見出し画像

始まってほしくないのに 終わってほしくもない夏



「夏なんて無くなればいい」


大人になり夏休みがなくなった。
少年時代のように
夏を純粋に好きになれなくなった。
むしろ暑いだけで今は嫌いだ。


海。花火。キャンプ。
今年も結局何もしていない。
1人寂しく汗を流し働くだけの夏。
早く涼しくなってほしい。


今日も仕事前にぼーっと
ベランダから地元の景色を眺める。
この時間が割と好きだ。
本当はイかしてタバコでも吸いたいが
煙が身体に合わない。
代わりに手には缶コーヒー。

視界の端に映るトンボが
秋の始まりを告げる。
よかった、ようやく少し涼しくなる。


「トンボは後ろに飛べんけん
 前に進むしかないんよ。
 くよくよしてないで、はよ元気だしさい」


ふと彼女の言葉を思い出す。



茶髪にツケマとピアス。
手にはジッポとピアニッシモ。
坊主頭の僕とは対照的な
田舎なのに大人びてイケてる彼女。
甲子園出場を目前で逃し
途方に暮れていた僕の
夏を埋めてくれた彼女。


10年前。
高校最後の夏。
川。夏祭り。お泊まり。
初めての…

イケてる彼女の上京後
花火のようにいつの間にか終わった
僕の唯一の恋。


戻りたいなあの頃に。。
そろそろ仕事に行くか…


ガラガラ〜.!

あ、そういえば今日からか。
暫く空いていた隣に女性が越してきた。


カキーン…ポンっ。。

懐かしい音と涼風に乗って届く
10年ぶりのイケてるあの香り…


「あ、やっぱ夏まだ終わらないでくれ」

始まってほしくないけど
終わってほしくもない夏

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?