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VC vs ECFプラットフォーム論争について感じたこと

1.これはなに

千葉道場の石井さんが書いたnote「VCが感じる株式投資型クラウドファンディング(ECF)の課題点」に対するイークラウド波多江さんの反論note「VCが感じる株式投資型クラウドファンディング(ECF)の課題点」の回答に対する、発行企業の実務サイドから見た疑問点をまとめました。

2.管理コストは株主総会に係るものだけではない

株主増加に伴うコスト増加への対応として、オンライン株主管理ツールの開発及び提供を挙げています。

このような管理コストを減らしていただくために、弊社では株クラの株主に対してオンラインで情報発信し、オンラインで株主総会や議決権行使を行なっていただくことができるITの仕組みをご提供しています。

ここでいうオンラインでの株主総会がどのようなものを指しているか具体的に示されてはいませんが、少なくとも現行法上オンラインのみの株主総会(以下「バーチャルオンリー型株主総会」という)については、現実的な選択肢ではないとの見解が優勢です。経済産業省が発行しているハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイドでも対象外とされています。

もう一つは、リアル株主総会を開催せず、取締役や監査役等と株主がすべてインターネット等の手段を用いて株主総会に出席するタイプである(バーチャルオンリー型株主総会)。
取締役会の開催方法としてはすでにテレビ会議等の方法が認められていることや、昨今のITの発展や生活への浸透度に鑑みると、バーチャルオンリー型株主総会についても、中長期的には、企業と株主との建設的対話の深化のための選択肢の一つとなり得ると考えられるが、現行の会社法下においては解釈上難しい面があるとの見解が示されている2。
2 第 197 回国会 法務委員会 第 2 号(平成 30 年 11 月 13 日)において、小野瀬厚政府参考人(法務省民事局長(当時))から、「・・・実際に開催する株主総会の場所がなく、バーチャル空間のみで行う方式での株主総会、いわゆるバーチャルオンリー型の株主総会を許容するかどうかにつきましては、会社法上、株主総会の招集に際しては株主総会の場所を定めなければならないとされていることなどに照らしますと、解釈上難しい面があるものと考えております」との見解が示されている。

従って、オンラインで株主総会を行う場合は、リアルとオンラインを融合したハイブリッド型バーチャル株主総会を行う必要があります。私も今年ハイブリッド型バーチャル株主総会を実施しましたが、その経験を踏まえると、必ずしもシステムなどのツールを活用したからと言って、株主総会開催のコストが劇的に低減するわけではない(例えば10人の株主と100人の株主の対応はやはり同じではない)と感じています。

また株主の管理コストは、株主総会だけではありません。例えばECFで調達する企業の大半はシードもしくはアーリーステージの調達だと思われますが、次のシリーズA, シリーズBとラウンドを重ねていく場合、優先株式で調達するケースが出てくるでしょう。その際に全株主と株主間契約を結ぶ必要がありますが、株主が多ければ多いほどその手間はかかります。(そもそも株主間契約を締結しないと主張する株主も出てくる可能性もあります)また、M&Aでエグジットすることになった場合、株式売却について株主に同意を得る必要がありますが、同様に株主が多いほど事務コストは高くなりますし、条件によっては同意しない株主も出てくる可能性があります。

ただし、イークラウドさんは上記の問題点をすでに把握しており、個人投資家への株主間契約の締結を義務化しているので、上記の事務コストへの対応を考えられており、流石と感じました。

あと細かい論点なのですが、上場前のファイナンスの留意点として、上場前の一定期間内にファイナンスを行った場合、株主と「継続的な所有に関する確約書」を締結し、東京証券取引所に提出しなければなりません。これは新株予約権の取得者も対象であるため、株主と新株予約権者の数だけ契約を締結する必要があるので、数が置ければ多いほど手間がかかります。

第三者割当増資等について、上場申請直前事業年度の末日の1年前の日以後、上場日の前日までの期間において行われた第三者割当増資等については、取得者は当該株式等の発行日から上場日以後6か月の所有義務があります。その期間中は、原則として、いかなる方法でも売却することができません。また、会社は、割当を受けた者との間で継続的な所有に関する確約書を締結し、当該書面について証券取引所への提出が求められます。
EY新日本有限責任監査法人HP

3.「成功報酬手数料も合わせて調達」の意味について

「手数料コストも含めた資本政策をご提案させていただいておりますので起業家にとって総合的な調達コストは実はあまり変わりません」と述べていますが、正直意味がよくわかりませんでした。

例えば発行企業が8,000万円を真水で調達したい場合、ECFの手数料20%とすると、手数料を加味した1億円の資金調達が必要となり、さらに支払手数料2,000万円がPLへ計上されます。また、増資の登記の際に増資額の0.7%の登録免許罪がかかりますが、2,000万円余計に増資することで14万円追加で登録免許税がかかることになります。一方、普通の第三者割当増資であれば、支払手数料についてもPL計上はされないですし、そもそも追加で2,000万円を調達しなければならないというハードルもありません。少なくとも上記の点ではECFと通常の第三者割当増資のコストが同じであるとは言い難いという印象です。

一方で、通常の第三者割当増資の場合、エンジェル投資家やVCにアタックしなければならず、期間も半年程度かかることを考慮すれば、1つのプラットフォームで資金調達が完結でき、うまくいけば1~2か月で資金調達を完了することのできるECFは起業家の資金調達にかける時間を削減してくれる点でコストが低いといえるという観点もあるかと思います。

4.株主が全員応援してくれるいい人とは限らない

これを言ってしまっては身も蓋もないのですが(笑)、投資時点では応援したいという気持ちであっても、その後の事業進捗の状況や環境の変化によって考えや気持ちが変わってしまう株主もいるかもしれず、最悪の場合事業へ悪影響を及ぼす恐れがあります。

また、反社勢力でないことは当然ですが、株式上場審査でも個人株主数の多さは論点になるのが実情です。株主の職業や企業との関係を全て調べて証券会社および証券取引所提出する必要性が高いと思われるため、その調査だけでもかなりの工数を取られます。株主多くして上場した起業例で挙げられていた第一生命くらいの規模になるとそもそも未上場の段階から信託銀行に株主名簿の管理を委託しているので、株主の属性をチェックすることは可能ですが、ベンチャーの場合そこまでコストをかけられないのが実情かと思われます。

株主の属性チェックについては、私もいくつかのECFプラットフォームに登録していますが、登録時から勤務先が変わったにも関わらず変更していませんが、特に確認の連絡は来ていません。少なくとも現状ではプラットフォーム側でも登録者の属性は把握しきれてないと思われます。

5.提言というか希望

批判ばかりしていても意味がありませんので、上記課題解決のための要望(というか希望)を簡単の述べておきたいと思います。

(1)株主管理のツールの進化

イークラウドさんでも株主管理のツールを作成しているとのことですが、ECFでなくともSmartroundの株主総会smartroundやケップルの株主総会クラウドなど、スタートアップ向けの株主管理ツールが続々出てきています。株主総会をオンラインで行う・行わないにかかわらず、今までエクセルや紙ベースで管理されていた株主管理をシステムで効率化できるようになるというのは、株主の多寡に関係なくすべての企業にとって価値があると思われます。

(2)機関投資家・法人向け株式投資型クラウドファンディング

これは法規制の改正が必要になってくるとは思いますが、現状の問題点として①年間1億円という資金調達金額の上限、および②個人投資家向け、ということから、資金調達金額が少ないのにも関わらず株主数が多くなってしまうという弊害が生じています。

もし個人ではなく、機関投資家や事業会社等の法人向けの株式投資型クラウドファンディングがあれば、1社あたりの投資金額も個人に向けて大きいため、上限規制がない前提ですが総額として大きな金額を調達できるのではないかと思います。ただ、そもそもこうしたニーズが機関投資家や事業法人にあるのか、規制改正の問題などもあり、現状では議論の俎上に上がってないのではないかと考えられます。


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