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すき焼きとsioイズムの親和性



「木田、奈良たのむわ。」

「あ、はい。」



力を含みつつ、どこか拍子抜けな辞令に二つ返事で奈良に移り住み、㐂つねもオープンしてから4ヶ月が経ちました。

(その後、本当に行ける?大丈夫?嫌じゃない?と何度も確認されるくらいには気を遣って頂いております。いつもありがとうございます。)



「すき焼きを奈良でアップデートする!」と度々唱えていた鳥羽さんの想いの強さは伺えていました。


その気合いの入り様に立ち上げを任されるような気もしていたので特別驚きもしませんでした。



"すき焼き""奈良"という二重にアウェーな領域で勝負する事については多少の不安もありました。


ただ洋食、居酒屋と展開してきた実績もあるので、何を今さらと開き直り、生い立ちを順になぞるところから勉強していきました。


史実を掘り探り、実態を考え続けていくうちにどうやらすき焼きとsioは想像以上に奥根っこで繋がっており、㐂つねの誕生は成るべくして成ったのだと確信を持つようになりました。



すき焼きのイズム

すき焼きの歴史を辿って行くと、いつの時代も、軸がしっかり「お肉を美味しく食べさせる」というゴールへ向かっている事を改めて認識させられます。

おおよそ開国と同時に入ってきた牛肉食の文化。その歴史の浅さ故、当時のお肉の品質、加工技術、取り巻く環境は今ほど恵まれた状態ではありませんでした。

すき焼きの前身になった「牛鍋」は、その肉特有の生臭みを消すために味噌で調味していたと言われており、定番の付け合わせである玉葱や人参も、フレンチ等で言う所の”香味野菜”という位置付けでお肉の風味を補う為に一緒に調理されたのが始まりだと推測できます。


お肉のポテンシャルが50点でも、それを調理や調味でカバーして美味しく食べられるよう創意工夫する。


当たり前だけど美味しい物を追求して行く上でとても大事な精神が当時のすき焼きからは読み取れました。



更に言うと、海外の食文化×日本の調味という背景からも感じる、「変化を恐れず環境に合わせて適応する」という体質を持つ料理であるからこそ、すき焼きは一過的な流行りで終わらず、現在も御馳走の代名詞として皆に愛され続けているのではないでしょうか。


しかし、時代の先端を行っていた筈のすき焼きも、今聞くとどこか古臭い印象を受けます。


それはきっと、何時からか工夫しなくても形になってしまう程に食材の品質が調味を追い越してしまったから。



時代の流れと共に牛肉は美味しくなり、逆にすき焼きの進化は止まってしまったのです。


サシの入った良いお肉が手に入る現代で、「お肉を美味しく食べさせる」というゴールへ向かう為には、調味の部分はある程度引かなくてはなりません。


行き過ぎた調味は料理のバランスを崩し、食材の良さを塗りつぶしてしまう。俗に言うすき焼きの重たさはそこから来るものでしょう。


それを踏まえて、㐂つねで仕込む割下は塩梅を調節し、しっかりとした甘じょっぱさを感じながらもお肉の味や香りを損なわないバランスに設定しています。


また、単調な味付けでも飽きが来ないよう、2枚目、3枚目とお肉を食べ進めていく毎に徐々に味を濃くしていき、流れに緩急をつける事を意識しています。(お客様の好み次第で調整させて頂きます)



「時代やニーズ、食材の状態などの変化に柔軟に適応し、美味しいを届ける」というすき焼きの軸にあるイズムはsio株式会社が今までやってきた事、そしてこの先届けていきたい事と一致しています。


すき焼きは僕らの在り方そのものなのです。


そんな大事な火種を絶やしてはならない。小さくなってしまった火を再び大きな炎になるまで、薪をくべ続ける。



僕らにはそれをしなければならない理由があります。



rebornではなく、rebootの感覚で見つめ直すすき焼きの在り方。


更にはここにコースの構成、ストーリーなどの「文脈」という縦軸と、イケウチオーガニックのおしぼりやマルニ木工の椅子などの食事における「体験」という横軸。



この両軸を通して、すき焼きをどこまで最大化させ爆発させられるか。やるからにはここまでが僕らのミッションです。



平城京の生い立ち等の時代背景の観点から、奈良との親和性もいくばくか感じる。


王道のすき焼きを現代にチューニングし続けていく。


そして美味しいを超えた先にある感動の食事体験を提供する"レストラン"で在らなければならない。


「”すき焼きレストラン”として在り続け、奈良から幸せの分母を増やす。」


重ね重ね意味を込めて、テーマはこんなところでしょうか。


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「木田、営業たのむわ。」


「え‥‥!?」


そういえば、sioに入社して間もない頃に奈良絡みで同じようなやりとりをした事があるのを思い出しました。


あの日は鳥羽さんが奈良出張、僕がsioに留守番という状況で、自信の無さから「待ってください!」と言わんばかりの頼りない返事しか出来ず、一日中うろたえてなんとかやり過ごしました。

(入って一週間も経たない週末です。何ならその件以来、奈良をちょっと恨めしく思ってました。)


まさかその時は自分が奈良でお店を見る事になるとは思いもしませんでしたが、信頼して任せてくれるスタイルはあの頃から何も変わりません。


ただ、信頼とプレッシャーは背中合わせです。


息をついた途端に取り残されてしまう恐ろしさ、磨き続ける事の大切さを今回すき焼きを見つめ直す事で学びました。


日々結果に貪欲に勤しみ、チャレンジさせて頂けるこの環境への感謝を忘れず、今日もスランプ気味なメニュー開発に頭悩ませていきたいと思います。




㐂つねの挑戦が幸せを増やすと信じて。


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