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ロードバイクホイールにおけるphysics&metaphysics その2

(Image credit: Cyclingnews)

速いホイールとはどんなホイールだろう。
エアロ、軽量、剛性、その他。各要素の優先順位と重み付け、乗り手のフィジカルも含めた統合的な検討をしてみたい。また、印象や固定概念でなく、出来るだけ論理的なアプローチを試みたい。
なお、ディスクブレーキロードを前提とする。

ということで調べだすと、ホイール学とは複雑系であり今の情報では答えが出ない。得られるのは暫定的結論というところだろうか。

その1はこちら

2 具体的な構成に関する考察

2-① どれほどワイドがいいのか

路面抵抗はワイドが有利。ではタイヤ幅、リム内幅は広ければ広いほどいいか。
なお、タイヤ幅についてまずこちらの記事をどうぞ。

速いホイールの設定条件について、まずはタイヤ幅である。
BRRのテストでは適正空気圧同士なら25C≧28Cでワイドが転がり抵抗で有利
しかし、bikeradar.comのテストでは適正空気圧同士では30cまでいくと転がり抵抗は増えてしまうという結果がある。エアボリュームが増えるが、しなやかさが失われるからと推測される。
25C>28C、26C<30Cというのが興味深い。
ただし、振動吸収は空気圧が支配的であり、より低圧運用ができる30Cくらいまでは太くなるほどトータルの路面抵抗は減っていくと推測される。

滑かな路面やローラー上では30Cは転がり抵抗が大きい可能性 bikeradar.com)

つまり、タイヤ幅についてはどれほど荒れた路面か&速度が速いかでベストが変わる。30mmを上限に、速度域が低いほど、なめらかな路面であるほど細いほうがベストな選択となる。
多くの実験や体験等を纏めると、日本の公道やサーキットで平均35~40kph程度なら、体重が45~60kgなら実測26~28mm60~75kgなら実測28~30mm程度と思われる(クリンチャーやTLRの場合。)
太いことのデメリットは細いことのデメリットより小さいので、気持ち太目でいいだろう。

では、そのためにリムの内幅はどのくらいが適正か。
内幅が拡がれば、タイヤ形状は少しずつ扁平率が下がるため振動吸収性は下がっていく方向である。一方で僅かではあるがエアボリュームが増えるため振動吸収性が上がっていく方向である。
新ETRTO28cや旧ETRTO25C、ピレリ26C~28C※であれば、19mm~23mmで有意差が生じることはないと考えられる。
※ ピレリの26C,28Cはモデルによって幅が違う。ピレリだけではないが。
一部フックレスの25mm以上のものがあるが、これはタイヤ実幅がかなりワイドになる。新etrto28Cでも実測で30mmを超える。そして適正空気圧だとフワフワ感が強い。かといって圧を上げると加速が鈍い。のんびりロングには最適だが速さを求めるものではないと思料。

cyclingapps.net によると23~32まで適正空気圧なら転がりは変わらない。

そして、リム内幅が広がるとタイヤ外幅は顕著に広がってしまう。
タイヤ外幅がリム外幅を超えると、横風を受けた際に大幅にドラッグが生じることが示唆されている(105%ルール、ただし異論もあり)。かといってリム外幅をさらに太くすると、前方投影面積が大きくアスペクト比は小さくなり、エアロダイナミクス的に不利になる。
また、過度なワイド化によるタイヤの低圧化は腰抜け感を伴うし、リム破損リスクの増大を招く懸念がある。

結果的に内幅は20~21mmがベストではないだろうか。新規格のGP5000の28C×C21が29.5mmくらい、旧規格のパワーカップ25C×C21が28mm、28cが30mm強というところ、ちょっと太目でちょうどいい。
内幅は長らくC15だったが、その後17→19&21の進化は急速だったがこれ以降は止まっているのは、このあたりに理由がありそうだ。DTのARC1100-62は内幅19でも結構エアロ成績がいい(ただし細めタイヤ)のもそれを証明している。
そして、タイヤ幅28~29mm×105%で算出すると、外幅は29.5~30.5mmとなる。ちょっと余裕を見て30~31がベストだろう。

(これはいい。標準的日本人ライダーにはちょっとワイド過ぎるかな。Vシェイプなのが惜しいね。
bikerumor.com)

内幅22.5mmにGP5000の28cだと30mm強と、体重が80kg超にはベターだが60kg前後にはやや過剰ではないだろうか。


2-② どれほどディープなものがいいか

ハイトに関して、従来は40~45mmくらいがオールマイティ、50mmはディープとされてきた。軽くできるのでセールス的に印象がいいこともあるが、空力的にもこのくらいで良かったこともある。従来の内幅C15では外幅も20mm程度。アスペクト比は2.0~2.25である。アスペクト比が全てではないが、外幅30mmで同じ比率ならリムハイトは60~67.5mmである。
リムのワイド化はスポークの発生させる乱流を大きく低減することや、リム幅がタイヤ幅より広いと乱流が押さえられるため、前方投影面積増やアスペクト比低下のデメリットを打ち消す効果があるという実験もある。同じ空力を得るために同じアスペクト比が必要になるわけではない。
とはいえ、ワイドタイヤワイドリムにはディープリムが求められる。

ちなみにRovalのRapideはフロント外幅35mmと極端なワイドリムで51mmハイトもあるがアスペクト比は1.46しかない。そのぶん横風安定性の素晴しさは誰もが実感できるだろう(そして後輪のセミワイドな60mmが空力を担う)。

また、リム断面形状のU字エッジ(トロイダル形状)は若干の重量増を伴うが、エアロ効果を犠牲にせず横風安定性を得ることが出来ることが示唆されている。

(U字シェイプはやや重くなるが、空力のメリットは大きいと思料)

あまりにディープすぎるとスポークが短くタメが効かないホイールになる。これはカーボンの硬過ぎスポークもそうなのだが、ペダリングに同調させづらくなってしまうデメリットがある。

U字断面なら前後のリム幅を変えずともよく、深さはフロント50~55mm、リア55~60mm程度がベストではないだろうか。

2-③  スポーク構成は

スポークに関しては、材料力学的にいうと同じ重量であれば、スポーク数を増やし分散させるほうが太い少スポークより横剛性が高く、横剛性は同じ素材であれば曲げ応力は厚み(太さ)の3乗に比例する。
素材に余程の曲げ弾性が強いものを用いないと、少スポークや極細スポークにすると横剛性が足りなくなると思われる(登りでヒステリシスロスが生じる恐れ)。
CX-SUPERは引張は強いが横に弱い。デメリット>メリットと思料。

なお、極細スポークや少スポークのデメリットについてはスポーク組の大家であらせられる「のむラボ」さんに詳しい(←以前は作り手さんなので安全側に振ってるんだろと思っていたが、ホイールを調べると合理的な意見であることが理解できるようになった )。
また、スポークテンションは一定以上は横剛性に寄与しない。なぜなら下図のような右スポークが延ばされる応力は左を緩めるベクトルだからである。

(rouesartisanales.com)

少スポークはエアロで定性的メリットはある。しかし、風洞実験において少スポークホイールが特に空力が良いという定量的効果は見つからなかった。スーパーワイドリムではスポークの乱流が押さえられ、近年のディープリム化でスポークが短くなっていることなどが要因と考えられる。
そのうえ、フロントの少スポークは左右差を生じさせ、ダンシングの振りやハンドリングにマイナス影響がある。リアの駆動側がラジアルという狂気については言及の必要もないだろう。
ディスクブレーキロードについては、24/24両タンジェント以外の変則組をやるべきエビデンスは全く見つからなかった

2-④ HUBはラチェットor爪?セラミックベアリング?

セラミックベアリングの良さを表現するインプレ記事に「脚を止めたとき、すぅーーっと伸びる距離が違うことが実感できる」というのがある。
しかし、空走時抵抗の殆どが空気抵抗と路面抵抗であり、空転による機械抵抗は極めて小さい。そしてもっと重要なことは、その機械抵抗の殆どはベアリングでなくフリー内部のラチェットor爪の摩擦抵抗である。ライターさんは極僅かの内の極々僅か、極微塵の差を体感できる悟りを得ているのかも知れない。
そのわりにギザギザ円盤を押付けあうラチェットはその摩擦が比較的大きくなるのだがDTラチェットのホイール(dt-swiss・roval・bontrager)で「空走が効かない」というインプレを聞かないのは何故だろう。ただ、シマノの新ラチェットは空走が効かないという声がちらほら。
冗談はここまでで、セラミックベアリングのメリットにはエビデンスがない。

定性的な効果は否定しないけれど。

ではラチェットの抵抗がどこまでデメリットか。
ヒルクライムでは空走が殆どないため、有意差は生じない。
ロードレースでは巧く脚を止めるのはスキルで、それを有効活用することで差を生じる可能性がある。しかし、ハンビニ先生のテスト結果とそのシーンを考えると数ワット差で空走距離は殆ど変わらず、有意差はないだろう。
ハブは剛性を確保できてイザという時に壊れないことが求められる。
また有意差は無いが1gでも軽いほうが有利であることに間違いはない。

結論

誰でもどこでも、ワイドでディープで素直なホイールが一番、という個人的には本当につまらない結論となってしまった。


きっとこれが最強。


2-⑤ 残る疑念とそれに関する見解

なお、ここでは”26mmタイヤ&27mmリム” vs ””29mmタイヤ&31mmリム” を比較していないのにお気づきだろうか。
タイヤ単体では実測26mm<29mmと結論付けている。しかし、幅広タイヤは前方投影面積を大きくする。ワイドリムはアスペクト比を下げてしまう。そして重くもなる。重量条件を揃えるなら、26&27なら62mm、29&31なら51mmくらいになってしまう。アスペクト比、2.33 vs 1.65 である。
このときの空力は、前者のほうが圧倒的に良くなる。各種風洞実験テストに鑑みると、近似の形状なら3w~5wくらいの差があるだろう。

おそらく、一部のリムブレーキフレームなら前者が正解である可能性が高い。それは、末端がしなやかで、自転車全体が振動吸収性があるため。

しかし、ディスクブレーキロードなら多くの場面で後者が有利になると推測する。
ディスクブレーキロードになって同じ感覚で乗ろうとした場合、求めるタイヤ空気圧が大幅に下がったことは多くの人が実感していると思う。フレーム末端が硬いので、タイヤに振動吸収性を求める。路面と速度にもよるが、殆どの場面で振動抵抗の差がエアロの3wや5wを覆すと考えている。

また、再記になるがワイドなぶんディープにすればエアロのデメリットは解消できる。その際に重くはなるがそのデメリットは小さい。

おそらく”29mmタイヤ&31mmリム”が今後のスタンダードになっていくだろう。


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