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ニール・ヤング音の蔵 −第2回 『Way Down in the Rust Bucket』−

みなさん、こんにちは。
言わずとも知れた、孤高の発信者ーー 偉大なシンガー・ソングライター、ニール・ヤング。新作リリースは勿論、過去の未発表音源や貴重なライヴ・アーカイヴ・シリーズを圧倒的な熱量で発表し続けるカリスマ。誰もが知るロック・レジェンドであります。

そんなニール御大の、膨大なアーカイヴからリリースされる<重要アイテム>をしっかりとおさらいすべく、音楽評論家の大鷹俊一さんに各作品についてご説明いただく<不定期シリーズ>。早いペースでの第2回更新となりました!

今回は2021年3月31日にリリースされたばかりの、LIVEアーカイヴ・シリーズの『Way Down in the Rust Bucket』です!1990年に録音された当アルバム、詳細は大鷹さんの解説の通りですが、まさしくグランジ真っ只中のシーンにも影響を受けたであろうサウンドは必聴です。

ちなみに第1回「ニール・ヤング音の蔵 −第1回 『Neil Young Archives Vol II』−」はコチラより

一瞬たりともとどまることを知らないニール・ヤング、アーカイヴ・シリーズの新作はニールにとってもっとも重要なバンド、クレイジー・ホースとのライヴもので、90年11月13日カリフォルニア州サンタクルーズでのパフォーマンスを2枚組に収めた『ウェイ・ダウン・イン・ザ・ラスト・バケット』だ。

この時期のニール・ヤング&クレイジー・ホースには『ウェルド』('91)という名ライヴ盤があるのはよくご存知の通り。

そのアルバムは、当時全米に吹き荒れたニルヴァーナやパール・ジャム、マッドハニー等による“グランジ・ロック”の動きに刺激を受け、それらの背景となったシーンを作り出してきたソニック・ユースをフロント・アクトに迎えたツアーからのもので、とびっきり壮絶な激音を響かせた。
今でも彼らのベスト・ライヴ盤とする声もあるが、今回の『ウェイ・ダウン・イン・ザ・ラスト・バケット』はそんな『ウェルド』が録られた91年1月末から4月末まで北米で53回行われた“1991 Smell The Horse Tour”のウォームアップとして90年11月12日(カリフォルニア州ウッドサイド)と13日の2回行われたパフォーマンスから13日の分を収録している。

当時『傷だらけの栄光(Ragged Glory)』('90)をリリースした直後で、3年ぶりにクレイジー・ホースを召喚してのアルバムはディストーションの効いたヘヴィなサウンドが炸裂する強力なもので、その熱いテンションを維持して突入するステージが収められているが、同アルバムから全19曲中7曲ピックアップされていて、

おそらくツアーで取り上げるのに適しているかのチェックも兼ねているのだろうが、新しい曲に挑みかかるのが楽しくて仕方がない風なニールのパフォーマンスがたっぷり詰まっている。

ロックの原点を改めて確認させたグランジの波に真正面から立ち向かう気分が充満し、ビリー・タルボット(B)とラルフ・モリーナ(Ds)によるリズム隊はよりハード&ヘヴィなサウンドへと向かい、そこに呼応してニールとフランク・サンペドロのギターは挑発を続けながら高みへと登っていく。
演奏はどんどん長尺となっており、このヴォリューム感は『ウェルド』以上とも言えるし、ラフな感覚を尊重したミックスもまたこのときのニールたちの気分からすると、よく合っている。

そして『ウェルド』との最大の相違点は、このライヴの後、91年1月17日にイラクを多国籍軍が空爆して本格化した湾岸戦争への反戦モードが高まり、ボブ・ディランの「風に吹かれて」を取り上げたり、「ロッキン・イン・ザ・フリー・ワールド」をプレイ・リストに入れるなどしたわけで、湾岸戦争が無ければニールが当初考えていたツアーのイメージはここにあると言っていい。

だからこそアーカイヴ・シリーズの中でも、『シュガー・マウンテン・ライヴ・アット・カンタベリー・ハウス1968』に始まり各種名ライヴが発掘されている<Performance Series>中、<Vol11.5>という番号がふられているのだろう(ちなみにVol.11は87~88年に行ったブルーノーツとのライヴ『ブルーノート・カフェ』、Vol.12は『ハーヴェスト・ムーン』の楽曲をソロでやった『ドリーミン・マン・ライヴ'92』となっている)。

https://youtu.be/O3Ax9Z2-OgI

このサンタ・クルーズの会場はキャパが約800人。
ニールは75年からしばしばライヴで訪れている馴染みの場所だけに観客の反応もよく、伸び伸びとプレイしているのが伝わり、すべてが聞き所ばかりだが、あえて本作のみの美味しいところを挙げておけば、まず『傷だらけの栄光(Ragged Glory)』からの「あの頃の日々(Days That Used to Be)」と「オーヴァー・アンド・オーヴァー」は『ウェルド』未収、しかも「オーヴァー・アンド・オーヴァー」はツアーでは取り上げられていない超レアものだ。

また81年のアルバム『リアクター』収録の「サーファー・ジョーと堕天使モウ」と「ティー・ボーン」は、ほとんどライヴで取り上げられたことのないレアなナンバーで嬉しいところ。
聴き応えがあるのが、75年のアルバム『ZUMA(ズマ)』で発表された「デンジャー・バード」で、なんとこの時がライヴ初披露、しかも続く91年のツアーでも取り上げられることがなかったもので、10分以上にも及ぶ演奏はニール&クレイジー・ホースならではの空中分解ギリギリのところを爆走してみせ感動的だ。

ディスク2の幕開けナンバー「ロール・アナザー・ナンバー(フォー・ザ・ロード)」や「ドント・クライ・ノー・ティアーズ」「セダン・デリヴァリー」などはライヴではお馴染みだが、次ツアーで取り上げられなかったし、

「ライク・ア・ハリケーン」「ラヴ・アンド・オンリー・ラヴ」「コルテス・ザ・キラー」といった人気曲が並ぶ最後半の興奮は改めて強調するまでもない。

どうしても<Performance Series>の中にこれを入れたかったニールの思いが伝わる貴重なライヴ作の登場だ。

大鷹俊一


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