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織川くんの下日記 一日目
秒針の音が教室に響く。
生徒たちは配布されたテスト問題を必死に解いている。
時刻は午後2時15分。
テスト終了まで残り5分を切り、誰もが見直しなどをしていた。
そう、この男を除いては。
(やべっ、勃っちゃった)
この男こそ織川歩。このクラス一の変態にして、思春期男子高校生である。
まずはこの状況について説明しなければならないだろう。
彼はテストを解き終わり、暇を持て余していた。正確には、わからない問題が多かったので早く終わっただけなのだが。
そんな彼は問題用紙の空白におっぱいの落書きをしていたのだが、思いの外、上手くおっぱいが描けてしまった。
そこでそれを見て、昨日テスト勉強を放り出してまで見た新作ビデオの内容を思い出してしまい、彼の息子が起立してしまったということである。
ちなみに描いたおっぱいは、二つの丸を並べてその中に点を描くシンプルなやつである。
以上、状況説明終了。
(非常にまずいぞ)
彼は非常に焦っていた。
深呼吸をして素数を数えながらお婆ちゃんの顔を思い出すという、息子を鎮めるために思いつく方法を片っ端から実践するほどには焦っていた。
(もうすぐテストが終わる‥そして俺の高校生活も終わる)
テスト終了まであと3分。
彼に残された時間は僅かである。
彼は席が1番後ろであり、テスト終了時には答案を回収しなければならない。
その際に股間でキャンプをしていようものなら、今後の高校生活が地獄になるのは目に見えている。
彼は初めて後ろの席になったことを恨んだ。
そしてここから彼の、ウルトラなマンのように、3分以内に暴れる怪獣(息子)を倒す(鎮める)という高難易度ミッションが始まったのだった。
(まずは最悪の事態に備えねば)
彼の考える最悪の事態とは勃起もとい息子の戦闘状態のサイズがバレることであった。
(もしコレを見られて小さいと嘲笑されれば俺は不登校になる自信がある)
普通ならば見られること自体が最悪なのだろうが、彼の思考は少しズレていた。
(いや、待てよ。コレでサイズがバレたとして、もし大きいと思われればワンチャンあるのでは!?)
訂正。大分ズレていた。
焦りに焦った脳味噌が、新幹線が脱線するレベルの思考回路を見せていた。
補足させていただくと、「ワンチャンある」というのはつまり、彼もしくは彼女とワンワンやにゃんにゃんをすることだろう(混乱)。
もはや彼の目的は「バレないこと」から「バレたとき大きいと思われたい」に変わっていた!
(どうすれば大きいと思われるのだろうか)
彼は自分のズボンに視線を落とす。
(このズボンは硬めの素材で出来ている。つまり、あまり真っ直ぐにすることができない。ということは中途半端なたちになってしまう。)
どうしたものか、と日本一くだらない思考になっている彼の脳内を、たった今必死に数学の問題を解いている同級生達の脳に直接流し込んでみたい。
(しかしこの千載一遇のチャンスを逃すわけには)
千年に一度どころか千年後までにも語られる生き恥を晒すような機会だと思うのだが、彼の思考はさらにあらぬ方向へと逸れていく。
(チャンス‥‥、はっ!勃起とは性欲からなるもの。つまり子孫を残したいという本能。だから、勃起した姿を見せることというのは求愛のポーズなのでは)
どうしたらその結論に行き着くのか小一時間ぐらい問い詰めたいが、ともかく彼は結論を出した。
(まとめると、勃起は求愛の証であり、サイズが大きいほど求愛の成功率も上がるというわけだ。つまり、今告白すれば成功間違いなしというわけか)
最悪の結論に達したが、彼の名誉のために言わせてもらうと、テスト週間の連続の徹夜に加え、エナジードリンクの過剰摂取、苦手な数学による脳細胞の破壊など、数々の負の連鎖により深夜テンションになって『ハイ↑』になってしまっているのである。しかし、限界は突然やってくる。
(あれ‥‥?今なに‥‥してるんだっけ?)
急にエナジードリンクの副作用により強烈な眠気が襲ってくる。
別に賢者タイムでは決してない。‥‥ないぞ?
それは歩を眠りの世界へと誘って行った。
数分後。
『‥‥おい、おい起きろよ!』
『胸部は垂れこそが至高!』
強い揺さぶりにより、意味不明なことを言いながら飛び起きる歩。
『何言ってんだよ?寝ぼけてんのか?』
『いや、すまない。寝てしまっていたな』
どうやら目の前の友人が、彼の代わりにテスト用紙を集めてくれたらしい。
『何目を開けたまま寝てんだよ。おかげで先生にはバレなかったけど皆んなには笑われてたぞ』
友人の口から告げられる事実に少し恥ずかしく思うも、歩はあのまま寝てしまったことに安堵していた。
(あのままだと、とんでもないことをしでかすところだった)
冷静になるととんでもない奇行をして、この教室どころか、学校ひいては家のどこにも居場所がなくなるようなことをしようとしていた自分に、反省の念を抱く。
(もうこんなことはやめよう)
そう思い、誓いを立てる歩であった。
『そういえば次の教科ってなんだっけ?』
『性欲だ』
『‥‥‥は?』
『性欲だよ、性欲。つまり俺はお前に求愛をするんだぁあああ!!どうか俺の勃起を見てくれ!!フォオオォォォオオオオ!!!!』
『ぎゃあぁぁああああ!!!!‥‥‥
(あああああ!!!)
勢いよく目が覚める歩。
そこには見慣れた教室の光景が広がっていた。
「よかった‥‥夢か。にしてもどれくらい寝てたんだ?」
と、ちょうどチャイムが鳴り響く。
(よかった、勃起も治ったし数学のテストは終わったしラッキーじゃん!)
なんて思っているようだが、彼は激しい勘違いをしていた。
このチャイムは始まりを合図するものなのだ。
テストを回収しようと立ちあがろうとする歩。しかし、彼の他に立ちあがろうとする人物はいない。それどころか、皆一様にして一心不乱にプリントに何かを書き込んでいる。
その光景と手元にあったプリントを見て絶望する。
(まるまる一教科受けてないじゃん!)
それは数学の次の次の教科のテスト用紙だった。
その後、白紙の解答用紙を提出したとして、先生から呼び出しをくらった歩であった……。
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