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ニール・ヤング音の蔵 −第1回 『Neil Young Archives Vol II』−

ニール・ヤング
言わずとも知れた、偉大なロック・レジェンドとして知られるシンガー・ソングライターです。伝説的バンド、バッファロー・スプリングフィールド他を経てのち、1969年にソロとして活動をスタート。独自の視点で社会問題に目を向けたプロテスト・ソングを数々生み出し、シーンで際立つ存在感を見せつけてゆきます。
<現在のロック・フォーマットにおける最重要人物の一人>であることは誰も異論がないところだと思います。

日本にもフジロック・フェスティバルやジャパン・ツアーで来日していますが、2003年11月の日本武道館2daysの公演を最後に、約18年もの間、日本での公演が実現しておりません。
(※公演こそありませんでしたが、2011年に、東日本大震災の支援プロジェクト「TOMODACHI」にて一度来日を果たしてくれました)

その活動のペースは全く落ちることなく、むしろソロ以外にも様々なプロジェクトを併走させているような状態。
新作もますますリリースされますし(しかも毎作物凄い熱量)、過去の未発表音源や貴重なライヴ・アーカイヴ・シリーズを休むことなく発表。
歌と言葉を発し続ける、孤高のレジェンドとして大きな存在感を放っております。

実際、気をぬくと重要作品がいつの間にかリリースされている御大のアーカイヴ・シリーズ…(担当の心の声)
ここではそんなニール御大の、膨大なアーカイヴから近々にリリースされる重要アイテムをしっかりとおさらいすべく、音楽評論家の大鷹俊一さんにお願いをし、各作品についてご説明いただく<不定期シリーズ>をお届けしたいと思います。

第1回は、2021年3月にリリースした、いきなりディープなアーカイヴ・シリーズの『Neil Young Archives Vol II』から!

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ー第1回 『Neil Young Archives Vol II』−

息つく間もなく注目アイテムを次々と発表するニール・ヤングだが、ついに待望の『Archives Vol. 2』の一般向けエディションがリリースされた。最初の『The Archives Vol. 1』が出たのが09年のこと。それから数多くの<アーカイヴ・シリーズ>が出され、その間に新作も混ざるのだから本当に一瞬たりとも気を抜くことができない楽しい日々だが、そんな中で絶えず呟かれていたのが『Archives Vol. 2』への期待だった。

12曲が未発表曲、49曲の未発表ヴァージョンなどが10枚のCDにぎっしりと詰め込まれた『Archives Vol. 2』の<1972〜1976>という時代は、充実した多作期でありつつも、友人の死や恋人との別れなど辛い経験も多く、また同時に世界中で急激に膨らんだ人気に戸惑い、さまざまな方向性も含め模索する特別な時期で、そこをまとめるのに十年以上の歳月がかかったのも納得がいく。あの切ない『今宵その夜(Tonight's The Night)』のセッションもあれば、『渚にて(On the Beach)』や『ズマ』の頃の未発表音源がどっさり含まれていたり、しかも日本の熱心なファンたちに向けてか、最後のディスクには、いまも体験した人の間では語り草の76年初来日公演、日本武道館のライヴも入っているというのだから、これこそ日本のニール・ファンには一生のお宝だ。

ボックスはキューブ型スリップ・ケースに10枚のCDが収められており、ディスク2の『タスカルーサ』(73年、貴重なストレイ・ゲイターズとのライヴで、セットリストが秀逸)、ディスク4の『ロキシー:トゥナイツ・ザ・ナイト・ライヴ』(73年9月、ニルス・ロフグレンを含むザ・サンタモニカ・フライヤーズとのライヴ)、ディスク7『ホームグロウン』(昨年正式リリースされた未発表アルバム)の3枚は既出ながら、こうして時代の流れの中に置かれると、それぞれの持つ意味が、より鮮明になる。

本当に宝の山で、語りだすと何万字あっても足りないが、まず『Everybody’s Alone (1972-1973)』と第されたディスク1が強力で、1曲目の『ライフ』('87)に収録された「Long Walk Home」の原型の「Letter from ‘Nam"」に震える。もちろん未発表のもの。そしてディスク1の締めくくりは『デジャ・ヴ』に続くアルバムを、と集まったクロスビー、スティルス、ナッシュとの「ヒューマン・ハイウェイ」の未発表セッションで、ニールとスティルスのアコースティック・ギターと素朴なハーモニーが美しい。

そして誰もが大好きな『今宵その夜』のセッションを集めたのがディスク3『Tonight's the Night (1973)』だ。既発と未発表ヴァージョンが入り交じる中での最注目はジョニ・ミッチェルが書き、本人もリード・ヴォーカル&ギターで参加の「Raised on Robbery」で、正式に出されたことに本当に感謝しかないトラックだ。『Walk On』と題されたディスク5は『オン・ザ・ビーチ』のレコーディング・セッションが中心で、71年に書かれた「Bad Fog of Loneliness」など、どうしてここで完成させなかったのか不思議なほどだし、最後の「グリーンスリーブス」は味わい深い。続くディスク6『The Old Homestead』も本作1,2を争うお宝の山で、74年6月の自宅でのセッションからCSN&Yの1974年ツアーで披露された「Love/Art Blues」や、同じくしばしばライヴでは披露されながら正式リリースはなかった「Homefires」や未発表の「LA Girls and Ocean Boys」が並ぶ。

『Dume』とされたディスク8は『Zuma』セッションの記録で(ジャケットも別テイク◎)、「パウダーフィンガー」や「優しきポカホンタス」のような曲はこの流れの中にあることで違った存在感を発揮している。続く『Look Out for My Love』と題されたディスク9は『ロング・メイ・ユー・ラン』を出したスティルスとのものやCSN&Yでの未発表ヴァージョンなどが注目だが、中には初来日時(76年3月)に観客を泣かせた「メロー・マイ・マインド」のバンジョー・ヴァージョンが大阪のステージから収められている。

そしてボックス最後のディスク10が日本のファンには最大のプレゼント。前半は76年3月31日ロンドン、ハマースミス・オデオンのアコースティック・ソロ・セットで、後半は76年初来日、3月10、11日日本武道館でのクレイジーホースとの熱い5曲が聴ける。発売されたばかりだった「ドント・クライ・ノー・ティアーズ」、「コルテス・ザ・キラー」など伝説のパフォーマンスだが、そう言われ続ける理由も感じてもらえるはずだ。

 <1972〜1976>と、ニール史において特別な時期を切り取った『Archives Vol. 2』は期待通り充実した姿が迫ってくるし、デビュー前やバッファロー・スプリングフィールド時代からソロ初期にスポットを当てた『The Archives Vol. 1<1963〜1972>』と並べると、壮大なドラマが浮かび上がってくる。これほど豊富な音源と共にセルフ・ヒストリーを振り返るアーティストはいなかったし、まだまだ物語は続いていく。
大鷹俊一


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