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ロードバイクホイールにおけるphysics&metaphysics その1

(Image credit: Cyclingnews)

速いホイールとはどんなホイールだろう
 エアロ、軽量、剛性、その他。各要素の優先順位と重み付け、乗り手のフィジカルも含めた統合的な検討をしてみたい。また、印象や固定概念でなく、出来るだけ論理的なアプローチを試みたい。
なお、ディスクブレーキロードを前提とする。

ということで調べだすと、ホイール学とは複雑系であり今の情報では答えが出ない。得られるのは暫定的結論というところだろうか。

現時点で考え着くのは、
☆リム内幅20~21mmで外幅30mm~31mm、
☆フロント50~55mm、リア55~60mmハイトのトロイダル(U字)断面形状リム、
☆細いスポーク(カーボンがベスト、鉄が次点)、F24本/R24本
☆出来るだけ全体重量が軽いもの。

 結果的に最新のトレンドとなったのは、前提とした情報によるものかもしれない。

(Image credit: farsports)

1 要素の優先順位について


1-① 優先順位における重量について

 ホイールを検討する際にまず目が行くのは重量だろう。
 しかし、単純な物理計算で5kg/wで登坂している状況でさえ、前後で200gのリム重量差の影響は1wattにも満たない。ヒルクライムで5倍って乗鞍優勝レベルだ。
 加速においては慣性が働くので登坂より影響がある。だが、人体+システム重量を70kgとすると200g×150%(回転体のため、進行の1.5倍くらい運動する)くらい増えたって、要求出力の増は微々たるもの。rouesartisanales.comのテストでリム200g増で270wattの加速で1watt程度の差が生じたとある。
 重量は1gでも軽いほうが良いが、山岳であっても優先度は最後尾だ。
(Corima-MCC、LW-オーバーマイヤーユーザーの筆者、涙)

(Image credit:Cycling Weekly )
オーバーマイヤーよりスタンダードのほうが進んだ、昔は。いまはこっちが登る。重量ではない。


1-② 優先順位における路面抵抗について

 ここ2,3年でワイドタイヤが急激に主流となった背景に路面抵抗(転がり抵抗+振動抵抗)の低さがある。
 BRRのテストによると同じ銘柄の25cと28cそれぞれの適正空気圧における転がり抵抗の差は1wほど。あまり差が無いようだが、空気圧が0.5気圧ほど違い、これが速度や路面にもよるが振動抵抗の差を生じさせる。このため、その和である路面抵抗の差は数ワットほどになる可能性がある。
 ちなみに先日、同じ銘柄タイヤの実測26mm-5.5barの自分(60kg)と実測29mm-5.0barのO氏(60kg)で荒れた路面を27kphくらいで走ると、15w以上の差(235wくらいvs218wくらい)が生じた。
 また、その衝撃が身体を疲弊させることを考えると、単純な抗力削減だけでなく高い振動吸収性はライダーに大きなメリットになるだろう。
 路面抵抗低減は重量よりも遥かに重要である。エアロとトレードオフにはなるが、重視すべき。
また、下りコーナーでの優位性など物理的なものだけでなく「速さ」に影響する。
なお、タイヤ幅については新ETRTOと旧ETRTOがあるので注意。

(Image credit:BRR・Bicycle Rolling Resistance )

1-③ 優先順位におけるエアロについて

 空力については多くのテストが行われており、ディープリムの効果が立証されている。基本的に前方投影面積が小さく、アスペクト比(縦横比、薄さ)が大きいほうが有利という(2.5~3程度がベスト)。速度やヨー角にもよるがホイールで10w以上の差がでるケースもよくあるようだ。1時間平均で10wも違うと、全く違ってしまう。
 また、リム深さによる空力の差はヨー角がある程度大きいとき-横風がやや強いとき-に大きくなる。ヨットの帆のように揚力を発生し、抗力を打ち消すためである。空気抵抗そのものは速度が下がれば二次曲線的に減少はするが、そのぶんヨー角は大きくなり、ちょっとした横風でも効いてくるので、ディープの相対的効果は大きくなる。
 これは速度が遅い登坂であっても、高速平地シーンでも、エアロホイールによる効果の差は大きいことを示している。
 やはりエアロは最優先事項である。そして、相対出力が少パワーでよい軽量選手ほど、エアロホイールの恩恵が大きい

1-④ 優先順位における横風安定性について。

 エアロなディープは速い。しかし、ディープリムのフロントは横風で振られる。そうなるとエネルギーロスがある。それは意外に大きいことがわかってきている。
 最終的にはトレードオフになるが、可能な限り横風揚力を得つつ、安定性も確保することが重要だろう。そして、横風安定性はハンドリングに寄与し疲れにくさに貢献するため、エアロをある程度犠牲にしても求める効果がある。

Vシェイプリムは横風の裏で負圧が大きく安定性を損ねる。
またタイヤ幅>リム幅は後方のドラッグが大きいことが示される。

1-⑤ 優先順位における剛性について

 ホイールの剛性は大まかに、駆動剛性、横剛性、縦剛性がある。
 駆動剛性について、登坂時に大出力でペダリングした場合は差異が生じる可能性が高いが、その数値的根拠は見つけられなかった。横剛性も効率という点では、登坂時の差が出る(rouesartisanales.com、MAVICテスト:坂の1000Wで最大150wロス-15%はデカい-)と思われるが、登坂の実用域-300~500w-での明確な差異に関するデータは見つけられなかった。ただ、1000で15%なら300でも数%の差異が生じても不思議ではない。
 また、実際に乗っている人ならわかるが、ホイールの横剛性が低いことで脚が重く感じることがある。登りを進まないホイールである。ダッシュをかけた時にチェーンが暴れる(ホイールがねじれることでハブにタイヤが付いてこずタイムラグが生じる)ものもある。
 ただしロスの少なさは諸刃の剣、剛性過剰であることで脚が攣りやすいホイールがあることも事実である。
 効率ではないが、捩れ剛性や横剛性はブレーキングや下りコーナーの安定性、安全性に大きく寄与する。これはライダーの疲労軽減にも貢献し結果的に速さに繋がる。
 適切な剛性を確保することは、必要条件であると考える。

(amazon画像-加工済)
もう廃番だからいいだろう。こいつはフニャフニャで軽いだけのホイールだった。

1-⑥ エアロと路面抵抗のトレードオフをどうみるか。

 先に述べたように、実測30mm幅のタイヤを実現するホイールシステムはやや荒れた路面などで大きなメリットがあり、かなり大きな差異を生む。そして滑らかな路面でも速度が上がれば1barで10w程度の差が付くこともSILCAの実験からみてとれる。
 一方で太いタイヤを履くと幅はもちろんタイヤ高も増加し、前方投影面積が大きくなる。エアロではデメリットだ。

 ハンビニは、適正空気圧なら転がり抵抗は変わらないし、細いタイヤはしなやかだから路面抵抗は殆ど差異が生じない、エアロな23Cが速いだろう、と主張している。しかし、路上で5barの28C並みの滑らかさを出そうとすれば、60kg未満の自分でも23Cで6bar以下まで落とさなくてはならない。実測幅24mmのタイヤで6bar以下はコーナーが怖すぎるし、リム打ちが怖くてとても乗れたものじゃない。

 四輪などは速度も高く当たる風のヨー角が非常に狭いためCdA(空気抵抗)が前方投影面積に大きく左右される。横風が強くても相対速度があるので、正面向かい風の比率が大きくなる。しかし、せいぜいが平均40kphな自転車で、特にホイールは横風影響が大きいため、前方投影面積よりも横風での揚力が得られるかどうか、である。
 もちろんアスペクト比が高いほうがいいので幅の狭さは有利だが、ワイドでもリム高を稼げばネガはかなり回避できるのではないだろうか(その代償は重量増だが、重量のデメリットは小さい)。


その2へ続く


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