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駅舎の妖精

「カレーだよ、ここに来たらこれ一択」    メニューを前にあれやこれやと悩む私たちの眼前に、にゅっと大きな手が伸びてきて、「激馬カレー」の文字をとんとん軽快に叩く。見上げるとチェックのワイシャツのおじさん。礼を言うと、彼はうんと頷いて、私たちが注文を終える時には向こう側のカウンター席へと消えていた。  本州の最果て。青森県。津軽地方。太宰治が生まれ育ったこの土地に、私たちは来ていた。いわゆるゆかりの地巡りというと聞こえはいいが、太宰の本を読み始めて間もない、まあただのミ

    • サブカル女と墓参り 

      墓石の間をきょろきょろと見回しながら歩く。天気予報よりすこし早く曇天となり、あたりには自分ひとりしかいなかった。  墓石に刻まれた字は読みにくい。早々に文字を追うのはやめた。入口の案内板にあった番号は五の八だったっけ。それとも八の五かな。などと頭の中でぶつぶつと繰り返しながら下を向いて目的の数字を探す。 「ここは太宰治のファンが沢山くるから」 不意に聞こえた声におどろいて顔を上げた。ひとつ隣の通路にいた初老の男性とばちりと目が合う。ああ、失敗したとすぐに目を逸らす羽目にな

      • 演劇という新しい世界が開けて夜も眠れない

        のだが、この災害級の暑さの中、命を守るため夜はちゃんと眠るように努力している。 ※2023年7月に書いた文章です 元々ミュージカルが好きだったり、中高大ダンスをやってたりで「舞台」という空間そのものは大好きだった。でも、ここ数ヶ月で舞台以上に「演劇そのもの」の良さに気がついてしまい、とにかく新しい世界が面白くてたまらなくて仕方がない。自分の世界がまたひとつ広がったように思えて非常に嬉しい。 以降、私による演劇おもしろポイントを書くのだが、これは別段、演劇だけがこの特徴を有

        • 脳内ストレージを作るのだ

          私は忘れる速度がすごい。そして日常的に使っているような物の名前も平気でど忘れする。マスカラの名前が思い出せなくて、「あの…あの…まつ毛に塗るやつ」と説明したことは記憶に新しい。 これは困った。しかし仕方がない。思い出せないならメモをするまでだ。ニュートンはメモ魔だったらしいしアインシュタインだって公式を覚えてなかったんだから胸を張って生きていこう。 と、いうわけで。 これで晴れて記憶喪失を防げるだろう。(だが悲しいことに「マスカラ」の名前をど忘れする対策にはならない)

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