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(ほぼ)100年前の世界旅行 カナダーイギリス 7/21-31

ニューヨークで英気を養った真一、いよいよイギリスへ向かいます。まずはカナダ・モントリオールへ。出発の日はニューヨーク到着以来の雨。「泣いているのは私だけではないようです」という異母妹の優しい言葉に送られて旅立ちました。

カナダの美しいホテル

ニューヨークのグランドセントラル駅からモントリオールへはハドソン川に沿って美しい景色を見ながらの11時間、378マイルの汽車旅です。夜9時半の到着後カナダ太平洋鉄道会社(CPR)傘下のWindsor Hotel 462号室に落ち着きました。翌日はモントリオール駅のCPRオフィスに支配人のBeaumont氏を訪ね、ロンドンのCPRの支配人、Dring氏への紹介状をもらいました。各国各地の旅行エージェントのネットワークを活用して旅していたことがよく分かります。
そのあとはBeaumont氏の勧めで1頭立ての馬車でモンロワイヤルを観光。中禅寺を思い出させる風景と記しています。中でも「トボガン」が盛んで専用の競技場もある、と書いています。耳慣れないので調べてみると、元は雪上での荷物の運搬などに使われた木製の平らなソリで、これを使って斜面を滑る遊びが競技化したがスキーの台頭で廃れた、という説明がありました。一方、今のボブスレーの原型で、リュージュ、そしてスケルトンへ発展した、とも。このお嬢さん方の様子からは想像しにくい爆走系への展開が意外です。

優雅にTobogganing
ホッケーももちろんこの頃から盛んです。

翌7/23はケベックへ汽車で移動し、またCPR傘下のChateau Frontenac Hotelに滞在です。今もFairmont Chateau Frontenac Hotelとして残るこのホテルは、CPRの社主ウィリアム・コーネリアス・ヴァン・ホーン(1843-1915)が行った富裕層の顧客を狙った高級ホテル建設プロジェクトの1つで、建築家ブルース・プライスの設計で1893年に開業しました。真一は「欧州にもこれほど美しいホテルはあるまい」と感銘を受けました。館内を案内してもらい、1日の宿泊者数は1500名までに制限し、満室にしない方針と聞き驚いています。桁違いのキャパシティですね。

堂々たる佇まいです

ちなみに、同じカナダ・アルバータ州のバンフ国立公園にある、バンフスプリングスホテル(こちらも今はFairmont傘下)も、同じプロジェクトでヴァン・ホーンが手がけたホテルです。1926年の火災で立て直されましたが、1980年代に筆者の父で金谷ホテル4代目社長の金谷太郎が視察に行ったことを覚えています。カナダのリゾートスタイルへの憧れが、真一から受け継がれていたのかもしれませんね。

太西洋の船旅

モントリオール、ケベックと、フランス語系住民の多い街を経て、いよいよ大西洋を渡ります。船はSS Montcalm号。この船旅は、横浜ーサンフランシスコの太平洋の船旅↓と比べると、だいぶん落ち着いた雰囲気だったようです。

年配客が多く、太平洋航路より日程も短いことから「退屈をなんとかする」ニーズが少ないことも落ち着いた雰囲気の理由だったかもしれません。また、3等船室がそれほど悪くない、というのも真一が意外に思ったことのようです。太平洋航路は「移民航路」でもあり、3等船室の環境は劣悪であったことが日記にも書かれていました。イギリスでは汽車も1等と3等の差がそれほどないため3等の方が人気だと聞いた真一は、早速リバプールからユーストン駅までの汽車の3等切符を船内から予約しました。実際どうかわからないでしょうに、なんでも試してみたい好奇心と、少しでも安く旅をしようと思ったからでしょうか。

また、船内が船長以下規律正しく目配りがよく、食事も良い、と褒めています。Montcalm号はCPRの船で、1922年からケベックーリバプール間に就航。約1800名が乗船可能ですが、この時の乗客は数百名程度だったようですので、オペレーションも余裕があったのかもしれません。乗客や船員による音楽会(船員たちが芸達者なことに驚いています)、ダンスパーティや映画などのほか、氷山やくじらの群れを見たり、のんびりした船旅になりました。ほぼ同じ航路でイギリスからアメリカに向かっていたタイタニック号の事故はこの13年前、1912年4月のことですが、真一の日記には特に言及はありません。

船中、炭鉱労働者のストがリバプールに到着する予定の7/31から起きるかもとのニュースを聞き、ロンドンへ行く汽車が止まるかと心配する記述もありますが、リバプールの港にはトーマスクックやCPRの社員が出迎えに来ていたので、万が一の時もなんとかなったことでしょう。おそらくストはなかったようで、真一は無事にリバプールからユーストン駅にでて、タクシーでロンドンのStrand Hotelに到着しました。

NYからイギリスへの旅程は移動も宿泊も全てCPR関連でした。冒頭のロゴは1920年代に同社が使っていたものです。ビーバーとメイプルリーフが可愛いですね。

さてここから20日間、ロンドン編の始まりです。旧友に会ったり観光したり、また忙しい日々です。

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