読書記録#4試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。
「試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。」
尾形真理子
「試着室って複雑な気持ちなるものなのよ。ああ、私も老けたなぁなんて思って、そこから昔のことを思ったりしちゃうものなのよ。」
そんな母の言葉を、思い出した。
試着室はたしかに、自分の姿以上のものと向き合わざるを得ない場所なのかもしれない。
強めの照明で照らされた広くはないスペースで、大きな鏡と1対1で対峙する。自分と、自分。
そうなった瞬間、新しいシミやそばかすと共に、自分でも気がつかなかったような感情や、見ないふりをしていた誰かへの想いだったりが、鏡にはっきりと映し出される。
そんな魔力が、試着室には宿っている。
昨日まで似合っていた服が急にしっくりこなくなったり、反対に、どうにも着こなせなかった洋服と、急に仲良くなれたりすることがある。
それはきっと、忙しない毎日の中で見過ごしてしまっていた自分の変化によるものなのだ。
そして、この変化の理由の中には、試着室という極めて特殊な空間でしか浮き彫りにできない物もあるのかもしれない。
そう考えると、洋服は私の小さな変化に真っ先に気がついてくれている愛しい存在と思える。
今の私は、試着室で、どんな自分と対面することになるのだろう。
最後に試着室に入ってから、優に一年は超えている。
その間の私の人生は、私にどのような変化を与えたのだろう。
久しぶりに、お店に足を運んで、試着もして、新しい自分にぴったりの洋服と出会いたい。
願わくば、カナメさんのような素敵な店員さんにも、出会いたい。