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無著・世親

………興福寺の北円堂に安置されている無著像と世親像が公開されると聞き、
10月の最終土曜日、クニオとヨシコは北円堂へ旅立つ

興福寺北円堂


………すでに、五重塔の周辺は人混みができていた、五重塔の手前を左折し、2017年に再建された中金堂を横目に北円堂を目指す。
 
クニオ
“いやー 中金堂は「青丹よし 奈良の都は 咲く花の〜  」だね    ”
ヨシコ
“ほんと  青(緑)や丹(赤)に彩られた姿で再建されてるね!”
 
………北円堂(*1)の扉は開けられている、二人は、はやる気持ちを抑えながら堂内に足を踏み入れると、そこには、本尊弥勒如来坐像を中心に四天王立像、そして無著像と世親像  合掌!
 

            左:世親菩薩立像 右:無著菩薩立像  興福寺蔵                     出典 日本美術史入門(別冊太陽)平凡社


 
クニオ “………………………………”   
ヨシコ  “………………………………”
 
 
クニオ
“「運慶の最高傑作と問われれば」 … 私は『無著と世親像』を挙げると言った美術史家がいたけど … 曰く「この運慶の作品は、自由な生命感を宿している」って “
ヨシコ
“確かに 二体とも人間の内面や命を映し出しているような感覚を覚えるわね!”
クニオ
“決意と迷い 威厳と慈悲”
 
 
「無著と世親は法相宗の教えを体系化した大成者なんですよ」と興福寺の法被を羽織った年配の案内人が話しかけてきた。
「そうですか」と僕、「でも、この二体のお顔はインド人ぽくないですよね」
「えーえー お二人ともインドで活動し、無著がお兄さん、世親が弟です」
「………」
 
 
クニオ
“興福寺国宝館の無著・世親の肖像画を見ても似てないよね ……… なのに、どうしてこんなに写実的につくることができたんだろう   ?”
ヨシコ
“そこは気にしなくていいんじゃないかな、運慶にとっては、過去の人間の姿をありのまま表すことではなくて、その人物の偉大さ、苦悩、悟りを余すことなく表現することが関心事だったと思うよ”
クニオ
なるほど、そうだね、人間の内面の複雑な様相を如何に表現するかってことだね!”
ヨシコ
“そういうこと!”
 
………無言で無著像と世親像に手を合わせる二人
 
クニオ
無著世親像を前にすると、似ているか似ていないかなんて貧相な煩悩を持つこと自体が恥ずかしい   ”
ヨシコ
“一つ悟りましたね! ”
 
………こうしてクニオは煩悩(何かにとらわれてしまう)を一つ洗い落とすことができました、メデタシメデタシ!
 
 
(*1)北円堂の諸仏の作者は誰か   西木政統 東京国立博物館
 本尊の弥勒如来坐像、脇侍、四天王立像,無著・世親像の全て運慶作である、北円堂の造立に出資した近衛家実の日記「猪隈関白記」に「仏師は訪印運慶」とある、一方これだけの諸仏を運慶一人で制作したかと言えばそうではない、運慶を棟梁とする運慶工房が請け負った仕事という事らしい、もちろん運慶の子息も腕をふるった。   

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