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発毛専門店で働いて思ったこと

社名は伏せますが毛髪の発毛専門店で働いていました。
施術方法や販売品についても書きません。ただ、思っていたことを。

人類が月を周回しようとしている時代に、髪を生やすのがこんなに大変だなんて、とずっと思っていました。

人が頭髪を失う理由は様々です。
男性ホルモン、過度のストレス、出産によるホルモンバランスの乱れ、生活習慣、原因不明・・・
ほとんどのお客様は男性で、額が広がってきたことを気にする人や頭頂部が薄くなってきた人、シャンプー時の夥しい抜け毛に悩む人、などなど。年齢も20代から70代まで幅広く。

ただ、女性の原因不明の脱毛という症状は、見ていて辛いものがありました。
中学生の女の子や、23歳の社会人、60代の女性、年代はやはり様々でしたが、女性で頭髪が抜け落ちてつるつるの禿頭になり、ウィッグをかぶって生活している姿は痛々しかったです。

服薬などの原因のない、ストレスが原因と言わざるを得ない若年性の脱毛は、施術と栄養の摂取で比較的(※男性の加齢とホルモンによる典型的な脱毛との比較)早く発毛しだすのですが、定着せず、すぐに抜けてしまうことが多かったです。
一時的な発毛でぬか喜びさせるのを不安に感じるスタッフもいました。

10代、20代の一番多感で人生を楽しみたい時期に、頭髪がないという悩みを抱えていて、それでも発毛させるために店に通い、スタッフと明るく話している女性は、内心なにを思っていたのか。

全国の店舗での発毛成績を競うためのコンテストも行われていましたが、ここで受賞して賞金を受け取ったお客様の大半は、賞金を次の施術コース代に充てます。
十分に発毛したと感じてコースを修了しても、ホームケアを怠ったり、生活習慣が悪化したりで、以前同様に抜け毛が増えてしまう人も多数いました。
終わりのないサイクルであるために会社に利益が出るのですが、どういう気持ちでお客様が何年もの年月を店に通うことに掛けているのか、よくわからないままです。

発毛専門店の使う器具や薬品、販売する健康食品には、発毛する効果があると感じています。
それらを使って発毛させるための生活指導も、発毛のためには意味があったと思います。
効果が出ないと訴えるお客様も多かったですが、会社の提示する発毛メソッドを再現していないからだという理屈もある程度賛成です。

店舗勤務のスタッフは採用面接時に「自分の毛量が多いと感じますか?」と質問されます。
頭髪の量に悩みのある人は採用されないのです。
当然と言えば当然ですが、ゆえにスタッフは多かれ少なかれこう思っていたと思います。
「髪のことぐらいで悩んで大変だな」

店舗で使用する器具、健康食品、その他一切は全店共通でしたが、異様に発毛成績の良い店舗というものがありました。
何年も上位成績店は入れ替わらず、離職率の高い職場でしたが、こういう上位店はスタッフもほとんど変わらないのです。
恐らくはお客様のモチベーション維持が上手く、カウンセリング担当者と施術者が密に連携できているのでしょう。
使っているものが同じで、効果が違うのは、お客様自身の頑張りの度合いが違うからです。
言われたとおりに頑張る人は効果が出る、と断言できます。

だけどねえ、お客様だって365日発毛のことを考えていられませんよね。
顕著な効果が表れる人は、360日くらいは発毛のことを考えているような人でしたが。
人間の社会生活において発毛は最優先事項ではないのに、最優先であるかのように指導するのも、その指導によって成績優良店になるのも、はたまた実際に最優先だと考える人がいるのも、なんだか他人事で私はあまり仕事をがんばれませんでした。

正直、生えても生えなくても私には関係ないけど、店の売り上げに貢献しようとした爪痕は残した方が生きやすいから、営業しておくか。という勤務態度でしたし、こういうスタッフは多かったと思います。
古参スタッフでもなければ、発毛専門店で働いているということ自体をあまり人に言いたくないと考えている人は多かったです。
誰だって「〇〇で働いている」と言えば「ハゲた人を接客している(笑)」と思いますから。
男性に言って「俺も将来ハゲるかな?大丈夫かな?」のようなことを言われるのが常でしたので、職業ははぐらかしていました。


仕事だからやっているけど、内心では頭髪に悩んでいる人を見下していたと思います。
この程度のことで悩んで、大金を使って、それをドブに捨てるような生活を改めないで、効果が出ないと文句を言って。
そんなお客様は多くいました。


半面、前述の女性たちのように、なぜ髪が抜けるのか、同じ悩みを抱える人は多くない状況に、なぜ自分がと思いながらも(※想像です)、スタッフとは気さくに喋って、文句も言わないお客様もいて。
そういう人に「このあたりに産毛が生えてきてますね」と伝えるのは心苦しくて嫌でした。見え透いたお世辞、どうせ育たない産毛、と私もお客様も思っているのに。
(こういう状態説明はスタッフ個人の意思の場合もあれば、カルテに「こう伝えるように」と上司から指示されている場合もあり、私の意思ではないことを言うのは辛かったです)


とにかく仕事内容、自分の発言、お客様ごとに変わる感情、などがちぐはぐで、やりがいだとか成績だとか以前に「何やってんだろう私」と思考停止してしまうことが多かったです。
この施術本当に意味あるのかなあ、私のシャンプーでちゃんと洗えてるのかなあ、このスタッフテストの暗記明日には忘れてるなあ、、、

お客様が何年というスパンで発毛計画を実行しなければいけないのに、私はその日のカルテの消化のことしか考えていませんでしたし、多くのスタッフもそうでした。
退職する日も「なんだかなあ」と思って帰宅しました。


取り留めもなく終わります。


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