見出し画像

オフコース アルバム「over」その5 「メインストリートをつっ走れ」

アルバム「over」において、鈴木さんは「君におくる歌」を歌い、小田さんは「ひととして」を歌いました。

「君におくる歌」


過ぎゆく日々を振り返らずに
新しい夢を胸に僕は今旅立つ

「ひととして」


さあもう僕等はゆくよ

鈴木さんも小田さんも旅立ちを歌ったわけですね。

「旅立ち」において、人は、新たにやってくるものに立ち向かおうと自分を叱咤激励するでしょうし、置いていくもの、残していくもの、に対して感傷的になったりするでしょう。

鈴木さんの心のベクトルは前者なんですね。それがアルバム「over」A面の最後を飾る鈴木作品「メインストリートをつっ走れ」です。

この曲の作曲は鈴木さんですが、作詞は大間さんと安部光俊さんと鈴木さんです。安部さんとは、鈴木さんが彼のプロデュースをしたり、彼が「一億の夜を越えて」の作詞をしたりと深い付き合いです。大間さんは、「We are」ツアー終了後の会議で鈴木さんの脱退を知らされた後に鈴木さんと一緒に帰途につき鈴木さんを説得しました。そこで色々突っ込んだ話し合いがあったことでしょう。

要するに、安部さんも大間さんも鈴木さんの心情をよく理解していたはずで、そこに鈴木さん本人が加わり作詞されたのが「メインストリートをつっ走れ」です。

したがって、この歌は鈴木さんの心情が明確に表現されていると言ってもいいでしょう。
具体的に見ていきましょう。


もっと素直に
素直になれよ
もっと思いきり
叫んでみろよ

追いかけて
手にしたものは
違うのだろう
くやしいんだろう

一読すると、オフコースにおける不遇時代を歌っているように思えます。でも、鈴木さんはオフコース創設時からずっと不満を感じていたわけではないでしょう。特に二人時代の名盤「ワインの匂い」制作の時期などは充実していたのではないかと思えます。また、メンバーを5人にした当初は戸惑いもあったでしょうが、その後のバンドのサウンドをどうするか試行錯誤していた時期も楽しめていたと思われます。

というわけで、この1番の歌詞は文字通り解釈できないと思います。

続けて、


友よ おまえが
俺と同じ男なら
走れ
Run on Main Street
長い長い冬に耐えてゆけ

と歌われます。「友」に呼びかけている形で歌われています。


ひとりつぶやく
何かがちがう
ひとりつぶやく
これでいいのか

いつも問いかけていたい
このまま
流されてゆくよりは

鈴木さんが「何かがちがう」と感じたのは79年年末の「さよなら」の大ヒット以降です。そしてその約1年後には小田さんに脱退を告げています。

つまり、この「メインストリートをつっ走れ」の頃は、鈴木さんの中では決着がついているんですよね。オフコースとか小田さんに対して「くやしい」とか「ちがう」とかは、この時点では通り過ぎた感情のはずです。

では、何に対して鈴木さんは歌っているのでしょうか。

それを表しているのが、繰り返される次の歌詞です。


友よ おまえが
俺と同じ男なら
走れ
Run on Main Street
長い長い冬に耐えてゆけ

そうです。「友」に対してです。それも、この「友」はあくまでも比喩です。実際には「将来の自分」に対してです。次の歌詞でより明確になります。


こんな生き方しか
...できない
いつも問いかけていたい
このまま
流されてゆくよりは

「いつも問いかけていたい」と歌っていますから。

将来の自分に対して、現状に甘んじることなく走り続けてゆけと問いかけているのです。他の人たちが何と言おうと、自分の信じる道がメインストリートであり、それを走り続けてゆけと未来の自分を叱咤激励しているのです。


走れ
Run on Main Street
長い長い冬に耐えてゆけ
Run on Main Street
悲しみ苦しみ越えて
走れ
Run on Main Street

鈴木さんは、東京工業大学の工学部制御工学科を卒業後、決まっていた就職先を蹴って音楽の道を選択したわけです。世間一般からすればエリートコースから外れた選択をしたかのように見えたでしょうが、鈴木さん御本人からすれば音楽がメインストリートだったのでしょう。

この歌の通り、鈴木さんは今までもメインストリートを走り続け、これからも走り続けていくでしょう。この「メインストリートをつっ走れ」は鈴木康博という一人の男の生き様についてのメインテーマなのかもしれません。

人として、メインストリートをつっ走る気概をもって生きていきたいものです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?