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【掌編】胡蝶蘭は中間管理職(第3話)

闇に舞う
桜の街は、まだかと
残忍な池の淵に
向日葵がほおづえをつき
溜め息混じりの唄を聴く

「こんばんは〜」

だれもいない…
8時開店の店に8時ちょうどにくる客も珍しいか。

「こーんーばーんはー」

だれもでてこない…
闇が降る
生贄の匂いがすると
朱色の花が咲き誇る窓際に
勿忘草が沈黙を護り
いたずらにイジワルな時を過ごす
僕ら、堕ちる
死は最高の贈り物

「あっ、こんばんは〜」
「あれ、早いね」

「そっちこそ(笑)」
「ちょっと待ってね」

そう言い残して、お店の奥に戻っていった。

「もう喪ったものなのよ」

気づけば裏側は早咲きの蓮華草
失いし我が身を悟る
何故だろう
今日は、お店の中に不可思議な空気が流れている
逆さ鑑は、世界鏡
自らを観る唯一の救い
自虐者にとって「現実」とは、
つらく厳しい社会を指し
居心地の良い空間を「夢まぼろし」と
突き離す
「どっちも同じ」なのに気づかないか?
合わせ鏡の前で笑う者よ
さぁ、唱え
霞みがかった部屋に透き通る
果敢無く、果てない唄を
その唄の名は「希望」
現実とは希望を絞り出す幻像のこと
さぁ、踊れ
三ツ星の名を騙る北連星を巡り
遠く禍いを糾う氷の路を

「なんか飲む?オレンジ?」
「やだ。だれかと一緒にしないで」

【つづく】


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