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[2023-02-24更新]スタートアップの融資における代表者の連帯保証が不要に

スタートアップの融資を支援しているINQの若林( @wakaba_office )です。

2022年12月23日、政府が「経営者保証改革プログラム」を策定したとの発表がありました。
このプログラムが開始されると、企業が金融機関から借り入れをする際、これまで多くの場面で求められていた経営者保証(代表者個人の連帯保証)が特定の場面で不要になります。

さらに2023年2月20日には、中小企業庁より経営者保証改革プログラムのうち、創業初期の保証協会付き融資について条件等を具体化した「スタートアップ創出促進保証」が発表されました。
(2023-02-24追記)

代表者の連帯保証なしに融資を受けられる制度としては、日本政策金融公庫の新創業融資が挙げられますが、これを利用できるのは創業2期以内の企業までです(弊社の創業融資診断サービスでは約4分で融資の見込みが分かります)。

今回の取り組みによって、創業2期以降のスタートアップでも経営者保証なしで融資を利用できる機会が増えることになります。

このnoteでは経営者保証の概要から、経営者保証改革プログラムで策定された以下の制度について解説していきます。

このnoteは若林によるPodcast「INQ若林のDebt&Alive」をテキストコンテンツとして再編集したものです。Podcastでは、起業家の方や起業準備中の方に向けて、デットファイナンスに関するTipsやノウハウを毎回5分程度にまとめてお送りしていますので、ぜひフォローしてください。

経営者保証とは

そもそも経営者保証とはどのようなものなのかを整理していきます。

もし経営者保証については理解されていて、2023年3月から始まる創業5期未満のスタートアップが利用できる制度の詳細のみ知りたい方は「2023年3月から始まる創業5期未満のスタートアップが利用できる制度(=スタートアップ創出促進保証)※2023-02-24加筆」 までスキップしてください。

さて、会社を設立すると、会社(法人)経営者法律上別人格であると見なされます。
そのため、会社が借り入れたお金と経営者個人の間に関係はありません。

しかし日本の商習慣上、会社が借り入れをする際に経営者が連帯保証を負うことが一般化しており、この保証を外すことは簡単ではありませんでした。

経営者が連帯保証人となると、会社が借り入れを返済できなくなってしまった場合に経営者個人が肩代わりする必要があります。

最悪の場合、経営者が自己破産しなければならないため「経営者保証が起業の妨げになっているのでは」といった声もありました。

政府が発表した「スタートアップ育成5カ年計画」の中で、スタートアップの数を1万社から10万社に増やすことを目指すとしています。

このような背景の中、起業の妨げになっていると思われる経営者保証に依存した融資を減らし、スタートアップが融資を利用しやすくするために策定されたのが経営者保証改革プログラムです。

そしてさらに、創業5期未満の法人が利用できる保証協会付き融資の条件等を具体化したのが「スタートアップ創出促進保証」です。

2023年3月から始まる創業5期未満のスタートアップが利用できる制度(=スタートアップ創出促進保証)
※2023-02-24加筆

ひとつめの2023年3月から始まる創業5期未満のスタートアップが利用できる制度として、経営者保証改革プログラムをより具体化した「スタートアップ創出促進保証」が2023年2月20日に中小企業庁より発表されました。

「中小企業庁:経営者の個人保証を不要とする創業時の新しい保証制度(スタートアップ創出促進保証)を開始します。」より(2023-02-24時点)

全体を通して、基本的には既存の創業関連保証がベースになっているという印象です。
重要な項目を見ていきます。

保証対象者

 - 創業予定者
 - 分社化予定者
 - 創業後5年未満の法人
  - 分社化後5年未満の法人
 - 創業後5年未満の法人成り企業

中小企業庁:スタートアップ創出促進保証

創業5年未満の法人の他、「分社化後5年未満の法人」も対象となっています。たとえば、創業5年以上経過している法人の新規事業をスピンアウトさせた新設法人についても対象となると読めます。
ただし、この場合、既存法人と新設法人の代表者が同じ場合には、融資枠が合算されるので注意が必要です。

「創業後5年未満の法人成り企業」とは個人事業主として起業した後、法人成りしたケースが想定されますが、個人事業主と同じ事業を法人成り後も継続する場合には、原則的には個人事業主として起業した時点を創業の起算点とするものと推測されます。

上限金額、期間、据置、金利など

保証限度額
 - 3,500万円
保証期間
 - 10年以内
据置期間
 - 1年以内
金利
 - 金融機関所定

中小企業庁:スタートアップ創出促進保証

このあたりは、既存の都道府県の制度融資における創業(支援)融資の条件に準じている印象です。

金利は金融機関所定となっておりますが、東京都の制度融資の場合ですと、1.5〜2.5%となっております。

信用保証料

「スタートアップ創出促進保証」の特徴的な部分が信用保証料です。
代表者の連帯保証をつけない分、信用保証協会側のリスクが上がりますので、保証料を上乗せする形です。

保証料率
 - 各信用保証協会所定の創業関連保証の保証料率に0.2%上乗せ

中小企業庁:スタートアップ創出促進保証

なお、東京都の場合には0.55~0.80%となっております。

もちろん+0.2%の保証料を支払わず、経営者が連帯保証を追って融資を受けることも可能ですが、恐らくほとんどの経営者が保証料を上乗せで支払い、連帯保証を外して融資を利用するようになるでしょう。

自己資金要件

創業資金総額の1/10以上の自己資金が必要となります。

中小企業庁:スタートアップ創出促進保証

900万円借入をしたい場合、100万円以上の自己資金が必要となります(創業資金総額=自己資金100万円+借入900万円=1,000万円)。
これは日本政策金融公庫の新創業融資の自己資金要件と同様です。すでにデフォルトで代表者の連帯保証がつかない同制度に寄せた印象です。

取扱開始はいつ??

2023年2月20日から金融機関等を窓口とした事前相談が開始され、東京都では早くとも3月中旬から申込受付が開始される見込みです。

この制度の創設によって、スタートアップや中小企業が融資を活用し、事業拡大を加速することを期待します。

民間金融機関による経営者保証に依存した融資を抑制

2つ目は2023年4月から開始される、金融機関が経営者保証を求める際の監督強化です。

この取り組みによって、民間の金融機関による経営者保証に依存した融資の抑制が期待できるでしょう。具体的には、金融機関が経営者保証を求める場合に、その必要性を企業や代表者に説明、記録した上で金融庁に報告する義務が発生します。

恐らく金融機関にとってはこの説明・報告義務は非常に煩わしい業務になることでしょう。

「できるだけ経営者保証を外すように」と監督される中、経営者保証を求める理由と、保証を外すための改善策を提示する必要があります。経営者保証を求めると、シンプルに業務量が増えることになるため、これまでと同じように(半自動的に・短絡的に)経営者保証を求める金融機関は減ることになると予想されます。

また、金融庁には経営者保証専用相談窓口が設置され、企業からの相談を受け付けます。「金融機関から経営者保証に関する適切な説明がない」といった相談を受けた場合には、必要に応じて、金融機関に対してヒアリングを行うようです。

これらの取り組みによって、融資に経営者保証を求める慣行の大きな抑制が期待されます。

創業5期以降でも保証料の上乗せで経営者保証を解除できる制度

3つ目は2024年4月から始まる、経営者保証の解除を選択できる信用保証制度です。

この制度が始まれば、創業5期以降の企業であっても、一定の条件を満たすことで経営者保証を外して保証協会付き融資を利用できるようになります。

現在分かっている条件は以下の通り。

✅法人から代表者への貸し付けがないこと
✅決算書類を金融機関に定期的に提出している
✅経営状態に応じた上乗せ保証料を負担する

ちなみに類似した制度に日本政策金融公庫の経営者保証免除特例制度というものがあります。

この制度でも、以下のような条件を満たすことで経営者保証を外して融資を受けることができます(詳しくはこちらで解説)。

✅2期連続赤字でない
✅債務超過でない
✅法人と個人の一体性が解消されている

「法人と個人の一体性が解消されている」とは、例えば役員に対する貸付金が無いなど、経営者が法人を私物化していない状態のこと。これらを財務状況からチェックされ、問題が無ければ経営者保証が免除される制度です。

2024年4月からは、これと同じような制度が信用保証協会の保証協会付き融資でも利用できるようになるものと予想されます。
創業5期以降のスタートアップや中小企業の融資利用による事業拡大に繋がるのではないでしょうか。

まとめ

政府が発表した経営者保証改革プログラムについて解説しました。以下に内容をまとめます。

  • 2023年3月から、創業5期以内のスタートアップは一定の条件下で経営者保証なしで保証協会付き融資を利用できるようになる(=スタートアップ創出促進保証)

  • 2023年4月から、民間の金融機関が融資の際に経営者保証を求める場合、理由を説明し記録、金融庁に報告する義務が発生するため、経営者保証に依存した融資の減少が期待できる

  • 2024年4月から、創業5期以降の企業であっても、一定の条件下で経営者保証なしで保証協会付き融資を利用できるようになるのではないか

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