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2023年最強のエクストリームメタル・バンドが誕生!その正体とは?!

名前に何の意味があるかって? あえてEmpire State Bastard(エンパイア・ステイトのならず者)を名乗ること、即ちバンドの主旨を訴えること。つまりは、リフは強烈なリフまたリフで押しまくり、リズムは容赦なくたたみかけ、ヴォーカルはデス声からドス黒い怒りの咆哮まで狂暴でやりたい放題、ということだ。
 
このバンドのデビュー・アルバム『Rivers of Heresy』は、メタル及び隣接ジャンルの種々様々な過激なサウンドの隙間に潜んでいそうな闇を果敢にもほぼ精査し尽くしている。その驚異の足跡をたどれば、Siegeの流れをくむ強烈なハードコアから、Slayerのスタジアムに響く熱狂的なスラッシュの体感、Melvinsの閉所恐怖的ドロドロ感、マイク・パットンの自在なヴォーカルの妙技、更にはSleepの途方も無いストーナー・リフにも行き着く。メタルの先達をルーツとしつつ、近年のレフトフィールドな攻撃性にも通じているEmpire State Bastardは、DownloadやHellfestのようなランドマーク的メタルフェスでも、Roadburn やArctangentを始めとするよりニッチなイベントでも成功し得るだろう。
 
話は2002年2月、マンチェスターのNight and Day Caféに遡る。Empire State BastardのギタリストであるMike Vennartのバンド、Oceansizeが、当時はまだ無名だったBiffy Clyroと同日に出演。名前を聞いて「Gorky’s Zygotic Mynciみたいなサイケなウェールズのフォークバンド」に出迎えられるものと予想していたマイクは、それどころか「マーシャルをブッ積んで叫びまくる3人の男たち」に圧倒されることになる。2つのバンドはその場で友情と互いへの敬愛を共有。Biffyがアルバム「Only Revolutions」の成功を受けて大躍進するタイミングでマイクはツアー・ギタリストとして彼らのバンドに参加し、以来そこに留まっている。
 
マイクとBiffyのフロントマン、サイモン・ニールは、ツアー先で時間があるとバスの後部座席に陣取り、最高にヘヴィでアヴァンギャルドな、もしくは最高に病的で不快な音楽を見つけては聞かせあった。やがて自ら音の荒れ野を作ろうと考えるに至る頃には、サイモンの頭には既にこのバンド名があったので(「めっちゃヘヴィなレコードを自分が作ったあかつきにはEmpire State Bastardって名前にすると、ずっと前から決めていた」)、マイクは殊更に奇異な挑戦を迫られた。そんな名前に恥じないためには、どんな音楽を書けばいい?
 
それを実行に移すために必要な時間と狂暴性を取り揃えるのに、10年ほどかかった。胸糞悪い右傾の政情に焚きつけられ、当たり障りのないアリーナ・メタルに退屈したマイクを急襲したインスピレーションが数多の曲想に結実。10分で10曲片付けるフルスロットルなグラインドコア的カオス、もしくはConverseやDillinger Escape Planのような計算づくの数学的カオスなど、折々のコンセプトはより明確だった。しかし、アルバムに反映されたのはむしろ、マイクが言うところの「純然たる音による徹底破壊、といっても色々あるが全部ひっくるめて」
大好きだという共通の想いだった。「俺が書いた曲はそれぞれ直接の繋がりは無いが、みんな友達同士にはなれる、と俺は思いたい」
 
Biffyでの仕事とは相反して、サイモンの今回のレコードでの貢献はヴォーカルにほぼ限定されている。アルバムの最初の2曲“Harvest”と“Blushe”だけとっても彼の声はいつにも増して多彩で、Fantomasのアルバムで聴くような金切り声や喘ぎ声、Morbid Angel やMayhemを彷彿とさせるしわがれたデス声のグロウル等が盛り込まれている。「俺は自分の声を曲の様々な局面に合わせて選んで使う楽器と捉えていた」と彼は説明する。「全体にできるだけ立体的に作るべし、というのが俺には本能的にあって、だから、普通だったらここまでヘヴィな音楽には入っているはずがない軽めでさりげないファルセットも、スクリームに込めた怒りと同列に並ぶ必要があったんだ」」
 
歌詞的には「俺が今まで書いてきたのと同様に厭世的かつ虚無的だ」とほほ笑む彼。そして「向き合うべき相手と向き合っていない」様々な状況に対する視点に貫かれている。ロックダウン以降の社会への不満が火付け役だった。新たな一体感や新鮮な共同の精神を期待していたのに、現実は正にその逆だったからだ。「一番デカい声でわめいたやつが一番耳を貸してもらえるって感じの、なんとも悲しい現状。厚顔無恥な連中が偉そうに、出来るだけ多くの人間をゲームから排除し、巻き添えを食うまいとしている。そこなんだよ、俺が抵抗を覚えるのは。まともな人間は大半がそう感じているはずだ。ただ、まともな人間の大半は首を突っ込もうとしない、やっても無駄だからって」
 
へそ曲がりの物知らずを標的にした“Moi”、羞恥心の崩壊を歌う“Blusher”、あるいは救済の果ての社会を思い描く“Dusty”…といったテーマがレコードを支配している一方で、Takashi Miike風の漆黒のユーモアが炸裂する場面もあり、例えば“Palm of Hands”は「セックス・パーティに行ったらとんでもないことに」という小噺が展開される。
 
彼らデュオによる本能の猛攻を縁の下で支えるのが、負けず劣らず熱狂的なドラム・パフォーマンスだ。脱線寸前の暴走列車よろしく、怒涛のフィルと俊足のツーバスが破壊力とグルーヴを同等に繰り出す。ドラムは当初マイクが打ち込みで作っていたが、2人はジレンマに陥った。Slayerのレジェンド、デイヴ・ロンバードみたいに叩ける知り合い、いなかったっけ? サイモンがどう解決したかって? 「デイヴ・ロンバード様に頼んじまおう!」となったらしい。
 
それは彼ら2人の十代の頃からのメタル・ファンタジーの極みだった。彼が即座に了承し、2週間のセッションを経てパートを提供してくれたのだ。「デイヴが俺たちのために叩いてくれているのを同じ部屋で座って聴いている感じがした」と言うサイモンの目には、信じ難い思いが今もキラめく。「モダン・メタルのドラムプレイを発明したといっていい男が叩いてくれたんだから、あの瞬間にレコードの成功は決まったね」
 
彼の貢献が特に魅力を放つのが“Tired, Aye”だ。ここにはギターとベースを差し置いてジョン・ゾーンのNaked Cityばりにヴォーカル/ドラムの猛攻を繰り広げるサイモンがいる。「あの曲にはすごく根源的なものがある」と、その大胆不敵さをサイモンは笑う。「要はデュエットだ。キキ・ディー&エルトン・ジョンみたいな。サイモン・ニール&デイヴ・ロンバードだけどね。俺ら版の“Don’t Go Breaking My Heart”ってこと」
 
デイヴ・ロンバードの参加を得た彼らの興奮にこそ、Empire State Bastardを支える純粋な目論見が見て取れる。メタルはそもそも音楽を演ろうと彼らに思わせたもの…Maiden、Metallica、Sabbath、Pantera…であり、ロック・バンドの連中がむしろ内なるニール・ヤングを見出したがっているように思われる時代を生きながら、彼らは逆に想像し得るあらゆるタイプのヘヴィネスを吐き出す清めのレコードを作ったのだ。
 
この取材中、彼らはありとあらゆるアグレッシヴ系アーティストの必須どころを引き合いに出し、更にはThe Locust、Oranssi Pazuzu、Daughters、Godflesh、マックス・カヴァレラ、High On Fire、Wll Haven、The Armed、Brutus、Deafheavenの名前も挙げていた。早い話が、彼らはファンなのだ。我々と同じように。
 
サイモンも認めている。「ティーネージャーの頃、Sepulturaの“Chaos AD”のTシャツを着て、迷彩ズボンにドクター・マーティンを履いてダウンタウンを歩いていると、みんな立ち止まってジロジロ見てきた。あれで俺たちには俺たちの世界があることを実感したし、だから俺はロックやヘヴィミュージックをずっとだいじにしてきたんだ。俺たちは100人中の99人じゃなく、残りの1人であろうとしてこういう音楽にのめり込んでいった。そういう、他の誰にもわからないが俺たちにはわかる憤りを伝え合えるのが最高なんだよ」
 
その精神がEmpire State Bastardにも波及している。これはBiffyのレコードの合間の暇つぶしではない。2人の男が生きていくための刺激を30年以上に渡って与え続けてくれたサウンドを自らも生み出そうという衝動の産物なのだ。彼らは本気だ。デイヴ・ロンバードも、スケジュールが許す限りできるだけ多くのショウに参加することになっていて(ライヴ時のバンドは元Bich Falconのベーシスト、Naomi Macleodが加わって完成)、2作目のレコードも既に制作中である。
 
というわけで、名前の意味? 考案はサイモンだったが、見事に定義してくれたのはマイクだった。「俺は自分にできる最高に毒気のある下劣なレコードを作ろうとした。音楽の姿を借りた完全無欠の憎まれっ子ってやつ」それこそがEmpire State Bastardなのだ。

■ミュージック・ビデオ
Harvest:https://www.youtube.com/watch?v=S5Xjku-dYJ8

Stutter:https://www.youtube.com/watch?v=EU5CZep0Xuo

 
【リリース情報】
■アルバム情報
アーティスト:Empire State Bastard / エンパイア・ステイト・バスタード
アルバム名:Rivers Of Hersey / リヴァース・オブ・ハーシー
リリース:2023年9月1日(金)
国内CDの情報:WPCR-18628、\3,080(税込)
予約:https://rrjapan.lnk.to/ROH
 
<トラックリスト>
1. Harvest
2. Blusher
3. Moi?
4. Tired, Aye?
5. Sons and Daughters
6. Stutter
7. Palms of Hands
8. Dusty
9. Sold!
10. The Looming
 



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