八月の赤い月 3

 みどりの住んでいる地域は、青々とした山々に囲まれ、昔から、米や果物の栽培が盛んである。ほぼ一年中何かしらの果物が旬を迎えている、そんな地域だ。
 冬から始まるイチゴ、次にブルーベリー、桃、葡萄、イチジク、梨、柿。

 みどりの庭にも数種類の果物が植えられている。ビワ、イチジク、スウィートスプリングという名のミカン。紅八朔に温州ミカン、橙、梅、畑にサクランボ、山には栗、最近は、ゆずやレモンも収穫できるようになってきた。

 だから、みどりは忙しい。果物が熟す季節になると、仕事の後に収穫が待っている。それらをジャムにしたり、果実酒にしたり、コンポートにしたり、ペーストにしたり。
 もちろん、収穫の手入れだけで終わるはずもなく、草取りや剪定、肥料やり・・・・・毎日パタパタパタパタと動き回って、あっという間に一日が終わってしまうのだ。

 みどりは、母と二人暮らしだ。父親は早くにがんになり、亡くなった。兄や妹も早くに結婚して家を出た。後を継ぐつもりは毛頭なかったのに、なぜか50を過ぎたこの年まで、実家暮らしだ。
 長女のみどりは、父を亡くした母を一人でおいておけないと思ったのかもしれない。

200年を優に超えるみどりの家は、茅葺屋根の家だ。冬は暖かく夏は涼しい・・・のだが、ときに藁が落ちてき、ある時はムカデが落ちてくる。そんな家を全面改築したのは、10年前。きれいにはなったのだが、時々感じるのだ。
 誰もいない家に帰ってくると、しん、としてけれども何かの物の怪がいるような不思議な感覚になることがある。
八百万の神か。
 百年たったものを大切にしていると、八百万の神が幸せを持ち主に運ぶということをどこかで聞いたことがある。

 家を改築してから、不思議なことが良く起きる。どんなに早くから予定を決めても家に来れなくなる人がいる。反面アポなしでもいきなり来る人がいる。たいていそんな人は、社長や先生と呼ばれる人たちだ。
 家が人を選ぶ?
「今度は誰を連れてくるとね?」
「あ~この前お店で会って話した人。いい人だよ。えっとオーストラリア人だったかなあ。」

 あまりにも良く続くので、最近は、みどりもこの家が人を選ぶと思うようになってきた。
「りくは、大丈夫な人かなあ。」


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