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ベリータルト

本日のデザート、ベリータルト。どっしりとしたタルト生地の中にたっぷりのカスタードクリームとラズベリーペーストが二層に詰められている。その上をうつくしく彩るのは、これまたたっぷりと気前よく敷き詰められたいちごとブルーベリー。鮮やかな宝石のように輝くベリーたちに散らされた金箔が、夜空の星のようにきらめいている。頼もしい厚みのタルト生地はさっくりとした歯触り。穏やかな甘さながらも濃厚なコクを内に秘めたなめらかなカスタードクリームを、半ばゼリーのように煮詰められたルビー色のラズベリーペーストが引き立てている。箱を開けた瞬間からなんとも芳醇な香りで誘ってくるいちごたちの、みずみずしい甘み。それら素晴らしいキャストたちをきりりと引き締めるブルーベリーの、すがすがしく凛とした酸味。てっぺんから底の底まで、このタルトは何もかも自分の好きなもの、好きな味わいでできている。おいしいとか最高とか、そんな言葉では追い付けないくらいにめちゃくちゃウマい!貧困な語彙がくちおしや!ごちそうさまでした。


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フルーツタルト、特にベリータルト好きならば光の速さで平伏せざるを得ないこのうつくしい逸品は、高校時代からの親友の手作りです。初めて出会ってからかれこれ20年以上の月日が経っているけれど、ほぼ毎年の誕生日に、私は彼女の作るバースデイ・スイーツを食べています。

毎年2月下旬になると、親友から「ワカナ、今年はどんなおやつの気分?」という連絡が来る。そのたびに「今年はりんごかなあ」「栗食べたい…」「最近いらいらしがちだから乳製品系で」「赤ワインに合うやつ」「白ワインに合うやつ」「ぷるぷるしたもの」「仕事に持っていきたい」「果物がっつり系で」等々、我ながらいい加減にしろよと言うくらいぼんやりしたオーダーをしてきた。もうちょっとちゃんと言語化しろっつーの。

そして彼女はかれこれ20年以上、アップルパイやモンブラン、レアチーズケーキにチョコレートケーキ、いちごのムース、三色プリン(プレーン・抹茶・桜!)、アイシングクッキー、フルーツタルト……といった数々の力作を贈り続けてくれている。

彼女は高校を出てからずっと会社勤めをしており、お菓子作りに関しては完全に独学だという。


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私にしてみたらどう見てもプロの犯行としか思えないんですが……ひいき目だろうか。

しかも、甘いものがあまり得意ではない私(甘いものっておいしいんだけど、たくさん食べられないのです)を慮って、毎年絶妙に甘さ控えめだけど激ウマな逸品を錬成してくれるため、ワンホールケーキをほぼ一人でたいらげるという、私にしてみたら絶対あり得ないことを毎年やらかしてしまう。本当に本当においしいのです!


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切り口までエモい。彼女の繊細かつ几帳面な仕事ぶりがこんなところにまで張り巡らされている。


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今年はさらに、彼女がここ一年ほどドハマりしているつまみ細工でできたヘア・アクセサリーも贈ってくれた。もちろん手作りです。しかしこれ、一体いつどこに装備してったらいいのかしら……。数年前から着物にもハマっている彼女の、「お前も着物を着ろ。貸してやるし着せてやっから。」という静かなプレッシャーを感じる。

彼女は会社勤めをしながら、同じ会社に勤める旦那さんの妻として、そして三児の母として、毎日忙しい日々を送っている。そうした生活の傍らで、一体どうやってこうした美事な品々を錬成しているのか謎だ。それ以上に謎なのは、こんなにも細やかで整然とした仕事ぶりを発揮できるのに、いつ行っても彼女の部屋が恐ろしく散らかっていることだ。まだ制服を着ていた頃に初めてお邪魔して以来、彼女の自室の床が全面見えている光景を未だに目にしたことがない。全面埋め尽くされているところは、何度か見たことがある(ただしベッドだけはいつも、いつでも寝れる状態に整然としている)。人間の多面性とは……なんてことを、彼女を訪ねてゆくたびに、しばし考えてしまう。


私の交友関係は非常に狭いため、友達と呼べる関係性の人間は本当に少ない。学生時代に出会った人間で、未だに友達関係でいるのは彼女だけだ。写真仲間とか山歩き仲間的な、ときどき一緒に遊ぶけれどそれほどディープな付き合いではない……という相手なら何人かいるけれど(それでも両手の指で足りてしまう程度)、なんと言いますか、腹を割って?色んなことを話せる相手というのは……親友と、あともうひとり……ええーふたり?ふたりしかいないのか?!でもそのふたりで充分すぎるほど満ち足りてしまっている。深く狭くが性に合っているんだと思う。

親友と私は似通っているところもあるが、表面的には正反対の部分が多いと思っている。10代の頃から年齢にそぐわないフェロモンをびしばし飛ばしていた親友と、アラフォーになっても「フェロモンてなにそれ呑めるの?」状態を維持し続けている私。趣味を聞かれたら「カメラ・山歩き・ソロキャンプ」な私に対して、「料理および製菓・手芸・お着物」な親友。年季の入った腐女子である親友が萌えているBLについて私はどうしても理解できないし、私が青春を捧げたエヴァンゲリオンを親友は一話たりとも見ようとしない。一人が気楽な私と、一人旅なんて絶対に無理という親友。近所のスーパーに行く時でもきっちりメイクする親友に対し、私は「市内ならばすっぴんでよろしい」というルールに則って生活している。親友は自分の胸の内はすぐ打ち明けて聞いてもらいたいタイプで、私はしょっちゅう彼女の愚痴を聞いている(おかげで会ったこともない彼女の職場の人間関係に妙に詳しくなっている)。相対して、私は自分のもやもやを言語化して相手に伝えることが苦手だ。

それでもなんだかんだと付き合い続けて20年以上、喧嘩をしたことは一度もない。それはきっと、親友の私に対する間合いの取り方が絶妙なおかげだと思っている。彼女は「大事な友達とは、要するにワカナとは、結構べったりした距離感でいようとしちゃうのね。そういうの負担だろうに……よく付き合ってくれてると思う」なんてことを言っているけれど、私は今まで彼女の存在が重くてべたついてるなんて思ったことは、一度もない。私がかつて悩み多き時期に、ひとりで部屋に引きこもって畳の目を数えていた日々に、彼女は決して私の扉をこじ開けようとはしなかった。面倒見が良くやさしい性格の彼女にとって、それはとても歯がゆい時間だったと思う。でも、そっと見守ってくれていた。そして私が「そろそろこの胸の内を打ち明けたい……」と思い始めた絶妙なタイミングで、「シュークリーム作りすぎちゃったんだけど、ちょっと手伝ってくれんか」なんて、さりげない一言で外に連れ出してくれた。彼女がいなければ、今私はこんな風にへらへら笑いながらのんきに毎日暮らせていないと思う。本当に感謝している。


絶品タルトへの賛辞のつもりが、完全に親友の惚気話みたいになってしまいましたすみません。そのうちまた親友については書くことがあると思います。きっとまた長くなることでしょう。


ところで上記の2品に加えて、親友からはもうひとつお祝いの品があった。韓国コスメである。

「ちょっとだけ魚っぽいデザインでさ。ワカナは魚座だから、ちょうどいいかなと思って買ってきちゃったの」と言っていた。




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予想以上に魚だった。

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