には、「ブリッグ氏のことを考えていた」とコメント。「実家を出て、初めてロンドンで生活していた時、年上のおじさん達と共同生活していたんだ。汚いトイレとバスルームをシェアしてた。ブリッグ氏はその時一緒に生活していたジェントルマンの一人に違いない。僕の人生の中のラブリーで特別な期間だった」とエピソードを披露した。しかし、続いての曲の始まりで、デイヴがカウンティング・インを間違えるというハプニングが。

グレアムが「??」と振り向くと、つかさずデーモンが「最悪なカウンティングだなあ。カモン、デイヴ。君の仕事はなんなんだよ」とツッコみ、デイヴはモグモグと言い訳を言いながら、”All Your Life" (1997年のセルフタイトル『blur』からのスペシャル・エディション)へと突入。そして最後は「次の曲は今まで一度もプレイしたことがない。実は、やろうと言われるまで、この曲の存在すら忘れていたんだ」と紹介した"Theme from an Imaginary Film"(シングル”Parklife”のカップリング)、もちろんライブで聴くのは初めてだが、ストリングス隊の力を借りているからか、びっくりするほどシアトリカルでドラマティック。

このままミュージカルになってもおかしくないくらいのthree-four(スリーフォー)なショー・チューンで、「shame it's over!」とコミカルかつ優雅に第2幕は終了した。

「もう一曲やる?」という問いにオーディエンスが大喝采で答えると、「芸術的な難解さをもう少し抑えたものをお望み?」とデーモンお得意の皮肉。イエスと答える観衆を指さして「いや、ここではノーというべきだろ」と自分で訊いておいて、なんだよデーモン面白いな。しかし、オーディエンスは満足だ。それは最後の最後を飾るにふさわしい"The Universal"だから。デーモンは今回のショーで初めてステージから降りてくるが、ここで忘れてはならないのが、かのダレンさんだ。開演前に入場待ちをするファンにサインをねだられるなど、すでにパブリック・フィギュアーとなってしまった彼だが、仕事に対する姿勢は常に真剣。ファンと握手し、バリアに立って観客を煽るデーモンをしっかり見守り、がっつりと後ろから支える。彼の名前を冠とした今回のショー、ダレンさんの仕事ぶりを見ない事には帰れないところだった。エンディングでデーモンはピアノに戻り、力強く鍵盤を叩いた。すべては、この美しいアンセムに凝縮されていた。皆が喝采を送り、メンバーは感謝の気持ちを表し、ステージを去っていった。

観客からは、時に「Oi!」や「Woo-Hoo!」なども掛け声も聞かれたが、今日は、モッシュもポゴもダイブもなし。レアな曲で構成され、非常に練られたセットリスト。逆にヒット曲を持ち出さなかったことで、このショーをより特別なものにしていた。
また、ライブを体験して気付いたが、第1幕の『The Ballad Of Darren』で、デーモンがマイク一つでヴォーカルを担ったのは"St. Charles Square"のみ、"The Narcissist"と”The Heights”ではギターを演奏したものの、残りはすべてピアノという、今アルバムは、ピアノがコミュニケーションのための主要なツールとなっていることが分かった。

しかしながら、(本人達でさえ忘れ去られていた)これらの名曲をライブで演奏するのにどれほどのリハーサル期間を費やしたのだろう、と想像する。デーモンが、このショーの実現に関しては予想していなかったと語るように、フェスティバルやスタジアム・ショーの合間に行われたこのスペシャルなライブは、「マッド」なスケジュールの中でも逸脱しているし、それに挑戦するメンバーの同じところに留まろうとしない気概と今回のアルバムが彼らにとっても特別な作品であるという自信が感じられるショーであったことに称賛を送りたい。

そして、その『The Ballad Of Darren』だが、『Modern Life Is Rubbish』から30年経った今も、やはり現代生活はゴミなのである。世界が置かれている状況を混沌だと認めながらも、答えはまだ見つかっていないし、一生見つからないかもしれない。しかし、経験を積んだ中年の視点を悪びれず、若い頃の自分には決して得られなかった視点を共有することにより、この作品には何か毅然とした、人生を肯定するものがあると感じるのだ。


【リリース情報】
■アルバム情報
アーティスト名:blur / ブラー
アルバム名:The Ballad of Darren / ザ・バラード・オブ・ダーレン
リリース日:2023年7月21日(金)
国内盤CD:WPCR-18616 / \3,190(税込み)※ボーナス・トラック収録

<トラックリスト>
1.     The Ballad
2.     St Charles Square
3.     Barbaric
4.     Russian Strings
5.     The Everglades (For Leonard)
6.     The Narcissist
7.     Goodbye Albert
8.     Far Away Island
9.     Avalon
10.  The Heights
11.  The Rabbi
12.  The Swan
13.  Sticks and Stones *ボーナス・トラック




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