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オフコース&小田和正「雨の降る日に」その2 ワインの匂いと雨の匂い

オフコースの3枚目のアルバム「ワインの匂い」のA面1曲目「雨の降る日に」を前回取り上げたのですが、この曲の印象的なフレーズを拾ってみると

「別れ」「涙」「雨」「赤いパラソル」「あなたはひとり」等などをあげることができます。

これらのワードやフレーズから浮かび上がるものって、もうあれしかないですよね。このアルバムのタイトル曲「ワインの匂い」です。

ワインの匂い

つまり「ワインの匂い」を本編とすれば、「雨の降る日に」は序章とかプロローグに相当するものでしょう。

時系列的には、「ワインの匂い」「雨の降る日に」の順です。でも、ストーリーの流れとしては逆になります。


雨の降る日はいつでも
時はさかのぼる

とあるように、主人公にとって「雨」に強烈に結びついた彼女の記憶があるわけです。

雨が降れば、彼女を思い出さずにはいられない。それが「雨の降る日に」です。そして、その彼女を具体的に描いたのが「ワインの匂い」です。

その彼女は、ワインが好きで、別れた人を思ってピアノを弾いて、初めて主人公と二人で歩いたとき


私はもう誰も好きに
なることもない 今は
ありがとう あなたはいいひと 
もっとはやく会えたら

と言って、ひとりのままだった女性です。

ワインカラーと言えば赤です。彼女があの雨の日にさしていた傘の色はワインレッドだったはずです。ですから、


赤いパラソルには
あなたが似合う

という鮮明な記憶が主人公の脳裏に焼き付いているわけです。

あの雨の日、初めて主人公と彼女は二人だけで歩きました。彼女のワインレッドの傘を持ってあげた主人公。

静かに彼女の心を癒やそうとしますが、
♪やさしさがたりない
心がみえない

せいか、彼女は


私はもう誰も
好きになることもない 
今は 
ありがとう 
あなたはいいひと 
もっとはやく会えたら

と目を閉じたまま言います。その言葉に主人公は大きく溜息をついてしまいました。


あの雨の日 傘の中で 
大きくぼくがついた
溜息はあの人に聞こえたかしら

このサビのところが圧巻です。全盛期の小田さんの声がメロディにのって、それに鈴木さんのコーラスが重なって、すべてが心地よいです。

「♪溜息はあの人に♪」の後の鈴木さんの「♪ウーウーウーウーフー♪」の「フー」が主人公がついた溜息のようで、本当に主人公の落胆を表現していますよね。

この名曲「ワインの匂い」は、小田さんがユーミンのステージを初めて見たときにインスパイアされて作ったとか。

きっかけはどうであれ、小田さんの中にピアノを弾く女性のイメージがあり、それに雨のイメージが加わったのが「ワインの匂い」なのかもしれません。だから「香り」ではなく「匂い」を使ったのでしょうか。ワインだけなら普通は「香り」を使うと思うのですが、雨特有の匂いがあり、それも含めて表現したくて、敢えて「匂い」としたのかもしれませんね。
ただ、小田さんは他の曲でも「匂い」を使っているので、小田さんの感性かもしれません。

薄暗い雨の中をワインレッドの傘で歩く二人。辺りには、雨特有の匂いが立ちこめていた。

主人公には、ワインレッドの傘という視覚、雨特有の匂いという嗅覚、そして彼女の言葉という聴覚、これだけ感覚神経を揺さぶられれば、それはそれは、主人公にとって強烈で鮮明な記憶になったに違いありません。

私もこの「ワインの匂い」が大好きなのですが、こういう小田さんの言葉のマジックに知らずに魅了されていたのですね。二人の情景が見事に浮かんできます。そして、最後の歌詞が身体のあらゆる感覚器官を通して伝わってきて、私も思わず大きな溜息をついてしまいたくなります。

ちなみに雨特有の匂いは、科学的に研究されており、「ペトリコール」という名前がつけられているとか。

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