生き残されし彼女たちの顛末 第0部(前日譚) 10)三度目の大戦とそれから
そしてついに2060年、アジアの東端、中東の地で戦争が始まりました。第二次大戦後何度も戦争に発展した長く続く宗教・民族と領土にまつわる争いが原因でした。
戦争は中近東・アフリカのほぼ全域に広がり、さらにヨーロッパへと拡大し、南アジアにも拡がりました。また、宗教的な理由や民族的な理由、または経済的利益を求めて、直接戦場にはならないものの、戦争を行っている国を援助する国が続々とあらわれました。
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2060年にパレスチナとイスラエルの間に第六次となる中東戦争が勃発し、両陣営を支援する国々の間にも戦闘が始まった。
基本的な構図はイスラム対反イスラムだったけれど、イスラムの中の宗派の争いや民族対立などの要素もからまり、支援する国の経済的な思惑も加わって、戦争は複雑な構図となり、長期間にわたる戦乱の時代を迎えることになったという。
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(火星授業記録その18)
2年後の2062年には国連が「世界大戦状態に入った」ことを宣言しました。
「第三次世界大戦」です。
戦争に加わらなかったのは東アジアと東南アジアとオセアニアの全域、南アメリカの一部、そしてヨーロッパとアフリカのごく一部で、その他すべての国が実際の戦闘国か、援助国という形で戦争に参加することとなったのです。
第三次世界大戦では、核兵器が使用されることはありませんでした。しかし、最新技術による武器をもって行われた戦闘は、凄惨な、つまり目をそむけたくなるようなむごたらしいものとなりました。また、戦闘国のみならず援助国に対しても、武器によるテロやサイバーテロが行われました。
戦争は勝敗が明らかでない状態で、厭戦、つまり「もう戦争はこりごり」という気分の広がる中、2074年に終わりました。
犠牲者の数は過去2回の世界大戦とはさらに桁違いのものとなりました。
直接に戦闘に加わった軍人の犠牲者、戦闘に巻き込まれた民間人の犠牲者はいうまでもありません。食料の供給が滞って膨大な数の人々が餓死しました。武器によるテロの犠牲者、サイバー攻撃の影響で命を落とした犠牲者もいました。
最初の戦闘がはじまった2060年時点で約100億人いた地球の人口は、終戦時点で約60億人にまで減ってしまったのです。
~ディスプレイ表示内容~
第三次世界大戦(2060~2074年)
戦争期間中の人口減少・・・約40億人
私の一方的な話が長くなってしまいました。ここまでのところで、なにか質問はありませんか?
はい、Lさん。どうぞ。
――第三次世界大戦で、核兵器が使われなかったのはなぜでしょうか?
むつかしい質問ですね。いろいろな要因があったと思います。
先にお話しした「核抑止力」が働いたという面があったことは否定できません。また、核保有国が比較的少なかったということも考えに入れなければなりません。
ただ、結局のところは「戦況、つまり戦争の状況が、核兵器を使用するような状況にたまたまならなかった」ということになるのではないかと思います。
どうも上手く説明できてなくてもどかしいですが、このような答えでよろしいでしょうか。
――ありがとうございます。
他に質問のある人? はい、Mさん。
――国際連合の安全保障理事会ですが、変えようという話はでなかったのですか?
「安保理改革」ということで議論になったことはありました。常任理事国や常任ではない理事国の数を増やすという形での議論はかなり頻繁に行われました。
しかし当初の常任理事国5ヶ国に与えられた拒否権をなくす、というところまでは議論が行かなかったようです。拒否権をもつ5ヶ国による、あとで説明しますが「批准」という形での同意がないと安保理の改革はできないのです。結局、安保理はそのままの形で第三次世界大戦を迎えることとなったのです。
――わかりました。
ほか、ありませんか。質問や意見があれば、私が話している最中でもかまいませんので発言してくださいね。
それでは続けます。
第三次世界大戦の中立国、つまり戦闘国としても援助国としても戦争に参加しなかった国々が準備し2076年に成立した国際平和機構が、国際連邦です。骨格の部分は国際連合のものを引き継ぎつつ、安保理の常任理事国の制度をなくすとともに、総会、つまり加盟国全部が参加する会議の権限を強くしました。また、戦争を始めた国や原因を作った国に対する制裁をより強化しました。
そして、国家の主権のうち、軍事に関する権限と、外交、つまり他国と交流したり交渉したりする権限について、個々の国家から国際連邦に移すということが目標として定められました。
国際「連邦」という名前がつけられたのは、このことによるものです。世界をより「一体化」することで戦争をなくそう、という歴史の流れをさらに強化しようという目的でした。
この国際連邦の理念、つまり理想が具体的な形になったのは、2085年に発効、つまり効力が発生した「宇宙空間の主権を国際連邦に付与する条約」です。
条約は国と国の間で結ぶ約束で、一定の手続きをとることで法律と同等の効力を持つものです。
範囲を「地球の表面上から100Kmより上」と明確に定めた宇宙空間について、国際連邦が主権をもち、そこに存在するすべてのものは、自然に存在する星や星に含まれる鉱物資源なども人間が作った衛星や基地などもすべて含めて、国際連邦のものとすることが明確に定められました。
宇宙空間を争いの場にしないため、また宇宙空間から地球上への攻撃ができないようにするため、それまでもいろいろな条約はありましたが、それを確実な形にしようとしたのです。
また、宇宙の資源を人類共有の財産として活用しようというねらいもありました。そして2年後までに、各国や国以外の民間会社などが設置していた人口衛星、ステーション、基地がすべて連邦に引き渡されました。
~ディスプレイ表示内容~
宇宙空間の範囲・・・地球の表面上から100Kmより上
宇宙空間の主権・・・国際連邦のものとする
これ以降、宇宙におけるすべての活動は、国際連邦が主体となって、加盟国や民間会社などが参加する形で行われるようになりました。
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(つづく)