寛容な私たち
試合後のことを書きます。
昨日の対戦相手には、4年前に退団したブラジル人選手が所属している。神戸としては初タイトルとなった天皇杯の決勝の後、お別れをした。
在籍していた最後の年は、徐々に出場機会が減り、翌年に同じポジションのブラジル人選手獲得の噂もあり、似た選手を獲るなら彼をもっとうまく活用すべきだ!という主張もあった。
このままいてほしい。
出場機会のあるチームに移るべき。
オファーを出してないクラブ側がおかしい。
本人希望だとしたら裏切られた気分。
選手の移籍は契約のことなので、その内実は明かされない。その分いろいろことを言う人がいる。
中には少し気分が悪くなるような酷いものもあるけれど、そういうのもひっくるめて、全部アリだと私は捉えている。
昨日の試合、私の到着はkickoffギリギリで間に合わなかったけれど、おそらく、試合前の選手紹介コールでは、この選手の名前が呼ばれた時、神戸側スタンドから拍手が沸き起こったと思う。
これも賛否両論ある。
今から戦おうっていう試合前に相手選手に拍手送るってどうなん?せめて終わってからにするべき。
ブーイングで相手を威嚇するチームもあるぐらいなのに、ゆるすぎん?
ブーイングは反対。リスペクトに欠けると思う。
選手たちに、サポーターの人たちは勝負どうでもいいのかな、と思われてしまうかもしれへんやん!
私自身は、試合前の拍手は良いけど試合中はナシ(以前、ゴールを決められて拍手が起きた時はオイオイ、と思ったので)。ただし、メインスタンドの中央とか、純粋に試合を楽しみに見に来ている人たちは自由にしたら良い。ブーイングしたい人はしてもいいと思うし、みんなそれぞれ好きにしたらいいと思ってる。
そして試合後。
神戸の選手が場内一周を終え、神戸も相手チームの選手も奥に引っ込み、メインやバックの観客も席を立ち始めた頃。
懐かしいチャントが聞こえてきた。
古巣チームである私たちのゴール裏に、挨拶しにきてくれたのだ。
前節セレッソ戦もそうだったけど、ホームゴール裏はまだまだサポーターがパンパンに残っていて、ほぼ満席の状態で、4年前に退団したこの選手のチャントを長い時間歌っていた。
確かこの選手のチャントができたのは、退団の決まった年だったはず。歌って飛び跳ねるのにちょうどいい、とっても楽しいチャントなので、もっと歌いたかったけど、出場しなければ歌えないから、なかなか歌う機会はなかった。
みんな、めちゃくちゃ楽しそう。
たぶん選手も懐かしく聞いてたと思う。胸に手を当てて、ゴール裏スタンドをグルーっと見渡しながら、手を合わせたり、振ったり、おじぎしたりしながら、穏やかでしみじみとした、素敵な表情だった。
福岡でがんばれよー!
ありがとうなー!
またノエスタに来てねー!
そんな声が聞こえてくる。
Jリーグでは、こうした古巣チームとの対戦後の心温まるやりとりはよくあることで、神戸以外でも見る風景だが、ここまで盛大にやるチームはなかなかないかも、と思っている。そして、そこが好きなところでもある。
たぶん、私たちチーム(のファン・サポーター)は、けっこう寛容なんじゃないかなぁと自負していて、よく「手のひら返しが得意です」と自虐的に言う人もいるけど、ある方針に対して(クラブのアイデンティティとか、サッカーのコンセプトとか戦い方とか)、賛成したり反対したり、意見がぶつかることがあっても、スタジアムに足を運ぶうちに「まあ、これもありか」と受け容れ合うような寛容さが特徴なんじゃないかと思っている。
他チームから見ると、軸がない(弱い)のかもしれないけれど、私はこういう姿勢、これからの時代に(特に私のような世代には)けっこう大事なんじゃないかなぁという考えで、サッカーを楽しむ中で、普段の仕事や生活の中でも転用して考えを変えたり、改めたりするのに役立てている。
こだわり過ぎず、固執し過ぎず、自分と同じ考えの人とばかり会うのではなく、違う考えの人の話もよく聞き、私は違う考えだけど、あなたの考えもアリだね、と受け入れる。
退団していった選手を懐かしく思うのもアリ。
裏切り者、と罵りたく思う気持ちもアリ。
対戦時は活躍してほしくないから冷たくしたい、というのもアリ。
昨日は平日のナイトゲームだったけれど、それでも、10,000人を超す観客がスタジアムに訪れていた。10,000人がみんな同じ考えだったら気持ち悪いし、「同じ方向を向こうぜ」と扇動して、それが実現してしまう空間というのも怖い。違ってても排除せず。少数意見でも同調しなくても大丈夫な安心感の中で好きなように思ったり行動できる。
そういう感じが好きだ。
ちなみに私は退団していった選手に対しては、
移籍先チームではスタメンを勝ち取って活躍し、人気選手になってそのチームのファン・サポーターに愛されてほしい。
対戦時にも活躍して、点を獲ったり決定機を防いだりしてほしい。
そのうえで、こちらの選手がもっと良いプレイをして上回り、勝利したい。
と考えている。
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