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正欲(本) 感想

著者:朝井リョウ
ジャンル:フィクション

私にこの作品を勧めてくれたのは主人なんですが、読まなきゃ良かったな…と思ってしまいました。
以下の感想は、そんな前提でお読みいただければ幸いです。


ざっくりなあらすじ

主人公は5人。癖が強い。

  • 佐々木佳道。
    冒頭事件の主犯で、大手食品メーカー社員。

  • 諸橋大也。
    冒頭事件容疑者の1人で、大学生。

  • 寺井啓喜。
    検事。息子が不登校。

  • 桐生夏月。
    寝具メーカー社員。特殊な性癖を持っている。

  • 神戸八重子。
    大学生。男性不振。作品唯一の良心…だけどネットストーカー。

お話の半分くらいまでは、彼らがそれぞれ持っている社会への怒り、恨み、上手くいかないもどかしさ、孤独。みたいな負の感情をドカドカーッと投げつけられます。
彼らは孤独と諦めゆえに社会を嫌い、妬み、どんどんと悪い方向へ進んでいってしまいます……家庭崩壊、自殺未遂、ストーカー、YouTubeの荒らし(?)行為。

私は不倫行為にとんでもないトラウマを持っているので、この辺りまで読んで吐き気と戦うことになりました。先に言って〜!!と思った。

しかし、彼らは孤独の峠、てっぺんを超えたせいなのか。
互いに少しずつ知り合い、繋がりを持つようになります。
知り合いになったら当然、衝突したり分かり合ったり、切り捨てられたりします。ですが悪い事ばかりではなく、歪でも理解し合おうとする希望も見えてきて……少なくとも、もう死ぬしかない、という未来ではないかな?という方向へ生きていくことを選ぶのです。


安っぽい『多様性』と『繋がり』、無理解への挑戦

この小説はこのテーマに尽きると思います。
お前らはダイバーシティ、多様性、ジェンダーレス、そう言ったな?……じゃあこれを受けてみろよ!!!と言いたそうな文章の豪速球を喰らわされ続ける。

要するに、我々が口にする『多様性』はマジョリティにとって都合がいいだけのもので、嫌悪を催すような真のマイノリティを受け入れることはどうしたってできない。
さてどうする?って内容ですよね。

主人公たちの中には、自分自身が理解者を得たことで、マジョリティ側にいる人たちも実はみんな不安で、その中を必死に生きてたんだ!っていう気付きを得ることができた者も居ます。

大事なのはそこで、真の相互理解ってのは互いの立場になるまで分からんという性質がある。
だからぶつけ合ったところで解決しない。もっと生産的に進んでいこう。
……好意を乗り越えてフラットにそういう事を主張する八重子さんが、私は好きです。


なんで後味が悪いのか

ここまで書いて、どうして「読まなきゃよかった」という感想になるのか?
その理由は、終わりの打ち切り感にあります。
冒頭事件の経緯がわかって、今後みんな大体こんな感じで生きますよ〜がわかったら、そこで話が終わります。リアルにえっ!終わり!?って声出ました。

だから、バカ強い感情ボールをひたすら投げられて、ほんの少〜し打席入ったらもう終わっちゃうんですよね。
もっと何回かバット振らせて欲しかった。

あとは先述しました不倫問題や、水難事故児童ポルノ子育て真っ最中 のどれかにトラウマがある、もしくは当て嵌まる方は読むの辛いです。
生々しいすぎちゃうんでしょうね。


まとめ

多様性、ダイバーシティ、その軽々しさと罪深さを考えているか?
そう主張する感情剛速ボールを投げるピッチャーと、あんまし打てないバッターの試合。という歯応えがする作品。

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