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かつぶしオクラ牛丼の話

 「死ぬまでにやりたいこと」というのは誰にでもある。オーロラを生で見るとか、スカイダイビングとか、ウユニ塩湖に行くとかそういうのである。

 ただ、実際にそれらが実行できなかったとしても、言うほど死ぬ間際に後悔はしないのではないだろうか。「結局ウユニ塩湖は行けなかったな……」と心残りには思うだろうが、こう、納得感のある後悔というか、しょうがない感じがある。ボリビア遠いし。

 反対に、「ああ、アレをやっておけばよかったな」と、成仏できないほどに悔いが残るものもあるだろう。私が思うにそれは、簡単な、チャンスは何度もあったのに選ばなかったことでこそ起きやすい。例えばそう、かつぶしオクラ牛丼を食べること、とか。


 かつぶしオクラ牛丼、ご存じだろうか。人気牛丼チェーン「すき家」の、決して人気とは言えない商品である。名前の通り、オクラと鰹節を載せただけの牛丼だ。

 すき家の店舗数は2023年7月時点で1,941件。47都道府県すべてに出店しており、よほどの辺境住みでもない限り何度も行く機会があるだろう。そのため、かつぶしオクラ牛丼を食べるチャンスは非常に多い。ウユニ塩湖よりよほど多い。が、実際に食べたことはない人がほとんどだと思う。私も食べたことはなかった。

 こういった、「食べるチャンスは多いが食べたことのないメニュー」はいくらでもある。すき家で言えば、他には鶏そぼろ丼や牛丼ライトなんかもそうだ。すき家以外でも、例えばマクドナルドのチキチー、天下一品のあっさり、たけのこの里など。意識して探してみるといくらでもみつかる。


 最初に言ったとおり、最期の時に「結局ウユニ塩湖は行けなかったな……」と後悔するのはやむを得ないように思えるし、なんなら文学的な美しさすら感じる。しかし「そういやすき家のかつぶしオクラ牛丼食ったことなかったな……」と思いながら死ぬとなるとどうだろうか。あまりにも、あまりにも悔しくないだろうか。悔やんでも悔やみきれないのではないだろうか。いくらでもチャンスはあったのに! 

 少なくとも私はそんな最期を迎えたくない。絶対に。


 その為にはどうすればよいか。簡単だ。これらを一度でも食べてしまえば良い。

 そんなわけで私は最近、「食べるチャンスは多いが食べたことのないメニュー」を積極的に食べるようにしている。その結果が「大したことねえな」でも構わない。これはあくまで、死ぬときの後悔を無くすための作業なのだから。食べたという結果だけが必要なのだ。

 その一環として、この前初めてすき家のかつぶしオクラ牛丼を食べた。味?あまり好きじゃないかな。。。


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