【こどもの顔のポスター】
ここは大町界隈にあるカクテルバー「Reiko」です。
そのカウンターで光治くんの話は、「これは、このみから聞いた話なんだけど……」と、前置きしてはじまりました。
このみは小さい時、ちょっと普通の人には見えないものが、見えていたらしいんですよ。
小学三年生の夏休みの少し前、写真屋さんの玄関ドアに、見馴れないポスターが貼られていたそうなんです。
人間の子供の顔だけが描いてあるポスターだったけど、ネコみたいな目をしていたって言うんです。
なんのポスターか解らなかったけど、この世の物とは思えない無気味なポスターで、このみはとても怖かったって言ってました。
二日後、病気で療養中だった写真屋の旦那さんが、亡くなったそうなんです。
すぐ喪中の紙が貼られたから、例のポスターは剥がされたんだと思ったこのみは、すぐにそのことを忘れてしまっていたようなんです。
夏休みも残り一週間になり、友だちの家に行った帰り道で、例の忘れていたポスターがまた貼られていたっていうんです。
酒屋のビールのポスターの下に……
このみはひどく不吉な感じがしてお母さんに話したんだけど、相手にされなかった。
でもそのイヤな予感は当たり、酒屋の奥さんが三日後に亡くなったんですって。
そして男の子のポスターも姿を消した……
夏休みが終わり、学校でこのみは友だちにそのポスターの話をしたらしいんだけど、誰一人そんなポスターは見てないと言うんだそうです。
写真屋も酒屋も、街の真ん中にあるから気づかない筈はない。
あんまりこのみが必死になって「絶対あった、私は見た」と言うものだから、だんだん友だちも気味悪がってその話をしなくなったようです。
それからしばらくは何事も起きなくて、このみもすっかりポスターのことを忘れかけた二ヶ月後の土曜日、幼なじみのけい子ちゃんと塾の帰りに通った写真屋の玄関脇に、また例のポスターが貼ってあった。
このみはびっくりして、けい子ちゃんに「ほら、あのポスターだよ」と言ったんだけど、けい子ちゃんには本当に見えなかったらしいんですよ。
二日後…… 亡くなったのは写真屋の奥さんで、「借金が返せなくなり、自殺したんだ」と大人たちが話していたのを、このみは聞いていたようです。
そして不思議なことにその後、このみは一度もそのポスターを見たことがないと言っていました。
なんだか不気味な話でしょう…… どう思います、教授。
南田:う~ん、また子供だね…… これは私の個人的な考えなんだけど……
さて、南田教授の考えとは?
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