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はじめてエスコンフィールドを訪れた話

はじめに

 4月29日、30日の二日間、新設されたばかりのエスコンフィールド北海道で野球観戦の機会に恵まれた。いざ訪れてみて、なるほど、これは既存の野球場とは明らかに異なるコンセプトで設計されている、ということを実感できたので、所感を残しておくことにしたい。

球場へ到着するまで

 14時のプレイボールにあわせて、12時頃に新千歳空港に到着。ホテルは新札幌に予約していたが、ホテルには寄らず直接球場へ向かうことに。球場へのアクセス手段としては、鉄道で北広島駅まで向かいそこからバスに乗り換える方法と、新千歳空港から直接球場へ向かうシャトルバスの2択。ただ、後者は本数が限られており、所要時間も1時間近くかかるということで、鉄道で北広島へ向かうことに。小樽行きの快速エアポートに乗り込み、約20分で北広島駅に到着した。感覚としては、ちょうど札幌と新千歳空港の中間あたりか。

 改札を出てスロープを下ると、既にロータリーには球場行きのシャトルバスが2台。千歳方面からの観客はさほど多くなかったのか、普通に座ることのできる程度の混雑度だった。バスは市街地を抜けると、ものの数分でエスコンフィールドへ到着。来訪前のイメージと違っていたのが、市街地から離れた何もない広大な敷地に施設があることを想像していたものの、実際には隣に高校(北海道北広島高校)もあるなど、意外にも市街地と地続きの立地にあった。

バスを降りたら、まずここに着く

いざ球場内へ

 どの方面からのバスも、乗降場はコカ・コーラゲート前になる。先乗りしていた友人と合流し、いざ球場内へ。新設の球場らしく、飲食物はビン缶のみならず、ペットボトルも持ち込みNGとなり、手荷物検査でチェックされるので要注意。入場ゲートをくぐると、コンコースから覗く眼前には天然芝のグラウンド。球場に着いて一番心ときめく瞬間だが、どこにいてもグラウンドが見えるのは開放型のコンコースならではの良さ。

 キャリーバッグをクロークへ預け、座席位置を確認したら、早速球場内の探索へGo。今や球場一のフォトスポットとなった大谷&ダルビッシュの壁画のあるTower11や、球場で醸造したビールを販売する「そらとしば」など見所は数々あるが、初訪問では迷子必至だろう。というのも、フロアが1F、2F、3Fと3階層に分かれているうえに、どこもコンコースの周回が可能なので、自分の今いる階層と位置、目的地の階層と位置を把握しておかないと、手あたり次第に歩いた結果、目的地は2階下の逆側だった…ということも平気で起こるからである。我々もずいぶんと歩かされながらも、結果として球場の隅々までを探索し、数々の発見があった。キッズスペースのみならずキッズ向けのトイショップがあること、KONAMI謹製のパワプロくん&調子くんと写真を撮れるフォトスポットの存在、ディズニーランド方式で手洗い場に鏡の無いお手洗い、日ハム球団の歴史を黎明期から今日まで振り返るようスポーツ新聞を並べたコーナーetc、歩いた分だけ発見があるのがこの球場かもしれない。

時間帯によっては激込みのフォトスポット
上田監督はそんなに混んでなかった

野球場としてのクオリティの高さ

 ホテルや温泉、サウナ等、野球観戦以外の豊富な楽しみ方はエスコンフィールドの大きな強みであるが、そもそもの野球場としてのクオリティが非常に高い。本拠地球場としては、広島、仙台に次ぐ3球団目の内外野天然芝に、福岡に次ぐ2球団目の開閉式の屋根完備、さらにMLB式の外野ブルペンは投手のスタンバイ模様をスタンドから楽しむことができるし、大型ビジョンを両翼に備えているため、どの席からでもスコアボードの視認性が高い。小ネタではあるが、リリーフカーにKubotaのトラクターを採用するあたりも個性が光る。今回、初日は内野3F席、2日目は外野1Fの3列目から観戦したが、どちらの席から非常に見やすく、また外野席からは天然芝の香りが鼻をくすぐり、野球場としての良さを再認識させられた。

内野3Fからの見え方
大型ビジョンはライト側、レフト側にそれぞれ完備
リリーフカーもKubotaがやる

質量ともに群を抜く球場グルメ

 球場グルメはエスコンフィールドの売りの一つであり、大いにアピールもされているが、実際に訪れてみて正直驚かされてしまった。質量とも、良い意味で球場グルメの範疇から逸脱しているし、まだまだ実力値を世間へ伝えきれていない、宣伝不足であるとすら感じた。それほどまでに圧倒的なレベルの高さなのだ。

 私は二日間の観戦で、「麺屋 優光」の「清宮幸太郎の幸せ盛り」(要はチャーシュー麺)と「ルスツ羊蹄ぶた」のロースかつカレー、さらに「そらとしば」でソフトクリームを食したが、どれもハッキリと球場グルメのレベルを超越していた。例えば、初日に食べた「麺屋 優光」でいえば、市販の中華麺とは一線を画した小麦薫る麺がやや固めに茹で上げられ、スープは旨味が濃厚な貝出汁、さらに具材として穂先メンマ、半熟卵に低温調理された柔らかなチャーシューが丼一杯に広がり…と、名店の味が球場でそのまま楽しめるのだ。

清宮幸太郎の幸せ盛り。名は体を表す。


 さらに、飲食店の特徴としてイートインが充実しており、友人は前日の試合で「寿司天金」を訪れ、カウンターで職人の握った寿司を食べたとのこと。極めつけは七つ星横丁で、もはや町の居酒屋並みに充実したメニューの数々が、来訪者を手ぐすね引いて待ち構えている。イートイン型の飲食店はデーゲームであっても21時まで営業しているので、試合後のカフェ需要や二次会需要にもしっかりと応えてくれる。

予約の取りづらい海鮮系居酒屋のごときラインナップ

野球が終わっても

 昨年、キツネダンスの大ブレイクによって一躍脚光を浴びたファイターズガールだが、もちろん今年もイニング間のインターバルに登場し、パフォーマンスを披露してくれる。だが、今年は試合中に留まらず、試合が終わり、ヒーローインタビューが終わり、セレモニーが終わった後にも再度登場し、パフォーマンスを披露するのだ。(しかも、インターバルに行うパフォーマンスを全て通しで再演) 
 
 それだけではなく、解説者によるアフターゲームショーも生で放送されるため、「キツネダンスより野球勢」にとっても試合後も残る価値はあるだろう。ちなみに土曜日は、今やTEAM NACSの次くらいには道民から愛されていそうな岩本勉が解説を務め、黒山の人だかりを集めていた。これらの試みは、飲食店の売り上げ増を図ると共に、試合後の観客の分散を図り、周辺道路の混雑緩和の狙いもありそうだ。(現状、球場からの交通手段がほぼバスか自家用車に限られているため)

 さらに球場を出ても、球場外に子ども向けのパークエリア、カフェ、ベーカリー、レストラン、ショップ等もあり、時間を潰す場所には事欠かない。先日、球場からのシャトルバスの待ち行列の長さが報道されていたが、実際新札幌駅行きのバスは試合後1時間は経った後でさえ、2、30分程度並ぶ必要があった。それを踏まえると、試合後も球場内外でゆっくりと過ごし、余裕をもって帰路に着くほうが賢明かもしれない。

試合後も「そらとしば」の2Fでのんびり

エスコンフィールドは何を実現するのか

 「試合がある日も無い日も賑わいを創出するスタジアム」というコンセプトは、野球に限らずあらゆるプロスポーツで掲げられ、そして成し遂げることの困難な目標であったが(唯一、東京ドームだけが近づけたか)、エスコンフィールドはこの実現困難なコンセプトを達成し得るスタジアムであると考える。ここからは根拠の無い推論になるのだが、日ハム球団はエスコンFの立地検討にあたって、敷地面積や減税措置といった条件面以外にも、国内外からの観光客需要も見込んで、比較的新千歳空港からもアクセスの良い北広島を選択したのではないだろうか。特に海外からのインバウンド需要取り込みという点では、食・遊・泊の価値体験において新たな北海道観光の目玉になり得る存在である。

 ひとつ懸念されることは、エスコンフィールドはコンセプト上、運営にあたり非常に固定費(人件費、燃料費、天然芝の維持費etc)が嵩む施設であることが挙げられる。今後、収支が悪化し、コスト削減が求められるような事態に発展すれば、充実した飲食店やエンタメ施設もシュリンクの憂き目に遭い、エスコンフィールド自体の魅力が半減することは勿論、国内のスタジアム新設のコンセプト設計にあたり「にぎわい創出型」の思想は極めて厳しい位置に追いやられるであろう。そういった意味でも、エスコンフィールドは将来の日本のスタジアム設計思想の試金石になり得る存在ともいえる。

それでもまだエスコンフィールドについて何も知らない

 つらつらと書き連ねてきたが、正直に言って私がエスコンフィールドで体験したことはほんの触り程度にしか過ぎない。Tower11での宿泊もしていなければ、温浴施設にもサウナにも入っていない。ミュージアムやフードホールも未訪問なら、味わったグルメも僅か数点。そして何より、まだ屋根の開いた空の下での観戦を体験していないのだ。何も知らないに等しいと言って良いだろう。エスコンフィールドというスタジアムが何を目指し、どう進化していくか、今後数年スパンでじっくりと見ていきたい。

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エスコンフィールド行ってみた

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